【日産 スカイライン 新型試乗】プロパイロット2.0は「使える」のか?見えない部分の進化とは…岡本幸一郎

日産 スカイライン 新型(GT Type SP ハイブリッド)
日産 スカイライン 新型(GT Type SP ハイブリッド)全 48 枚

日産でもっとも長い歴史を誇るクルマであり、常に新しいものにチャレンジしてきたクルマでもある『スカイライン』が、現行のV37型になり5年半が経過したタイミングで、見た目も中身も多岐にわたる変更が加えられた。

多くの人にとって気になっているであろう、最大の注目点である「プロパイロット2.0」からまずお伝えすると、既存の「プロパイロット」に対して、同一車線内だけでなく複数車線において運転支援の機能を拡大しており、車線変更支援や一定の条件下でハンズオフ機能を可能としたり、車線変更支援機能を備えた点が主な違いとなる。

プロパイロット2.0で出来ること

「プロパイロット2.0」操作ボタン「プロパイロット2.0」操作ボタン
センサーに7個のカメラと、5個のミリ波レーダー、12個のソナーを持つ車両周囲360度のセンシング情報と、組み合わせるナビゲーションにGPSに加えて画期的な「3D高精度地図データ」を用いているのが特徴だ。

基本操作は従来と同じだが、ステアリングスポーク右端に新たに車線変更支援スイッチが追加された。表示系は一新され、アニメーションで自車周辺の状況をわかりやすく示す機能が備わったのが大きな違い。ハンドル支援の作動状態は、表示色が白、緑、青と変わり、緑でハンズオン、青でハンズオフでの同一車線内走行が可能となる。

ハンズオフが可能となる条件は、3D高精度地図データが対応するエリアであること、中央分離帯があること、制限速度内であることなど。また、前提としてドライバーが前方をちゃんと見ているかどうかを車内に設置された赤外線カメラが常に監視していて、よそ見をすると警告が発せられる。

車線変更については約60km/h以上で走行中、条件が整った際にシステムから出た提案を承認するボタンを押した場合に作動が始まり、追い越しが完了すると同じ操作により元の車線にもどる。これをウインカーレバー操作により任意のタイミングで行なうこともできる。

同様に設定した目的地に対して、高速道路の分岐や出口でシステムから出された提案を承認すると車線変更が支援され、こちらは状況によってハンズオフが可能となる。なお、不確実な要素の多々ある合流には対応していない。

プロパイロット2.0は実際に「使える」のか

高速道での手放し運転を実現した「プロパイロット2.0」を試した。高速道での手放し運転を実現した「プロパイロット2.0」を試した。
隣りの車線を後方から接近してくる車両の有無など安全確認を確実に行なった上で車線変更を完了するまでをクルマに任せられるというのは本当に助かる。また、渋滞に対しても、これまで停止保持機能が3秒のみだったところ、約30秒まで追従走行が継続されるようになったのもありがたい。

走行時の設定速度については、標識検知機能により検知した制限速度が自動的に反映されるようになっているが、スイッチ操作により任意に調整したり、標識検知機能を反映させないようにもできる。

3D高精度地図データは想像を絶するほど膨大に緻密なデータを有しており、カーブの大きさに応じて適宜減速してくれるようになっているというが、それらしき動きも実車で確認した。

高速道での手放し運転を実現した「プロパイロット2.0」を試した。高速道での手放し運転を実現した「プロパイロット2.0」を試した。
と、これら諸々の機能について体感することはできたが、せっかくの機能が使える状況に少なからず制約があるのが惜しい。多くの機能は制限速度のプラス10km/hまでしか対応しておらず、それが実態とかけ離れていることも少なくない。クルマ側としては十分に作動可能な状況でも、交通法規が足かせとなって、せっかくの機能が使えないというのは、なんとももったいない話である。そのあたりが早く見直されるよう願わずにいられない。

その他、基本的な機能としては、ACCをセットした状態での追従走行時の加減速が巧みで、斜線の中央を維持して走行する機能の完成度も高く、ストレスを感じさせないものであったことと、ドライバーのオーバーライド操作に対して「寛容」なこと。他社ではオーバーライド操作をやめたあとの復帰の仕方が急激で、後続車等に迷惑をかけてしまいそうなものも見受けられるところを、このクルマは穏やかでちょうどよい按配の設定とされていたこともお伝えしておこう。

