「電動キックボード」は日本で普及するのか? 東南アジアでは一進一退【藤井真治のフォーカス・オン】

「電動キックボード」は日本で普及するのか?写真はインドネシアでグラブが始めた「e-scooter」
「電動キックボード」は日本で普及するのか?写真はインドネシアでグラブが始めた「e-scooter」全 2 枚

東京モーターショーでも試乗スペースが設けられちょっとした人気コーナーになっていた「電動キックボード」。日本に先駆け欧米や東南アジアではすでに普及が進んでいる乗り物だ。

「電動キックボード」は手軽なサイズでお洒落な一人乗りの移動手段として、またドアツードアのモビリティの救世主だ。スマホ予約やネット決済との組み合わせによって、借りて、使って、返して支払う、全てのプロセスでの簡単さが普及の原動力になっている。

しかしながら、道路インフラや使用者のマナー次第ではトラフィックを乱す「ちょっと危ない乗り物」としての性格を持っており、シンガポールなどでは規制の動きが顕在化しているのもまた現実である。

ジャカルタに突然現れたグリーンカラーの電動キックボード

「電動キックボード」は日本で普及するのか?写真はインドネシアでグラブが始めた「e-scooter」「電動キックボード」は日本で普及するのか?写真はインドネシアでグラブが始めた「e-scooter」
世界第4位の人口を抱えるインドネシアの首都ジャカルタ。高層ビルや超高級アパートが立ち並ぶスディルマン通りに突然グリーンカラーの電動キックボードが走り始めた。シェアバイクやシェアタクシーでここ数年急速にビジネスを拡大させた「グラブ」が始めた「e-scooter」と呼んでいる新しいMaaSビジネスである。

最近開通した地下鉄駅周辺の空きスペースなどに「e-scooter」が数台停車できるステーションがあって、利用者はスマホアプリでQRコードを読み取って解錠すれば利用ができる。目的地近くの駐車ステーションもスマホで教えてくれる。料金も30分5000ルピア(約40円)とお手頃となっている。

現在のところ必要な移動手段プラス楽しさが売りか

世界一歩かない国民と言われているインドネシア人も流石にクルマでは地下鉄などの駅からオフィスの玄関や近くのショッピングモール玄関までの移動は足に頼らざるを得ない。グラブが始めたこの「e-scooter」はそうしたモビリティ・ニーズに応える事ができ、今後インドネシア各地での普及が進むと思われる。

筆者も東京モーターショーのブースでインドネシアの「e-scooter」とにたタイプの電動キックボードに乗ってみたが、舗装路の上を滑るように走る感覚が味わうことができ大変楽しい乗り物だと感じた。しかしながら、路面状態への対応やスピードの調整など、ちょっとした運動神経が必要で運動能力の衰えた老人にはちょっとハードな乗り物である事は確かである。また、雨の日はどうするの?という疑問も浮かぶ。

そこは平均年齢28歳の若い国で、自己顕示欲も旺盛なインドネシア人気質。実際利用している人たちを観察してみると必要な移動手段というよりは、通勤の気晴らしや余った時間に周辺をツーリングといった人たちが今の所は多いようだ。

シンガポールは規制の動き、日本では普及するか

東京モーターショー2019で試乗体験をおこなっていた電動キックボード東京モーターショー2019で試乗体験をおこなっていた電動キックボード
一方、MaaSやシェアリングビジネス先進国のシンガポール。数年前から電動キックボードが自然発生的に普及し始め、すでに数万台規模で普及が進んでいる。インドネシアとは異なり実に様々なタイプの電動キックボードを見かける。折りたたみ式で地下鉄に持ち込めるものや座ったまま運転ができるものなど実に様々である。また使用形態も、個人で所有しているもの、旅行者が使うレンタル形式、ちょっととした移動につかい乗り捨てのできるシェアリングタイプなど様々だ。移動ニーズの異なるユーザーに合わせたビジネスモデルが花盛りといえる。

シンガポールは道路インフラが進んでいるとはいえ、ここまで普及すると歩道での歩行者との接触事故など安全面での問題も顕在化していて、政府は一定のルール下での使用許可という方針変更を打ち出している。スピード制限など商品の規格化や車両保有の許認可制、走行道路の自転車道への限定などである。

さて、規制でがんじがらめの日本でも最近政府主導でこの電動キックボードの検討が行われているようだ。現在のところ電動キックボードは「原動機付き自転車」扱いとなり、免許が必要でかつ車道しか走れない。厳然と立ちはだかる規制や道路インフラも考えると普及のハードルは大変高いだろう。個人的には若い人たちが多い大学の構内や広い公園といった場所での移動手段としては充分にマッチすると考えられるのだが。

楽しくオシャレに移動ができるちょっと危険な乗り物は平均年齢48歳の日本では移動手段としての一定のポジションを築くことができるだろうか?

<藤井真治 プロフィール>
(株)APスターコンサルティング代表。アジア戦略コンサルタント&アセアンビジネス・プロデューサー。自動車メーカーの広報部門、海外部門、ITSなど新規事業部門経験30年。内インドネシアや香港の現地法人トップとして海外の企業マネージメント経験12年。その経験と人脈を生かしインドネシアをはじめとするアセアン&アジアへの進出企業や事業拡大企業をご支援中。自動車の製造、販売、アフター、中古車関係から IT業界まで幅広いお客様のご相談に応える。『現地現物現実』を重視しクライアント様と一緒に汗をかくことがポリシー。

《藤井真治》

藤井真治

株式会社APスターコンサルティング CEO。35年間自動車メーカーでアジア地域の事業企画やマーケティング業務に従事。インドネシアや香港の現地法人トップの経験も活かし、2013年よりアジア進出企業や事業拡大を目指す日系企業の戦略コンサルティング活動を展開。守備範囲は自動車産業とモビリティの川上から川下まで全ての領域。著書に『アセアンにおける日系企業のダイナミズム』(共著)。現在インドネシアジャカルタ在住で、趣味はスキューバダイビングと山登り。仕事のスタイルは自動車メーカーのカルチャーである「現地現物現実」主義がベース。プライベートライフは 「シン・やんちゃジジイ」を標榜。

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