【BMW 5シリーズ 1500km試乗】高速サルーンの標準形、シャシー性能は“ものすごい”[前編]

BMW 523d M Sport。大阪・関西国際空港にて。
BMW 523d M Sport。大阪・関西国際空港にて。全 26 枚

BMWのプレミアムEセグメントセダン『5シリーズ』で東京~関西を1500kmあまり走る機会があったので、インプレッションをお届けする。

【画像全26枚】

5シリーズは1972年に初代が登場した全長4.9m超のラージクラス。2016年に欧州デビューを果たした現行モデルはそれから数えて第7世代にあたる。モデルチェンジのスパンは平均で約7年。現在もそのインターバルがほぼ守られている。欧州ではメルセデスベンツ『Eクラス』、アウディ『A6』と、北米ではレクサス『ES』、およびEクラスと販売でデッドヒートを繰り広げている。

テストドライブしたのはセダン、2リットルターボディーゼル、スポーツサスペンション装備の『523d M Sport』。Eセグメントとあって安全・快適装備は標準でも盛り盛り状態だが、それに加えて半ドアでも自動的にドアを全閉にしてくれるオートクローザー、マッサージシート、新素材インテリア、グラスルーフなどのオプションも満載され、参考車両価格は950万円にならんとする豪華仕様。

ドライブルートは東京を起点とした関西周遊で、才媛到達地点は大阪市。総走行距離は1539.3kmで、道路比率は市街路3、郊外路4、高速2、山岳路1。路面コンディションはドライ7:ウェット3。1~3名乗車、エアコンAUTO。

では、523d M Sportの長所と短所を5つずつ列記してみよう。

■長所
1. 荒れたワインディングロードから高速道路まで一貫して保たれる抜群の走行安定性。
2. 調整機能が豊富でホールド性も十分な前席。
3. 背もたれ角が立ち気味で、前席と同様にリズミカルなドライビングを体感できる後席。
4. ヘッドアップディスプレイ、インストゥルメンタルパネルとも情報表示が知的。
5. エンジンルームからのノイズが非常に良くカットされている。

■短所
1. 日本仕様の特徴かもしれないが、以前のM Sportに比べて乗り心地が大幅に低下した。
2. 鞭のようなしなやかさが薄れ、重々しくなったドライブフィール。
3. 演出は派手だが独自色が希薄になった内外装。
4. 燃費は平均的だがBMWのブランドイメージを考えるともっと高効率でありたいところ。
5. BMWならではという世界観が希薄に。

高速サルーンの標準形

BMW 523d M Sportのフロントビュー。BMW 523d M Sportのフロントビュー。
まずは試乗トータルの印象から。523d M Sportは、機械的には超ハイクオリティかつ現代的に作られていた。パッケージングはオーソドックスかつ丁寧にまとめられており、重量配分から居住性に至るまで、高速サルーンの標準形というべき仕立てであった。線形溶接や接着工法を多用して作られたボディは頑健そのもの。シャシーの絶対性能は非常に高く、路面の荒れた和歌山のワインディングロードでもワイドタイヤを路面に食いつかせるように走った。

ドライビング以外では、操作系や情報表示が知的に作られていることも印象的。オーディオ、電話、ナビ、車両情報その他の情報が、ステアリングスイッチの操作と共にヘッドアップディスプレイに的確に現れ、メーターやダッシュボードのインフォメーションディスプレイを凝視するリスクから大幅に解放された感があった。こういう設計自体はどこのメーカーでもやっていることだが、欲しいと思う情報と実際の表示の一致性がこれほど高いクルマはお目にかかったことがない。

そんな523d M Sportだが、BMWの作るスポーティラインであるからには、単に高性能というだけですまされるわけがない。スポーツカーを追い回すような性能でありながら素晴らしく滑らかなライドフィール、体感とクルマの動きがぴったり一致する絶妙なチューニング等々、古くはMテヒニークと呼ばれていた時代から受け継いできたM Sportのテイストは、どう贔屓目に見てもほとんど消え失せていた。性能は確かにすごいが、こういう味でいいのなら正直、レクサスでもそこそこ行けるだろう。

欧州仕様に乗っていないので、この味が日本仕様特有のものなのか世界的なものなのかはわからないが、仮に日本仕様固有の味だったとしても、BMWがM Sportのバッジを付けるモデルの味をこれでよしとしたことに、自分の哲学を手放し始めている気配値のようなものを感じた次第だった。

シャシー性能は“ものすごい”

タイヤはミシュランのランフラットタイヤ「プライマシー3 ZP」。フロント245、リア275という極太サイズで、5シリーズの車体を速く走らせるには十分な能力を持つ。が、こんなサイズを履くならいっそ「パイロットスポーツ」あたりを装着してほしいところ。タイヤはミシュランのランフラットタイヤ「プライマシー3 ZP」。フロント245、リア275という極太サイズで、5シリーズの車体を速く走らせるには十分な能力を持つ。が、こんなサイズを履くならいっそ「パイロットスポーツ」あたりを装着してほしいところ。
では、要素別に見ていこう。まずは運動性能、操縦フィール、快適性などについて。

前段でも述べたが、523d M Sportのシャシー性能はものすごいものがあった。タイヤはハイグリップタイプではないミシュラン「プライマシー3」だが、サイズが前245、後275もあり、車両重量が同格のライバルのターボディーゼル車に比べておおむね100kg軽く作られることとあいまってグリップフォースは十分。

そのグリップがウェットコンディションの新東名のようなハイスピード領域だけでなく、和歌山の九度山のような路面の破損やアンジュレーション(うねり)だらけの荒れた山岳路まで、等しく発揮される。ラージクラスであるにもかかわらず、タイトコーナーの多い狭い山岳路での敏捷性はコンパクトクラスのホットハッチも顔色を失うほど。

