【スズキ ハスラー 新型】商品担当の意識も変えたハスラーの魅力…商品担当[インタビュー]

スズキ・ハスラー新型、エクステリアスケッチ最終
スズキ・ハスラー新型、エクステリアスケッチ最終全 13 枚

フルモデルチェンジし2代目となったスズキ『ハスラー』。初代の購入理由の9割がデザインだったということで、当然新型もデザインに注力されたが、その開発中に一度やり直しが入ったという。そこで商品企画担当にその理由やハスラーに対するこだわりなどについて話を聞いた。

キャラクター維持とワクワク感が足りない

まず気になるのはデザインのやり直しとキープコンセプトだ。スズキ四輪商品・原価企画部製品・用品企画課の高橋修司さんは、「特にハスラーのフロントマスクは絶対にキープしようとした」という。その理由はハスラーの個性の強さにある。「小さい子供でもこのハスラーを見て駆け寄っていき、年配の人もまるで孫に近いようなイメージで、愛着を持って接してもらえるなど、幅広く愛される一種のキャラクターとして確立出来ているからだ」と説明。

またハスラーがヒットした理由として、「トレンドやライフスタイルにしっかりとはまったからだ」と高橋さん。「2014年にたまたまアウトドアブームの再燃という金脈に上手くあたったこともあった」と述べる。

ハスラーは、「トレンドなどに応じて変化させるところは変化して新しい価値を軽自動車ユーザーに見せていく必要がある」とその位置付けを説明したうえで、「デザイン初期のモデルではそこが出来ておらず、行動力や想像力が掻き立てられるところが足りなかった。つまりキャラクターが立ち過ぎていて、ハスラーの肝ともなるワクワク感が少し足りなかった」とやり直しとなった要因を述べた。

インドア派からアウトドア派へ

さて、このように個性を強く持ったハスラーの商品企画担当が決まった時、高橋さんはどう感じたのか。「正直『やった!』という気持ちではなかった(笑)。実は自分はアウトドアなどの趣味もなく、どちらかといえばインドア派で、家で読書をするタイプ。以前担当した『ラパン』の世界観の方が近かった」と話す。

そこからハスラーの担当像を勝手に作っていた。それは、「平日は仕事バリバリこなし同僚や後輩から信頼され、週末はキャンプに出かけ、DIYをやり、料理を振る舞うような、趣味が豊富な人」とそのイメージを語る。

しかしいざ担当してみると、「そうじゃないということに気づいた。特にユーザーやオーナーズミーティングなどで色々と気づかされた」。

それは、「アウトドア趣味を始めてみたい、アウトドアライフのおしゃれな生活をしたい、多趣味と思われたいような人の背中を押す、パワーがあるクルマだということだ。むしろバリバリアウトドアをしている人ではなく、なんとなくやりたいなと思っている人の背中を押すようなクルマ」。これがハスラーの持つ一番の強さだというのだ。

そして、「その世界に入ったら、みんながウエルカム状態で受け入れてくれ、皆で楽しむ、そんなクルマだった。インドアな私もどんどん目覚めて、ドラマの“ゆるキャン△”の世界に入り、自らキャンプにもするようになった」と大きく影響を受けたとのことだった。

実際にユーザーからも、「マインドが変わった。例えばハスラーを買ってから、朝の通勤前に1時間早く出て海を見てから出社するなど、積極的なマインドで行動に移したり、その週末のレジャーが待ち遠しくて毎日ウキウキするようなパワーをもたらすクルマだった」と述べた。スズキ・ハスラー新旧比較(右が新型)スズキ・ハスラー新旧比較(右が新型)

よりSUVテイストを纏う

商品企画担当の趣味すらも変えてしまう個性を持っているハスラー。高橋さんは2代目にどのような方向性を持たせたいと考えたのだろう。「まだこの楽しい世界に入れない人たちもいるので、もっと入れるようにしよう。この1台があれば生活や趣味が変わるという気持ちをもっと掻き立てたい。まだまだこういったハスラーの魅力が多くの方に伝えられていないので、ハスラーワールドを広げたい」という。

「初代はキャンプやスノーボード、スキーやサーフィンなどでの使い方をメーカー側がお仕着せのように発信していた部分もあった。そこで2代目は思い切って使い方の提案をするのではなく、ハスラーという土台を用意したので、あとはお客様が十人十色で自由に楽しんで使ってアイディアがあったら教えて欲しい。まさに遊びのリミットレス」とのこと。そして、「お客様の使い方に対してそこを上回るような提案を今度は我々がしていきたい。このようにお客様と会話しながら“ハスラーの物語”を作っていきたい」とコメントした。

ジムニーとワゴンRの中間

そういった思いをもとに、新型ハスラーは先代よりもSUVテイストを纏ったデザインとなった。具体的にはピラーを起こし、ルーフを伸ばしてスクエアに見せるなど、キープコンセプトをもとにSUVテイストが付加されている。

一方、スズキには『ジムニー』というSUVが存在する。その点について高橋さんは、「ジムニーはスズキのアイデンティティのひとつだが、それを意識してデザインはしていない」とし、「ジムニーはプロユースでもあるので、自然と絶妙のポジショニングをデザイナーが探った結果だ」と述べる。そして、「デザインのやり直し前後もずっと見てきたが、(ジムニーとの距離感は)は絶妙のさじ加減。スズキのSUVクロカンのDNAをデザイナーたちが受け継ぎながら、見事なポジショニングが自然と出来たイメージだ」とした。

初代ハスラーがデビューした頃、ハスラーは独自のポジションを築いていた。しかし、現在ではいくつものメーカーから競合となりうるクルマたちがデビューした。そういった中で2代目ハスラーは、その個性をより強調したポジショニングになったようだ。

