【川崎大輔の流通大陸】アセアンからの外国人自動車整備エンジニア その7

整備工場の中(ヤマヒロ様)
整備工場の中(ヤマヒロ様)全 6 枚

自動車整備における人手不足が叫ばれる中、2016年4月1日より外国人技能実習生制度において「自動車整備」が職種に追加されることになった。当初はすぐに技能実習生の採用を行う企業も少なかったが、2018年後半あたりから導入する企業が増えてきている。現在、2019年の改正入管法によって施行された新しい在留資格である特定技能(整備)は伸び悩み、技能実習(整備)は増加のいちずをたどっている。

重要なことは外国人活用にチャレンジすること

ヤマヒロ株式会社(山口寛士社長、東京都新宿区)は、この技能実習生の制度を2016年のうちにいち早く取り入れベトナム人を採用したパイオニア企業だ。「いち早く採用を決めた理由は、海外の人材と働く機会をつくることで新しい世界に社員が飛び込める経験をつくることができると感じました。社員に新しい異文化との触れ合い、経験をさせるために、トライアルという感覚もありました。私も海外に留学した経験があり多様性を学ぶことの大切さはしっていたためです」(山口社長)。

ヤマヒロ株式会社は、顧客価値を創造する経営革新を目指す企業として2019年に経営品質評議会より経営革新推進賞を受賞した。このような優良企業でも順風満帆な外国人活用ではなかった。初めて採用した技能実習生ベトナム人が2名逃げてしまったのだ。「当時、ベトナム人に対するケアが少なかったと自覚しています」(山口社長)。更に「残業をもっとしたいと言っていました。給料を稼ぐためでしょうが、希望通りにはならなかったのかもしれません」と話す。

このような経験をしながらも、山口社長は技能実習生の活用に関しては「不満も不安も特にない」と言う。異文化だから大変だととらえるのか、それとも刺激(新しい発見)ととらえるかで全く違う見方になる。山口社長は常に新しい発見というメリットを探すようにしているように感じる。ずっと動かなければ、つまり「昨日」と「今日」が同じであれば確実に衰退する。変化には抵抗が起こる、今のままが良いと思う人が多いためだ。しかし、世の中には「変わらないものはない」という事実がある。変化に対応していくことで人は成長をしていく。

山口社長は「外国人は今後必ず増えていきます。1年目以降には現場社員が彼らのことを戦力と言ってくれています。日本人も外国人も同じだという考え方です。しかし、最も重要なことは外国人の活用にチャレンジすることです。そうしなければ新しい世界を見るどころか、手遅れになってしまいます」と語る。

まずは実行! 考えているのは時間がもったいない。

株式会社初石鈑金(熊本匡史社長、千葉県流山市)では、ベトナムから3名の塗装技能実習生を受け入れた。2018年9月に熊本社長自身がハノイへいき実習生を面接。彼らが2019年になって無事に日本へ入国した。外国人を受け入れる前の従業員の反応は決して良いものではなかったと言う。「入社前は外国人に対して良い印象を持っていないように感じました。社長は外国人を『安い給料で働かせるのが目的』のように思われていた感じもします」と熊本社長は当時を振り返る。そのため、面接から帰国後は、社員に外国人活用の必要性を語ったと言う。

実際にベトナム人が入社してきてからは、社内の雰囲気が一気に変わった。「とにかく明るいですし、礼儀正しい。素直ですし、仕事一生懸命です。当初の外国人のイメージが私も含めて社員もガラッと変わりました」(熊本社長)。更に「日本語についても、想像しているよりコミュニケーションがしっかりと取ることができました。壁がないというわけではないですが、深刻ではない。1つのことを伝えるのに時間がかかるだけ」と語る。

受け入れ後は、技術的な研修は、経験のある日本人指導者を指名してマンツーマンで業務を教えている。日本人の見習いと同じ順序で仕事を覚えさせている。また、生活に関しては、ベトナム人技能研修生たちに、日本人社員が住む隣のアパートに住んでもらった。隣に住む日本人が生活指導を行っている。最初は日本人の社員を1週間べったりと貼り付けた。つききりで、交通ルールや携帯などのマナーを教えた。今は日本人がたまに彼らのアパートにいき生活状況をチェックしている。しかし、ベトナム人技能実習生たちも率先して、アパートの草むしりをし、周辺の評判はすこぶる良い。

「将来、日本人の採用は更に困難になることは明らかです。本当に人材が足りなくなってから動くのでは遅いと思います、考えているのでしたら時間がもったいない。視察にいくとか、聞きにいくとか何かしらの行動が必要です」(熊本社長)。更に「教育には時間がかかります。これは日本人でもベトナム人であっても同じこと。余力がないとベトナム人の教育はできません。多少余力があるうちに採用の仕組みをつくり、段階的に着手する必要があると思います。将来は、リーダー以外の多くが外国人になっていく、この可能性もあり得ると思っています」と語る。

考える前に、行動あるのみ!

「とにかく日本人の応募がないんです」と相談に来られる経営者がいる。しかしそれは当然。そういう企業に限って自社の差別化ポイントは何もない。事業内容も雇用条件も他社と同じで、採用ページも作成していなく、社長ブランディングもできていないことが多い。外国人について説明をすると、日本語コミュニケーションが不安、異文化対応が難しそう、仕事を教えられないと思う、などと言う。であれば日本人をずっと募集し続ければ良い。そのような経営者が無理に外国人を雇用するとお互いに不幸になるだろう。

独自に行った自動車業界経営者へのアンケートでも「自動車整備の外国人技能実習生について検討しています」「自社の課題として自動車整備人材の採用は課題であり、その解決の一助が海外からの人材の受け入れにあるのではと可能性を感じている」「外国人を受け入れたい。しかしマネジメントやコミュニケーションがきちんとできるか不安だ。それらが外国人雇用における大きな壁となっている」などの声が出ている。しかし、行動に移す経営者は非常に少ない。

近い将来、日本にくる外国人労働者は確実に減る。なぜなら、今後世界的な労働不足に発展する中で、日本で働く魅力がなくなっていくためだ。事実日本離れは静かに進んでいる。外国人が日本で働きたいと思えるような会社の環境、制度、受け入れ体制をつくっていかなければならない。少しでも日本に興味を持ってくれる外国人がいる間に、それぞれの企業は早めに行動すべきだろう。フロントランナーとしてのマインドを持ち、まずは自らが外国人を受け入れて一緒にやってみなければ何も始まらないと自分は考えている。

<川崎大輔 プロフィール>大学卒業後、香港の会社に就職しアセアン(香港、タイ、マレーシア、シンガポール)に駐在。その後、大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年より自らを「日本とアジアの架け橋代行人」と称し、アセアンプラスコンサルティング にてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。2017年よりアセアンからの自動車整備エンジニアを日本企業に紹介する、アセアンカービジネスキャリアを新たに立ち上げた。専門分野はアジア自動車市場、アジア中古車流通、アジアのアフターマーケット市場、アジアの金融市場で、アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

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