【ホンダ N-ONE RS 800km試乗】8年目のN-ONEは、今なおファンなクルマだった[前編]

ホンダ N-ONE RSのフロントビュー。RSはローダウン型で、標準型に比べて屋根が平べったい。
ホンダ N-ONE RSのフロントビュー。RSはローダウン型で、標準型に比べて屋根が平べったい。全 21 枚

ホンダの軽スポーティハッチ『N-ONE RS』で800km弱のツーリングを行う機会があったので、インプレッションをお届けする。

【画像全21枚】

N-ONEは7年前の2012年秋にデビューした5ドアハッチバック。全高1.6m級のトールワゴンボディであったが、3年後の2015年、高さ制限1.55m以下の立体駐車場に入れられるローダウン型が登場。全高を65mm下げるには、オリジナルのふくらみの強い屋根をカットするだけでは足りず、サスペンションもばねレートを上げて10mmダウンを稼いだ。RSはそのローダウンを基本としたもので、現在、ローダウンとターボエンジンの組み合わせはRSのみ。ホンダの他のRSモデルと違ってサスペンションは特別にしつらえられたものではなく、デコレーションモデルである。

ツーリングコースは東京を起点に栃木から福島の南会津へと向かい、そこから奥尾瀬、新潟の奥只見経由で小出へ。帰路はスキー場の集積地三国山脈から関東平野へ戻ってくるというコース。本来は600km級なのだが、途中で所用のための寄り道があったため700kmに。さらに東京モーターショー最終日の取材にも使ったことから、800km弱にまで距離が延びた。道路比率は市街地3、郊外路4、山岳路3で、高速道路には乗りそびれた。路面状況はドライ8:ウェット2。1~2名乗車、エアコンAUTO。

では、N-ONE RSの長所と短所を5項目ずつピックアップしてみよう。

■長所
1. 良路ではきわめて良くまとまっているファンな操縦性。
2. ロードノイズや路面のざらつき感のカットが秀逸。
3. 前後席とも居住性が良く、乗降性にも優れる実直なパッケージング。
4. 手の届くところに小物入れが豊富であるなど、あふれるマイルーム感。
5. ベビーツアラーとしての資質十分な疲労の少なさ。

■短所
1. 悪路になるとサスペンションの固さが裏目に出て安定性が低下する傾向があった。
2. 疲労は誘発しないが乗り心地の揺すられ感が強め。
3. 安全・運転支援システムが時代遅れ。
4. シートが秀逸極まりなかった初期型に比べてグレードダウン。
5. デビュー当初に比べて内外装のデザインが微妙にダサくなった。

今もなおファンなクルマだった

ホンダ N-ONE RS。福島の山間部、檜枝岐村にて。ホンダ N-ONE RS。福島の山間部、檜枝岐村にて。
先進的かつ丁寧な作りの軽スペシャリティとして登場したN-ONE。だが、モデルライフ途中で適切なアップデートがなされなかったこともあり、8年目に入った今日ではいろいろな部分で旧態化が目立つようになってきた。先進安全・運転支援システムの欠如は主流派を張るのには致命的であろうし、プラットフォームが一新された最近のホンダの軽自動車に比べると乗り心地は揺すられ感が強く、操縦性もしなやかさに欠ける。

軽自動車の用途の大半を占める短距離のシティライドが主体であれば、独特の可愛らしいデザインが好きということ以外にN-ONEを積極的に選ぶ理由はない。だが、クルマというものは面白いもので、ローテクであっても魅力的というケースはままある。こと遠乗りに関しては、N-ONEは今もなおファンなクルマだった。

初期型に比べるとタッチは悪くなったが依然として疲労の小さなシート、旅の高揚感を高める良好な前方~側方視界、手の届く範囲に収納場所が豊富に設置され、運転席に座っているだけでいつまでも走れてしまいそうなマイルーム感等々。今回ドライブしたRSはローダウンサスペンションと165/55R15サイズのタイヤのコンボによって、敏捷性も十分だった。

今回走った国道352号線のような道幅の狭い山岳路では、小さくて足のいいクルマというメリットがとりわけ生きた。時折訪れる対向車との離合もほとんどノーストレスであるし、見通しのいい区間では狭い道幅の中でもライン取りの選択肢が広く、走りも楽しめる。N-ONE RSは走りのしなやかさや路面変化への追従性ではダイハツの『ミラトコット』に負けるが、路面状況が良いところでの速さは断然勝っており、疲れの小ささでは互角。国産勢の軽自動車やAセグメントミニカーの中で、この2モデルは出色のベビーツアラーだ。

チャキチャキ走る味付けの走行フィール

タイヤは165/55R15サイズのブリヂストン「B250」。固いタイヤだがロードノイズはクルマの側でよく遮断されていた。タイヤは165/55R15サイズのブリヂストン「B250」。固いタイヤだがロードノイズはクルマの側でよく遮断されていた。
では、要素別に見ていこう。まずは走行フィールについてだが、基本的にはサスペンションを深くロールさせるのではなく、固いサスペンションでロールを抑え、タイヤの変形を生かしながらチャキチャキに走るという味付けであった。

装着タイヤは165/55R15サイズのブリヂストン「B250」。ハイグリップタイプではないが、サイドウォールの丈は極薄の部類に属する。ホンダはそのタイヤを210kPa(2.1kg/cm2)という、今日基準ではかなり低めの空気圧で使っている。その薄いタイヤの微妙な変形をステアリングを介して感じながらのドライブはどことなくカートライクで、リズミカルにコーナーを抜けていくのは爽快。ブレーキング旋回の反応も上々で、腕に覚えのあるドライバーであれば山岳路でもかなりの速さを発揮できるであろう。