リアのマルチリンクサスペンション。ロアアームは今どきのEセグメントとしては珍しく鋼板プレス材で、床下の気流を整える空力的付加物が。アッパーアームはH断面。リアのマルチリンクサスペンション。ロアアームは今どきのEセグメントとしては珍しく鋼板プレス材で、床下の気流を整える空力的付加物が。アッパーアームはH断面。
とりわけ素晴らしいのは、ダイナミック性能を小手先の技術ではなく、サスペンションのキャパシティを十分に取ったうえで、前後左右のGによるクルマの姿勢変化を理想状態にチューニングすることで得ている点だ。

軽く流すときもコーナーまでブレーキを残すようなドライビングのときも安定した前傾姿勢が保たれ、外側の前サスペンションがきっちり沈んでジオメトリー変化を出す。強くうねったようなところを通ろうがアスファルトの損壊場所を踏もうが、グリップがすっぽ抜けたり姿勢が変わってクルマが不安定になりにくい。

現代は電子制御による車両安定システムの技術進化がすさまじく、どんなクルマでもある程度の性能は出せる時代だが、ベースとなる物理的な部分の作り込みにこだわっているあたり、いかにもBMWらしい。523d M Sportはハイウェイクルーズでも見事な直進性と横風耐性を示したが、それも電子制御が介在する以前のシャシーバランスの良さに起因するものと推察された。

BMWらしいテイストはあるか

前席風景。シートは調節機能なうえ、マッサージ機能のパターンも豊富。前席風景。シートは調節機能なうえ、マッサージ機能のパターンも豊富。
ところが、絶対性能や物理的性質とは別のBMWが「フロイデ・アム・ファーレン(駆け抜ける歓び)」を標榜してきたテイスト作りになると一転、どうしたBMWとしか思えないものがあった。乗り心地は突き上げが強く、ステアリングフィールはしなやかさ、リニアリティに欠け、クルマを走らせるだけで気分が上がるような感覚は大幅に失われていた。

ここ10年ほどの間でBMWでのロングドライブで印象の残っているのは旧型『135i M Sport』と旧型『320d M Sport』。135iは交差点を曲がるときでさえ前輪の軌跡が丸わかりになるくらい精確なステアフィールを持っており、ファントゥドライブ性は抜群だった。が、単なるドライブの楽しさといった要素を超えて、公道スポーツセダンに求められる性能、機能、快適性のウェルバランスとは何ぞやということについて答えを出したかのような仕上がりだったのが320d M Sportだった。

シャシーの絶対的な性能はもちろん良好だったが、それ以上に感銘を覚えたのはチューニングのフィニッシュだった。コーナリングではサスペンションがまるで籐のように固いがしなやかにしなり、ステアリングもロール角が深まるにつれて二次曲線的に抗力が高まるように作られていた。

レカロが設計を担当したスポーツシートは身体をガッチリとホールド。最初、こんなギプスみたいな感触の薄いシートだと疲れるのではないかと思ったが、案に相違して振動吸収性は抜群。また、きついコーナーでもGに耐えるために身体をこわばらせる必要がない。動的な質感と車内のフィッティングの相乗効果で、まるで服を着るように乗れるクルマだったのだ。

これ以上の性能を求めるのであれば、さらにサスペンションを固く引き締め、ロール剛性を上げることになるが、このスイートな路面衝撃の受け止めが落ちるのだったらこれでいい、逆にこれ以上のふんわり感を求めても、それで籐のしなりのようにナチュラルなフィールが損なわれるのなら、やはりこれでいい…といった具合に、スポーティさを求める人の多くが納得するであろうそのバランス感覚は、動的質感の理想形を示すが如しであった。

BMWマジックを復活させてほしい

薄暮の状態で陰影をつけてみると、かなりプレーンな面であることがわかる。薄暮の状態で陰影をつけてみると、かなりプレーンな面であることがわかる。
80年代のM Techinik時代から連綿と進化を遂げ、5年前にはそんな領域にまで達したロードゴーイングMのバッジ。それをつけた523d M Sportは一体どれだけすごいクルマになっているのか!? という最高の期待値を持って乗ったのは、いかにもまずかった。

段差や路面の補修痕、減速舗装など小さいピッチでもドタドタとなる乗り心地、反力のハッキリしないステアフィール、クルマの動きのリズムと体重の受け止めにズレが出るシート。絶対性能は素晴らしいので、月並みなスポーツセダンなら「こういうクルマ」の一言ですむのだろう。が、BMWは違う。クルマとの一体感が薄く、ただ強引に速いだけというのでは、BMWのM Sportである価値がないじゃないかというのが正直な思いだった。

乗り味を低質なものにしている要因のうち、何割かはタイヤのせいもあろう。装着されていたプライマシー3はパンクしてもしばらくは走行できるランフラットタイプだったのだが、ただでさえ乗り味がゴワゴワとしたものになりやすいプライマシー3である。サイドウォールの固いランフラットモデルはいかにもドタバタしそうだ。BMWは3人乗車まではタイヤの内圧を2.2kg/cm2と、非常に低い内圧で使うよう指定している。それでもなおこのハーシュネスの強さというのはいただけない。

もちろんタイヤだけが犯人というわけではないだろう。BMW『Z4』をベースとするトヨタ『スープラ』が銘柄違いではあるがランフラットを装着しながら十分に滑らかな乗り心地を持っていたことを思うと、もういちどシャシーチューンをやり変えて、BMWマジックを復活させてほしいと思われた。本当に、明確な不満点はここだけなのだが、それはあまりに大きい。

後編ではパワートレイン、インテリア、先進安全システムについてレビューする。

静岡・宇津ノ谷峠を走行中。静岡・宇津ノ谷峠を走行中。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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