2LDK“H”になるスズキ ハナレ…東京モーターショー2019[デザイナーインタビュー] 

スズキ・ハナレ(東京モーターショー2019)
スズキ・ハナレ(東京モーターショー2019)全 13 枚

スズキ『ハナレ(HANARE)』は、自動運転車を想定し前後同じデザインが用いられている。どういうコンセプトでこのデザインが採用されたのか。また、なぜハナレというネーミングなのか、担当デザイナーに話を聞いた。

家の離れという存在

----:フロントとリアと呼んでいいのかわかりませんが、どちらも同じデザインが採用されています。そもそもこのモデルのデザインコンセプトを教えてください。

スズキ四輪商品・原価企画本部四輪デザイン部四輪先行デザイン課チームリーダーの遠藤拓磨さん(以下敬称略):車名の通り家の“離れ”です。狙いとしては家には2LDKとか3LDKなどがありますが、2LDK“H”といわれるくらい、もうひとつの部屋という存在でいてほしいという願いを込めています。

なぜパーソナルな自動運転車を作りたかったかというと、今自動車離れとかいわれている中で、どうやったらクルマを持つ喜びを持ってもらえるか、自動運転で今までにない価値観で作りたいと考えたのです。そこで家に付随するもうひとつの部屋を作ろうという願いを込めてデザインしました。

自動運転だからできるデザイン

----:すごく面白い発想だと思います。多くの自動運転に関するコンセプトカーがありますが、特に前後同じデザインにするというのはありませんね。

遠藤:アンチテーゼではありませんが、そういうデザインをいっぱい入れています。

----:その他にどういうところがあるのですか。

遠藤:例えばこのクルマは家の横に置いたときに、これまでのウィンドウの大きさではちょっとプライベート感が出ないと思います。もっと個室感、秘密基地感を出したいのであえて狭いウィンドウグラフィックを採用しました。自動運転なので外を見て運転することはありませんので、このくらい小さくても、明かり取り、木漏れ日が入ってくれる程度で十分なのです。そういうデザインにチャレンジしています。

そのほかにも今までの自動車の価値観を持っていると違和感がたくさんあるでしょう。しかし、それは自動運転だからこそ達成できる新しいスタイリングの定義なのかもしれないですよね。スズキ・ハナレ(東京モーターショー2019)スズキ・ハナレ(東京モーターショー2019)

2040年の温かい未来

遠藤:例えば、自動運転になったらハンドルをどうするか、では思い切って取ってしまおう。実際にこのクルマを3900mmという全長で、例えば『ソリオ』とほぼ一緒です。しかしボンネットフードやインパネがなくなるとこんなに広くなる。ではこの空間をどう使おうかと、ゆったり座れるシートや、床がせり上がって小上がりのように使えたり、そういうシートも考えています。座り方の自由度が高く、色々な座り方もできるというところが狙いです。

なぜ色々な座り方をさせたいか。床に座ったときの目線の低さやシートに座ったときの目線の高さの違いは家ではよくある光景ですよね。リビングのダイニングテーブルに座っている人、ソファに座っている人、床に座っている人。そういう家にあるような空間のワンシーンをこの空間で表現したいなと思っているからです。

インテリアは2040年を想定しています。どうしても未来を語ろうとするとクールであったりSFっぽかったりするところにたどり着くのですが、僕らとしては温かい未来を表現したいと、間接照明で温かみのある光や、シートのファブリックも家のリビングにあるようなちょっと優しい色使いにしています。

開発途中でこのクルマは土足なのか靴を脱ぐのかという壁にぶち当たりました。そこでコルクはどうだろうと考えたのです。土足でも地べたに座っても、なんとなくいいよねという素材に行き着きました。なんでもかんでも防水加工とかできるかもしれませんが、かえってこういうナチュラルな素材を使うことによって温かみのある未来感というものを表現できるかなと思っています。

----:大体は木を貼るなどが多いですが、コルクはいい発想ですね。

遠藤:今は本物のコルクを使っていますが、将来としては色々なリサイクル材を集積して固めたようなもので表現しても良かったかもしれない。これからやっていくCMFの未来のひとつのアイディアとしてはいいかもしれません。スズキ四輪商品・原価企画本部四輪デザイン部四輪先行デザイン課チームリーダーの遠藤拓磨さんスズキ四輪商品・原価企画本部四輪デザイン部四輪先行デザイン課チームリーダーの遠藤拓磨さん

ただの四角にしないのは公共モビリティではないから

----:エクステリアとしては前後周りのデザインは特徴ですね。少し丸みを持たせて柔らかい表現をしています。

遠藤:ただの四角にならないためにはどのようにしたら柔らかい線使いになるかにトライしました。単に直線と直線をRでつなげただけだとただのサイコロになってしまいます。線をつなげる柔らかさは、カースタイリングデザイナーだからこそできるテクニックです。

単に角を落としているわけではなく、途中からアプローチを変えるなど。そういう表情使いはカースタイリングではよく使うテクニックです。それをやらないとおそらく電車みたいになったり、公共モビリティのひとつになってしまうでしょう。そういう温かみのあるスタイリング、親しみのあるデザインにはそういうテクニックが必要かなと思っています。

----:目指すところは公共モビリティではないということですね。

遠藤:そうです。所有する喜び、所有欲を満たすというところは達成したいと思っていますので、そこは絶対にやっていきたいのです。

実は僕もこのインテリアデザインのスケッチを何案か描いているときに、公共モビリティになってしまって皆首を傾げてしまったものです。何が違うのだろうと、ひとつひとつ家の空間は何だろう、部屋でどのように過ごしているのか、そういうことを自分でもう一度見つめ直しながらデザインしました。未来への一歩を進めるためのテーマの参考にしてもらえればと思います。
【動画】東京モーターショー2019は“未来のモビリティ社会”をプレゼンテーション。臨海副都心エリアを広く活用したショー会場全体の様子を動画で紹介す…

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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