マツダ初のピュアEV『MX-30』はヒューマンモダン、ドアの開き方はあのクルマから…東京モーターショー2019[デザイナーインタビュー]

マツダデザイン本部チーフデザイナーの松田陽一さん
マツダデザイン本部チーフデザイナーの松田陽一さん全 22 枚

東京モーターショー2019でデビューしたマツダ『MX-30』は、マツダ市販車初のピュアEVである。そのデザインは一見EVとはわからない、一般的になじみのあるクーペスタイルのSUVだ。そこでデザイナーにその意図や特徴について話を聞いた。

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EVという概念にとらわれない

----:早速ですが、デザインのコンセプトから教えてください。

マツダデザイン本部チーフデザイナーの松田陽一さん(以下敬称略):一言でいうとヒューマンモダンです。おそらく皆がイメージするEVは、ハイテクで未来を表現したというのがステレオタイプの理解だと思います。しかし、それが本当に楽しいのか、というのが我々の開発の中の想いでありました。

そこでもっと人間味のある、モダンで新しさをこのクルマで表現しようというのがコンセプトのコアなところなのです。

----:今回、フルEVの市販車のデザインをすることが決まった時、最初に何を考えましたか。

松田:実は企画段階で悩んでいるから手伝ってといわれまして、それでは、とディメンションとかカスタマーの資料を見ながら会議に入って手伝っていたのです。そして気が付いたらチーフデザイナーをやっていた(笑)。その時は担当していたCX-3のローンチの後半でしたので、そちらをローンチしながらMX-30の企画段階から入って、気が付いたらどっぷり全身浸かっていたという感じでした。

従って、改めて考えたというよりも、マツダ初の量産EVという概念にとらわれなくてもいいのではないかというのが、企画などを見ながら噛み締めた感じでした。マツダMX-30マツダMX-30

----:その概念とは具体的にどういうことですか。

松田:先ほどいったEVだからとか、それから魂動デザインのど真ん中にある必要は本当にあるのか。企画の方からもこの機会をチャンスにして、新しい価値を作ろうということが大きなタイトルとしてありましたので、ちょっと新しい取り組みをしてみようかな、というのがどっぷり浸かりながらの過程で考えたことです。

----:マツダ初のフルEVということを踏まえると、現在のデザインはEVでなくても成立するイメージです。あえてこの世界観にしたのはどういうことなのでしょう。

松田: EVだからといってEVらしくしなくてもいい、というのがひとつと、親しみやすさや頼りがいのある雰囲気を表現したかったことです。基本的にマツダの開発、デザイナーも含めて皆クルマ好きなので、ほっといてもクルマになるというところがにじみ出ていると思います。

ロードスターのインパクトをMX-30でも

----:クルマに興味のない人たちがこれを見たらEVとはわからないでしょう。マツダがEVを訴求させる上でキーとなるのは、「普通」ということなのかな、とこのクルマを見て思いました。

松田:それがこのクルマの特徴だということを、主査とも開発の最初の方から話をしていました。実は、企画が始まった段階で、初代の『ロードスター』が出た時みたいなインパクトにしたいといっていました。

ロードスターは1980年代の後半にデビューしましたが、その時、V6やV8のFRスポーツカーが主流でした。そこにパワーもなく小さいクルマを出したら、世の中はものすごくそこを支持してくれました。そこがロードスターのスタートです。

MX-30も、世の中が大容量バッテリーで、未来的なデザインのEVという中に、マツダが考えるもっと身近な親しみのあるEVを出したいと考えていたのです。

EVのロードスターはありやなしや

----:マツダが作るフルEVだったらロードスター系でもよかったかなとちょっと思ってしまいますが。

松田:たぶん今のテクノロジーだと作れないでしょうね。まずバッテリーのサイズで、だいぶ小さくはなりましたが、床に積んでそこに人間が乗る空間を作っていくと、上下寸法はおのずと決まってきてしまいます。そして地上高をキープするタイヤの直径を入れていくと、今の技術でのパッケージングはクロスオーバーSUVの車形になるのです。

丸型の電池やラミネート型の電池を採用していけばいいのですが、今回我々は安全性などを考えそれを選ばず、しっかりとしたバッテリーパックを選択しました。その結果この車形が今の技術でできる最善のパッケージになったのです。しかし、僕も最初はロードスターだと思ったのですがね(笑)。

それから、スポーツカーはスポーツカー好きに対してのメッセージはありますが、そうではない人たちに対しては少しハードルが高いことも確かです。そこで、もっと広く運転が楽しいクルマが良いよということを、これを機会に体験してもらいたいということもありました。マツダMX-30マツダMX-30

しめ鯖のようなデザイン

----:このクルマのデザインとしてこだわったところはどういうところですか。

松田:自然な感じというのはずっとブレずにいようと思いました。そうはいってもマツダの魂動デザインの完成度と美しさは、外さずに徹底的にこだわっています。要素は減らしてすごくシンプルに見えますが、そこに加わる手数は他のクルマたちと変わらないぐらいの、実は凝った作りを入れています。