高橋さんも、「これまでの個性を伸ばしていったイメージ」と述べ、「ジムニーがフルモデルチェンジし、よりハードなクロカン方向に振った。そこでハスラーのデザイナーにお願いしたのは、そのバランスを考えて欲しいということ。それと同時に、ハスラーは楽しさやワクワクさとともに、週末にこれがあればアウトドアが楽しめる気がして買ったものの、日常使いが大半だったと聞かれるので、実用性や使い勝手はスポイルしてはだめ。使い勝手はおろそかにしないでSUVテイストを増したい」と方向性を語る。

ジムニーとのバランスをみると、現行ジムニーがよりクロカンに振ったことから、先代ハスラーとはより距離が出来たことになる。そこで、新型ハスラーを初代よりもSUV方向に振ったのだろうか。「そういう解釈もある」と高橋さん。「そうなるように意図的にしたわけではないが、結果的に市場調査等から、都市では走破性や機能性を大きくは求めないが、ボクシーなSUVというスタイルが認められていることにヒントを得て、そこを強めていこうとした。その結果、ジムニーとハスラーが絶妙の距離感としてポジショニング出来た」とのことだった。

また高橋さんは、「先代ハスラーは旧型ジムニーと『ワゴンR』の中間のポジショニングとよくいわれていた。元々ワゴンRベースだったこともあるが、オフの頂点のジムニーと、オンの頂点みたいなワゴンR、その中間がハスラーじゃないかと。ジムニーの新型はかなりオフロードに振ったこともあり、結果的にみるとそのポジショニングをキープ出来ていると思う」と述べた。

デザインとともに使い勝手も重要

新型ハスラーを開発するにあたっては、初代ハスラーユーザーの声も聞き、フィードバックもされている。まず初代の強みは、「デザインで気に入って購入したユーザーが9割」とデザインが決め手となっていた。また、「ワゴンRの究極の使い勝手も持ち、ワゴンRで出来ることは全て出来ながら、ワゴンRで出来ない楽しみ方もあるところ」という。

そして弱点は、「強いてあげるならば、後席の乗り心地がある。また、SUVというと登録車を想像しがちなので、そこと比べると荷室がもう少しあるといいという声も聞かれた」とのこと。

その荷室に関しては、「容量ではなく、使い勝手のようだった。色々な趣味や日常生活の荷物に対して、便利に使い勝手よくということを求められていた。そこで収納関係や荷室をフラットにするなど色々トライしている」と説明。また、「その辺りは手を抜けないところ。このクルマで幸運だったのは開発のトップの竹中(チーフエンジニアの四輪商品第一部課長の竹中秀昭さん)が、NVHのスペシャリストだったので、音振などを向上させつつ、要望もクリア出来た。まさに神様の巡り合わせのような気がする」と話した。

肩の力が抜けない!?

今回デザインが一度やり直しになったことの理由については冒頭で高橋さんが説明してくれた。ここからはその背景について語ってもらおう。「開発責任者の竹中が辛かったのは、初代ハスラーは肩の力が抜けたクルマだったが、今度はみんな肩の力がバリバリ入っていたこと。国内営業はスズキの存亡を懸けてぐらいな勢いだった」と社内の期待値が非常に高かったことを明かす。

「自由な移動と楽しさ、ワクワクというキーワードを全て背負っているので、まさにスズキのイメージリーダーになってしまい、社内の注目度は半端なかった」という。「本当は少し外れたところで、もう少し遊びに振りたかったのだが、力が入り過ぎて、皆ハスラーはこうあるべきというイメージがあり過ぎた。その結果、担当者も自然にワクワクみたいな気持ちが影を潜めてしまった」と振り返る。

デザインのやり直しが決まった時、初代の経験者でもあるエクステリアのクレイモデラーから、「こんなにゆるくてかわいいクルマなのに、担当者たちはしかめっ面でドキドキして、手が縮こまってしまっている。何をやっているんだといわれた。これでハッとした。また、(初代は)たまたま金脈にあたっただけとも (笑)」。そこでもう一度、「初心に立ち返りワクワクしよう、肩の力を抜いて開発者たちも楽しんで作っていった」。

高橋さんによると、「時には真夏の渋谷を1日歩いて色々見つけてみようなど、楽しくやった。自分が若い頃は、原宿などちょっと敷居が高くて、センスがないと入店拒否されるのではないかというお店ばかりだった。しかし今は、本当に綺麗なアウトドアショップがたくさんあって入りやすい店舗になっていた。そういうパワーがアウトドアにはあるんだと気づいた」とその時の印象を語った。スズキ・ハスラー新型、インテリアスケッチ案スズキ・ハスラー新型、インテリアスケッチ案

キースケッチにビビビ

エクステリアデザインはキープコンセプトだが、インテリアは大きく変化した。しかし、どちらも遊び心溢れるもので、かつ、内外装が上手くマッチしている。高橋さんは、「エクステリアもインテリアもキースケッチを描いた担当が、別の人に変わることなくそのままデザイン開発を進めた結果だろう」という。

特にインテリアのキースケッチは、「ハスラーでしか実現出来ないデザインで、当初は3連リングの一番左に電子レンジが入っていた」。高橋さんによると、「キースケッチはかなり初期段階なので自由に描かせている。そこで、何で電子レンジを入れたのか聞いたところ、キャンプして朝起きた時にあったかいコーヒーを飲みたい。そこで電子レンジがあればすぐに出来ると考えた」とのことだった。

そこからクレイモデルを作っていったのだが、「チーフエンジニアの竹中と二人で見て、何案かあった中でこのデザインにビビビときた。そんなことはなかなかなく、これはすごい、開発は大変だがビビビときたのでやろうということになった」とこのキーデザインが突出していたことを語った。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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