【池原照雄の単眼複眼】マツダ、魂動デザインを実現する生産・デザインの強力タッグ

マツダ ツーリング製作部の熟練技能者による金型の磨き仕上げ
マツダ ツーリング製作部の熟練技能者による金型の磨き仕上げ全 4 枚

金型の技術力がコスト競争やデザイン自由度に直結

マツダが今年から新世代商品群として『マツダ3』(国内旧名称はアクセラ)と、新型SUVの『CX-30』を市場投入した。2012年発売の『マツダ6』(同アテンザ)から展開してきた魂動デザインも進化させ、車体全体がひとつの面のように造形され、異彩を放つ。量産でのデザインの忠実な再現にはプレス、車体組み立て、塗装といった生産技術力がモノを言う。自動車メーカーとしてはスモールプレーヤーならではの生産・デザイン両部門の密な連携により、高難度デザインを実現させている。

このほどマツダの広島本社で開かれたメディア向け生産技術・工場取材会で、その取り組みの一端が公開された。ボディーの造形を決定づけるのは、何と言っても鋼板を2つの型で挟んで加工するプレス金型の技術力だ。車体の部品は部品メーカーへの外注が多く、その際に使われる金型も専門メーカーに外注するケースが圧倒的に多い。

ただし、主要な部品の金型は自動車メーカーが自ら手掛ける。マツダでは約200人が従事する「技術本部ツーリング製作部」という部署で、デザインに関わるドアやフェンダーなどの外板部品、および強度が極めて強い高張力鋼板を使う部品の金型などを内製している。プレス金型は設計部門から示される部品の3Dデータを基に、高硬度の鉄のかたまりを機械で削り、さらに磨くことで型を仕上げる。

だが、例えば鋼板を深く絞り込むようなデザインの部品だと鋼板が割れてしまうので、部品を分割したり、デザインを変更したりすることになる。部品を分割すれば工程が増えてコストアップになるので、金型を中心とするプレス技術の優劣がデザインの自由度やコスト競争力にも直結するわけだ。

デザイナーやクレイモデラーの想いを忠実に

マツダは、魂動デザインの立ち上げ以来、金型技術にも文字通り磨きをかけてきた。「デザイナーやクレイモデラー(粘土模型の製作者)の想いがこもった魂動デザインを、お客様に忠実にご提供したいという一心で取り組むようになった」(ツーリング製作部の橋本昭部長)という。

プレス成形する部品の精度を高め、難度の高いデザインを忠実に再現するには、金型の寸法精度や表面粗さなどを改善する必要がある。ツーリング製作部では金型の機械加工については「魂動削り」、磨き工程は「魂動磨き」と呼ぶ名称を付けてモチベーションも高め、精度や表面粗さの改善に取り組んできた。精度については魂動デザイン以前と、CX-30など最新の新世代商品向け金型の比較では5倍の向上が実現できたという。

金型製作現場のこうした取り組みを加速させたのは、デザイン部門との連携を強化する仕組みが大きい。新モデルのデザインを早い段階から関係部門間で共有する「デザインカスケード」というものだ。新モデルの着色されたクレイモデルが完成した段階で、ツーリング製作部など関係部署がデザイン部門からのプレゼンテーションを受け、デザインに込められた想いを共有していく。カスケードには「連なっている」状態を示す意味があるので、部門間の連携強化を込めている。

極秘中の極秘事項を金型部門全員も共有

こうした仕組みは2009年にデザイン本部長に就き、魂動デザインの導入をリードしてきた前田育男常務執行役員(デザイン・ブランドスタイル担当)の発案による。生産技術や製造の現場を巻き込み、社員個々の能力を引き出す狙いであり、前田常務は「ヒエラルキーのようなものはいらない」と話す。つまりこの場合、デザイナーを頂点とする社内の「階層」は不要ということだ。

もっとも、自動車メーカーにとって新モデルのデザインは「極秘中の極秘事項」(ツーリング製作部の橋本部長)であり、開発の初期段階から200人に及ぶ金型の製作スタッフ全員まで開示するマツダのやり方は、極めて特異なケースとなる。しかし、同社はデザインの漏洩リスクより、金型など現場スタッフのモチベーションを高める方が魂動デザインを再現するうえでメリットが大きいと判断しており、実際、そうした成果を得ている。ただし、従業員数の多い巨大メーカーでの導入はリスクが高まり、難しいのかもしれない。

新世代商品で進化した魂動デザインは、ドアやフェンダーといった「面」の表現に留まらない。マツダ3ではフロントピラーを旧モデル比でおよそ20mm細くし、見栄えや視界を良くした。ピラーのインナーパネルに高張力鋼板を採用し、細くて強いてピラーにした。

また、CX-30ではドアとドアおよびドアとフェンダーのすき間をマツダ車で一般的な3.5mmから3.3mmに縮めている。すき間ではなくドアなどパネル全体に人の視線を向かわせるというデザインの狙いを具現化したのだという。いずれもレベルの高いプレス技術によるものであり、こうした視点で改めて当該部品を観察するのも面白い。

《池原照雄》

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