MaaS時代における鉄道会社の生存戦略…京浜急行電鉄 新規事業企画室 主査 橋本雄太氏[インタビュー]

京浜急行電鉄株式会社 新規事業企画室 主査 橋本 雄太 氏
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京急はMaaSについてどう考えているのだろうか。スタートアップとのオープンイノベーションによって新たなモビリティの顧客体験の創出を進める京浜急行電鉄株式会社・新規事業企画室の橋本雄太氏に聞いた。

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モビリティとは“暮らしの起点”

---:京急にとってモビリティ、MaaSとは?モビリティを自動車、 そしてMaaSを自動運転と考える方もいて、人により理解は異なりますね。

橋本氏:京急は2018年に120周年を迎えました。京急沿線は、新幹線が発着し次世代型交通ターミナルの開発構想が進む品川、日本の玄関口になる羽田空港、産業や住宅街が集積する川崎・横浜、観光地としても注目されている三浦半島といったポテンシャルの高い地域がたくさんあります。事業ポートフォリオとしては、鉄道・バス・タクシーなどの交通事業、スーパー・百貨店などの流通事業、オフィス・住宅などの不動産事業、ビジネスホテルなどのレジャー・サービス事業があり、保育園、家事代行など生活に密着した事業も展開しています。

モビリティとは、暮らしの起点であると理解しています。通学、通勤、買い物、レジャーなど、人は移動しないと生きていけません。暮らしの起点である移動を考えることは、豊かな暮らしを考えることにつながると思っています。

一方で、京急を使ってくださるお客さまや沿線の住民の方のニーズは、インターネットやスマートフォンの普及、デジタルを活用したあらゆるサービスの高度化などにより、急激に変化しています。私たちもその変化に合わせて変わっていく必要があります。

MaaSとは“ライフスタイル変革”

橋本氏:京急が考えるMaaSは単にマルチモーダルのアプリを作り、利便性を向上させるというだけでなく、沿線に住む人々のライフスタイルを変革することであると捉えています。以前より提供してきた交通、流通、不動産などの機能は、現状バラバラに分かれています。これらのデジタル化を進め、さらにユーザーのニーズを捉えて、付加価値を加えて応えていく必要があります。

現在、当社にはMaaSを専門とする部署はありませんが、各々の事業部でモビリティ変革を起こすために、地域の他のステークホルダーのみなさんと一緒になって動いています。

---:御社のビジネス環境の変化をキャッチした方向性ではないでしょうか。MaaSが目的化しているところもあります。

老舗とスタートアップのwin-winの関係構築「アクセラレータープログラム」

橋本氏:当社に限らず、既存企業はどうしても自前主義になりがちで、新しい発想で柔軟に動くのが苦手になってきています。そこで失敗を恐れずアジャイルに動けるスタートアップと組むことで、変化の速い時代に合わせていけるのではないかと考えています。

一方で、スタートアップの悩みは、せっかく良いアイディアや技術があったとしても、信用や実証できる機会がなく、まとまった顧客からのフィードバックが得られないなどが挙げられます。京急は、それらの課題を解決するリアルなアセットが充実しているので、京急とスタートアップはwin-win(ウィンウィン)の関係を築くことが可能です。

そこではじめたのがスタートアップとのオープンイノベーションを加速させるための「京急アクセラレータープログラム」です。スタートアップからテーマに応じた事業共創プランを募集して、採択企業とは、プログラム後の資本業務提携を視野にいれた実証実験を行います。期間を決めて、京急グループの持つアセットをフル活用して集中的に行うことにより、成果が出しやすくなっています。

募集テーマは、第1期は宿泊、農業、インバウンドなど多様でした。第2期以降は「モビリティを軸として豊かなライフスタイルの創出」をビジョンに掲げ、“モビリティ”と、その周辺のライフスタイル領域に絞っています。

第2期には102件の応募があり、その中から選ばれた5つのスタートアップは、人の移動体験そのものの向上や、移動前後の顧客体験を生み出すことのできる事業を展開しています。駅前などで傘のシェアリングサービス「アイカサ」を展開する「Nature Innovation Group」、荷物預かりのシェアリングサービス「ecbo(エクボ)」、エアモビリティの創出を進める「AirX」、相乗りマッチングアプリの「NearMe(ニアミー)」、観光型のAIチャットボットや予約機能を持つ「tripla(トリプラ)」です。

---:アイカサは駅前でよく見かけるようになりました。自動車に乗らない首都圏の生活をする人にとって、傘は必需品です。ずっと持ち歩くことができないので、急な雨には大変困ります。NearMeも既存のタクシーへの送客サービスとして、タクシー業界やユーザーにも非常に喜ばれていますね。

橋本氏:「tripla」の実証実験では、ビジネスホテルチェーン「京急イーエックスイン」の全15館すべてに導入して、効果検証を行いました。当社側ではサービスの質向上やお客様の声を拾うことができ、デジタル化が顧客体験の向上に役立つことが分かりました。また、tripla側としてはシステムの改良にホテルの現場の声を反映することができ、新たな予約システムも共同開発しています。このような小さな成功体験を京急のフィールドを使って積み重ねることで、既存のモビリティとの連携にもつなげることが可能になります。

---:モビリティにビジョン、テーマを絞った効果は?次の第3期の募集は?

橋本氏:ビジョンをモビリティにフォーカスすることにより、選出されたスタートアップ間での連携も生まれ、よいエコシステムが構築できています。第3期も同様のビジョンで、冬頃に募集開始いたします。

---:アクセラレータープログラムのその他の活動は?

橋本氏:この領域に関わるスタートアップ、大手企業、VCなどによるイノベーション・エコシステムを広げていくため、品川駅高輪口に「AND ON SHINAGAWA(アンドオンシナガワ)」というオープンイノベーション拠点を作って、月に3~4回程度、モビリティに関係するスタートアップによるピッチイベントや、大手企業を集めた勉強会などを開いています。イベントには、モビリティに直接関わらない異業種の方もたくさん参加されており、この領域の盛り上がりを肌で感じています。

“MaaSシフト”の中で、いまやるべきこと

---:MaaSアプリに対してどう考えていますか?

橋本氏:正直、まだどうなるか分からないというのが本音です。MaaSアプリを鉄道会社が作ると利用者にとって本当に便利なのか、という疑問もあります。ただし、事業者間のデータの活用・統合は確実に進み、いずれにせよモビリティのプラットフォームが生まれていくことになると思います。

そのような時に一番避けたいことは、プラットフォーマーに規格化されたサービスを提供するだけの土管的な立場になってしまうことです。私は新卒で大手新聞社に入りましたが、移動手段と同じように、紙媒体のマスメディアにも変革の波が一足先に訪れました。かつて新聞社は情報のプラットフォームも含めて握っていましたが、現在はポータルサイトなどのプラットフォーマーにとって代わられています。それらの広告収入は新聞社のそれを遥かに凌ぐ規模に成長しており、新聞社は良質な記事を作ることは出来るものの、ビジネスの成長戦略を描きにくくなっています。

これからの「MaaSシフト」の時代に価値ある企業として京急が生き残るためにも、2つの戦略を進めていく必要があります。1つめは、既存事業のDX(デジタルトランスフォーメーション)です。テクノロジーを活用し、データの収集を進め、AI等の活用による需要予測などによって顧客体験と、生産性を高めていかなければいけません。2つめは、ユーザーの抱える課題を深掘りし、必要とされる新しいサービスやコンテンツを次々に生み出し続けることです。新しい顧客体験の創出し、顧客とのタッチポイントをしっかりと握ることで、真の競争力が生み出されていくと考えています。

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《楠田悦子》

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