例えばフロントエンドでいうと、シグネチャーウイングやグリルの5ポイント表現をあえて封印していますが、強い表情は出したかったので、Aピラーからフロントグリルに向けて、立体のエレメントをぎゅっと収斂していくように丁寧に織り込んでいます。一見プレーンですが、立体の構築されている基礎のところでは、きっちり骨が通った立体を構成しているのです。それはリアも同じです。

それからショルダーラインは、ボンネットのネガ面が後ろにいくとなくなります。このように、あるものが溶けてなくなるという割と難しい表現をしたり、シンプルに見えますが、そこに起きていることは、ねじれを入れたり消したり出したりなどの変化をものすごく表現しています。印象では語りすぎないが、それを深く見ていくとものすごく語っているところが多いですね。

----:オーナーがこれを買って洗車をしたら改めて気づくというところがありそうですね。

松田:そうかもしれない(笑)。それがたぶん愛着になると思います。あまり普段は出しゃばらないですからね。そう、しめ鯖みたいなもの。生の魚を出したのではなく、そこに手数が入っていて昆布でしめてあって、深みのある味がある。ソースをかけるのではなくて。そして包丁でものすごく丁寧に切ってあって。マツダMX-30マツダMX-30

フローティングコンソールを採用

----:インテリアもかなりこだわっていると聞いています。

松田:最大のトピックはフローティングコンソールです。コンソールに必要な機能をぎゅっと集約したユニットにして、それを空中に浮かせる処理をしています。それはシフトが物理的なワイヤーで繋がっていないEVの特性を活かしたもので、そうすると物入れが作れるとか、様々な発想で新しい形式にして浮かせています。

このモダンさをさらに表現するのに、ヒーターコントロールがダイヤルである必要があるのか、ということで、エアコンのコントロールにタッチスクリーンを採用しています。マツダは安全や使いやすさにはこだわっていますので、タッチスクリーンで今のダイヤルと同じ安全性が担保できるような機能を持たせました。

ポイントは、大体手を出して大まかに触っていくのがタッチスクリーンですから、操作部位のサイズだけ大きくしたり、直感でわかるような仕様にするなど、そういうグラフィックのサイズなどを活かしながら、タッチスクリーンだからできる工夫を今回折り込んでいます。

タッチスクリーンのいいところは、クリック・フリップ・長押しができます。ワンクリックでコンマ5度、フリップで3度、長押しでマックスまでいくように設定しましたので、ダイヤルよりも使いやすくなっています。タッチスクリーンにはネガティブなところもありますが、良いところもありますのでそこを活かしきるようにしています。マツダMX-30マツダMX-30

またコルクをトレイ部やドアハンドルの一部に使用しています。これはもっと自然体で気持ちの良いものは何かというところで、カラーリストから提案があったのです。コルクはものすごく身近な天然素材で、タッチ感も良いしクッション性もあるのでこれを使わない手はない。

コルクを作るには、木を伐採するのではなく、成長したぶんの皮を定期的に剥いで作るのです。成長している間はずっと木を倒さないので、木はCO2を吸収しながら羊の毛のように取っていくものなので、環境に良い素材ということもわかりました。

----:自然由来のものは収縮するなど、工業製品にするのは難しいと思いますが。

松田:実はコルクはそれほど変質しないのです。第二次世界大戦以前ではエンジンのヘッドガスケットなどにも使われていましたので、天然の中では非常に安定した素材でタフなのです。それが戦後になって合成ゴムとかスチロールが発達したことで置き換わっていくのですが、元々工業製品の基礎部分の素材でした。実は、マツダは東洋コルクというところから始まってもいるのですよ。マツダMX-30マツダMX-30

あのクルマからノウハウを得たフリースタイルドア

----:さて、あえてフリースタイルドアを採用したのはなぜですか。

松田:まずデザインの理由からいくと、全体を身軽にするためにクーペルックのキャビンを採用しています。しかし、通常のドアだとCピラー周りをもっと四角くしないと人間が降りられません。しかしフリースタイルドアは前方に向かって人間が降りるので頭が通るのです。そうすると通常頭が通るリア側をより下げることができます。

それからコンセプト的に、いろんな人の使いやすさや、ドアを開けた時の仕様の様々な可能性をこのクルマで表現したかったので、見た目と提供体験を含めてこのドアを採用しました。

その発想ですが、我々には『RX-8』がありました。使っている人のフィードバックも貰っていますし、これが提供体験などの効果があることは(社内に)説明なしでも皆が知っているので、やっちゃおうよという感じで、決めた時は悩みませんでした。

ドアを開けた時の開放感については、センターコンソールも浮かせていますので、この景色はほかの量産車ではなかなか体験できないものです。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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