見えないところも進化していた新型スカイライン

日産 スカイライン 新型(GT Type SP ハイブリッド)日産 スカイライン 新型(GT Type SP ハイブリッド)
こうした先進の新機能はもとより、新型スカイラインは公式には伝えられていない部分も含めて、いろいろ改善されているようで、これまで気になっていたところにもかなり手が入れられているように感じた。

まず新型で全車標準装備とされたスカイライン独自の「DAS(=ダイレクト アダプティブ ステアリング)」について。これは中立から切り始めにかけて見受けられた曖昧なアソビがなくなり、微舵の領域からリニアに応答するようになったほか、従来は操舵と実際のタイヤの動きに微妙にズレがある(とくに戻し側)ように感じていたものがずいぶんと自然な感覚になった。

また、ハイブリッドの加速フィール自体も、モーターのトルクがより素早くリニアに立ち上がり、エンジンの吹け上がりがスムーズになり、サウンドもクリアになるなど、より気持ちのよいドライブフィールになったように感じられた。

日産 スカイライン 新型(GT Type SP ハイブリッド)日産 スカイライン 新型(GT Type SP ハイブリッド)
足まわりは、これまでストローク感が乏しく、つっぱった感覚もあり、従来は段差を乗り越えると突き上げたり、荒れた路面でバネ上が暴れがちだったりしたところが、いくぶんしなやかになり改善されたように感じられた。

ただし、ブレーキフィールは相変わらずもう一歩だ。同乗者に不快な思いをさせないよう細心の注意をはらって操作しても、クルマがそのとおりに反応してくれず、動きが読みにくいのも課題。また、乗り心地も多少よくなったとはいえ、まだ突き上げを感じるのは否めず。ちなみに今回は試乗できなかった「400R」には電子制御ショックアブソーバーが与えられ、そちらのほうが快適性が高いことも予想されるが、いずれにしてもハイブリッドでも選べたほうがよかった気はする。

スカイラインは往年の輝きを取り戻せるか

日産 スカイライン 新型(GT Type P V6ターボ)日産 スカイライン 新型(GT Type P V6ターボ)
一方のガソリンエンジン車は、これまでのダイムラー製2.0リットル直4ターボに替えて搭載された日産内製の3.0リットルV6ツインターボはなかなか妙味だ。不快な音や振動が小さく静粛性に、十分にパワフルで、吹け上がりもスムーズで気持ちよく走れる。遮音や吸音などクルマ自体の対策も従来はいささか行き届いていない感があったところ、新型は上々の完成度だ。

フットワークについても、よりクイックで軽快なハンドリングが楽しめる味付け。歴代スカイラインが持っていたスポーティさへの期待に応える、運転する喜びを感じさるモデルといえる。ただし、現状プロパイロット2.0や4WD車が選べないことは、念のためお伝えしておこう。

あとは、今回は事情により乗れなかった「400R」が楽しみであることはいうまでもない。

日産 スカイライン 新型(GT Type SP ハイブリッド)日産 スカイライン 新型(GT Type SP ハイブリッド)
最後にエクステリアデザインについて。第一印象としてはインフィニティのシルエットに無理に日産の顔を組み合わせた印象が強く違和感を覚えたものだが、今回、新型スカイラインを出すにあたり、あえてこうしたのは、V37型の登場当初から日産が日本市場を軽視していると評されがちだったことに対して、今後は日本市場ひいてはスカイラインファンをもっと大切にしていくという日産の意思表示あるいは決意表明としての意味合いが大きいように思う。

見慣れてくると、これはこれで大いにアリだなとだんだん思えてきた。聞けば売れ行きもまずまずで、中でも「400R」は比較的若い層の購入比率が高いというから興味深い。個人的にも好きなクルマであるスカイラインが、少しでも往年の輝きを取り戻せるよう願いたい。

日産 スカイライン 新型と岡本幸一郎氏日産 スカイライン 新型と岡本幸一郎氏

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★★

岡本幸一郎|モータージャーナリスト
1968年、富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報映像の制作や自動車専門誌の編集に携わったのち、フリーランスのモータージャーナリストとして活動。幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもスポーツカーと高級セダンを中心に25台の愛車を乗り継いできた経験を活かし、ユーザー目線に立った視点をモットーに多方面に鋭意執筆中。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

《岡本幸一郎》

岡本幸一郎

1968年、富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報映像の制作や自動車専門誌の編集に携わったのち、フリーランスのモータージャーナリストとして活動。幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもスポーツカーと高級セダンを中心に25台の愛車を乗り継いできた経験を活かし、ユーザー目線に立った視点をモットーに多方面に鋭意執筆中。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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