現在では廃版になっているが、以前N-ONEには子会社のホンダアクセスがセッティングを行った「モデューロX」というグレードがあった。そちらは積極的にロールを使い、接地感重視でぐいぐい走るという味付け。筆者は後者のタイプのセッティングが好みだし、一般的にみてもそっちのほうがより現代的というものであろうが、RSの古典的な楽しさを否定するつもりはないし、実際楽しめた。

RSエンブレムRSエンブレム
この足の弱点は、サスペンションの上下振幅の抑制がいささか過剰であるため、荒れ道になると接地性が顕著に低下すること。とくにコーナリング中に大き目のギャップを拾うとリアの荷重が抜け気味になりやすかった。チャキチャキな走り味は良路限定と言える。ただ、今回走った国道352号はルートこそ山奥なものの、舗装面の状況はおおむね良好で、ネガが顔を出したのは奥只見湖周辺の一部区間や枝折峠区間くらい。そういうところはゆっくり走るということにすれば、実害はないであろう。

平地での走り味はツーリング向き。と言っても、直進性が際立って良いというわけではない。日進月歩の自動車工学のおかげで今や、軽自動車でももっとクルーズ性能がいいクルマはいくつもある。N-ONEの良さは性能とは別の部分にある。デザインの関係でボンネットの両端の峰が常にはっきり視界に入るため、意識しなくても進路を保ちやすいのだ。また、大きな荷重移動を伴う山岳路のようなシーンでなければ、ワダチなどちょっと大き目の外乱を食らったときの進路の乱れはむしろ小さいほうで、それもクルーズにはプラスであった。

固め、だがロングドライブ耐性は優秀

奥只見ダム湖畔を行く。奥只見ダム湖畔を行く。
次に快適性について。N-ONE RSの乗り心地はハッキリ固めで、とくにアンジュレーション(路面のうねり)や段差を拾ったときの揺すられ感、突き上げ感は結構強めに出る。ノーマルも揺すられ感はそんなに小さいほうではなかったが、ローダウンモデルはそれよりさらに強い。その足に15インチホイールの薄型タイヤを履かせたのだから、フラット感が落ちるのはある程度致し方がないというものだろう。

一方で、路面のざらつきの吸収やタイヤノイズ遮断は最新の先進的な軽自動車と比べてもそん色ないくらい良い。ブリヂストンB250はそれほど滑らかなタイヤではないのだが、それでこれだけ滑走感を出せれていれば十分であるように思われた。

面白いのは、揺すられ感が強いにも関わらず、ロングドライブ耐性は依然として優秀で、疲れをほとんど感じなかったことだ。基本的には揺すられ感が強いクルマは疲れも出やすい傾向があるのだが、疲労の要因というものは実に複雑怪奇で、固いのに疲れの小さいモデルもある。

筆者の経験したところでは、マツダの旧型『アクセラ』、ボルボ『V40クロスカントリー』などが、揺すられ感が強いのに疲労がごく小さいというギャップを持っていた事例。N-ONEもその一味に入れていいレベルにあった。1トリップ660kmを走り終えたときの実感に照らし合わせると、1000km程度のドライブをこなすのに何の不都合もなさそうであった。

初期型に対する不満はシート

前席。視界が良く、ツーリング感が高い秀逸なコクピット。前席。視界が良く、ツーリング感が高い秀逸なコクピット。
初期型に対して一点、不満があるとすればシート。RSのシートはモデルライフ途中で登場したデザイン性の高いもので、プライムスムースと名づけられた合成皮革と木目細かいダブルラッセル生地というゴージャスなコンビネーションだが、見た目のクオリティ感の高さとは裏腹に、タッチは初期型に比べて落ちる。

N-ONEはもともと高付加価値な軽ツアラーというコンセプトで作られたこともあって、初期型は素晴らしいシートがついていた。筆者は6年前の夏にN-ONEで東京~鹿児島3200kmツーリングを行っている。そのさいに驚かされたのが、一見簡素なシートの出来の素晴らしさ。疲れ知らずであるばかりでなく、シート表皮が身体に吸い付くようなフィールで、極端なバケット形状ではないにもかかわらず、シートとの摩擦のおかげで強めのGがかかっても体幹のブレが少ない。

それから数年後に開発者と話をする機会があったのだが、開発者いわく、シートメーカーと工夫を重ねたがなかなか納得のいくものができないでいるうちにスケジュールが押してしまったので、仕方がないからコストをかけていいから良いモノを作れということになったそうだ。結果、固さの異なるウレタンを2層貼り合せて身体の支持と体圧分散の適正化を両立させるという、Dセグメントサルーンのようなシート構造になったのだという。

RSのシートはそれに比べると凡庸。タッチに特筆すべき良さはなく、シート表皮が低反発ジェルのように身体にフィットしてブレを抑えるような特性もなくなっていた。カタログ写真を見る限り、ノーマルグレードは初期型と同じデザインのシートだが、中身も同じかどうかは不明。もし中身も同じであったら、ノーマルシートのほうがよかったのではないかと思った次第だった。

ただ、この評価はN-ONEの初期型との比較であって、国産勢の他モデルとの比較ではBセグメントサブコンパクトクラスまで含めても相当上位。シート骨格は初期型の設計の良さを継承しており、700km弱のドライブでは疲れの蓄積は皆無に等しかった。

後編ではツーリング感、パワートレイン、パッケージング、装備などについて述べる。

尾瀬近くのブナ林を行く。尾瀬近くのブナ林を行く。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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