パネットーネを食べるたび思い出す「ニースのタクシー事件」【岩貞るみこの人道車医】

イタリアのクリスマス菓子「パネットーネ」(写真はイメージ)
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イタリア生活回顧録その5「ニースのタクシー事件」

東京都緊急事態宣言発令中、ステイホーム期間特別企画第5回。今回は、ニースのタクシー事件です。

日本は安全な国と言われる。東京オリパラを招致するときも、なくした財布がそのままもどってくる話が披露されたほどだ。かたやイタリア。いい加減な人柄で、かっぱらいやスリ、車上荒らしも多いと聞く。

たしかに私もおんぼろウーノは二回も車上荒らしに遭ったし、ゴミ捨て場に注射のシリンジが捨てられているのを何度も見たし(!)、友人であっても約束の時間通りに全員が集合したためしがない。それどころか、「じゃあ、明日ね」と言ったくせにすっぽかされることも頻発した(驚愕)。それが当時、私の見たイタリアである。

でも、全員が悪い人というわけじゃない。私の二年間はたっくさんのイタリア人の愛情に包まれていたし、イタリアじゃないけれど、同じラテンのフランスでも貴重な経験をした。今回は、その話。

フランスのニース(写真はイメージ)フランスのニース(写真はイメージ)

パネットーネが……ない!

二年間の留学生活を終え、帰国した八か月後の正月明け。私は再び、仕事で欧州に渡った。行先はニース。イタリアとの国境に近い海沿いの観光都市だ。どうせそこまで行くならと、私はボローニャ経由で便を手配した。ボローニャで友人たちと感激の再会を果たすと、彼らは別れ際にスイカほどの大きさのパネットーネを持たせてくれた。

パネットーネは、イタリアのクリスマス菓子である(イタリアのクリスマス期間は1月6日まで)。イースト菌ではなくパネットーネ菌を使うので1か月以上もつ。もともとはミラノが発祥のようだが、いまや全土で食されており、私はこれが大好物なのである。彼らはそれを覚えていてくれたのだ。

「私たちのことを思い出しながら食べるのよ」
「うん、ありがとう!」

大切に手に握りしめたパネットーネ。ボローニャの空港からニースに飛ぶあいだも、私の膝の上にいたパネットーネ。ニースの空港からはタクシーで海岸沿いのホテルに到着し、二階にあるロビーまでエスカレータで上がっていく。チェックインをすませ、部屋に向かうべく荷物を持ったとき、私の顔から血の気がひいた。

パネットーネが……ない!

どこで? えっと、どこで……って、タクシーだ! タクシーに乗ったときも膝の上に乗せたのだ。しかし、料金を払うときに席の上に置いた。そしてそのまま降りてきてしまったのである。痛恨の極み!

あわてたところで、ロビーは二階。そこまでの移動時間とチェックインに要した時間を考えれば、乗ってきたタクシーがその辺にいるとは思えない。わーん、パネットーネが、友人たちの愛情がー!

失意のズンドコから救ってくれたのは

イタリアのクリスマス菓子「パネットーネ」(写真はイメージ)イタリアのクリスマス菓子「パネットーネ」(写真はイメージ)
失意のズンドコ状態で荷物を持ち、私はうなだれつつも部屋に向かうべく、まわれ右をした。

すると、目の前に一人の小柄な男性がいた。まっすぐに私を見つめているものの、髪はばさばさに乱れ、額には汗。そして、はーはーと肩で息をしているではないか。なんだ、この異様な雰囲気は? しかし、気づいた。彼の手にあるもの。大切そうに両手で抱えているそれは。

パネットーネ!

戻ってきてくれたのだ。運転手さんは、タクシーの後ろのシートに残されたパネットーネに気づき、きっと大急ぎでもどってきて、二階にあるロビーまで駆けあがってきてくれたのだ。謎の東洋人(私のこと)は、ロビーにいる大勢の人のなかでも、すぐにわかったのだろう。彼はまっすぐに私の元に来てくれたのである。

「ありがとう!」

自分で確認したわけではないが、そのときの私は、ありがとうの気持ちを満面と体全体で表現していたと思う。たとえフランス語が通じなくても、きっと感謝の気持ちは通じていたと思う。

運転手さんは、私にパネットーネをわたすと、ほっとしたような顔で笑い、大急ぎでエスカレータを駆け降りて行った。きっと、ホテルのエントランスに強引にタクシーを止めてきてくれたのだと思う。

その後、パネットーネは無事に日本に到着した。今でもクリスマスの季節になり、最近は日本でもあちこちで見かけるようになったパネットーネを買ってきて食べるたびに、ボローニャの友人たちといっしょに、あのときの、親切なタクシーの運転手さんのことを思う。大切な思い出である。(緊急事態宣言が解除になりそうなので、一旦、終わり。また機会があったら再開します。)

※これは私がイタリアに留学していた1995~1997年のときの話です。デジカメがないころなので、当時の写真はありません!

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、ノンフィクション作家として子どもたちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。

《岩貞るみこ》

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