【池原照雄の単眼複眼】コロナで沈む世界の新車需要…リーマン時のように救うは中国か

東風本田の組み立てライン(中国・武漢市)
東風本田の組み立てライン(中国・武漢市)全 2 枚

22か月ぶりにプラスとなった4月の中国

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、世界の自動車需要にも強烈なインパクトを与えている。そうしたなか、ウイルスの起点でもある中国で新車需要がいち早い回復を見せてきた。先行きへの予断は許されないものの、自動車各社には前を照らすヘッドランプのような存在になりつつある。

都市封鎖などによる人の移動制限は、多くの産業の生産・販売活動をストップさせ、未曾有の衝撃となっている。近年では2008年9月の世界的な金融危機となったリーマン・ショック時も、新車需要が蒸発するように沈んでいった。だが、自動車業界では今回のコロナ禍を「リーマン・ショックよりインパクトは、はるかに大きい」(トヨタ自動車の豊田章男社長)と、受け止めている。

終息を見通すことが難しいため、グローバルでの生産・販売の復活シナリオを描くのは容易ではない。経済活動を戻したとしても、第2波、第3波の感染襲来という不安もぬぐえない情勢にある。もっとも、それでは事業は進められないので、トヨタは5月12日の2020年3月期決算発表の際、今期の業績予想の前提とした世界販売のおおまかな想定を明らかにした。

それによると、対前年同期に対し4~6月は6割水準、7~9月は8割水準、10~12月は9割水準とし、20年末から21年初頭にかけて前年並みに戻るだろう、という見立てにしている。感染拡大による新車販売への影響が始まったのは、今年1月後半あたりからなので、世界レベルで平常に戻すには1年くらいかかるというシナリオでもある。同社らしい慎重な見立てと言えようが、それでも再び感染拡大が広がれば、この想定すらおぼつかなくなる。

そうしたなかで、月次の販売実績が前年実績を上回り、いち早く復元した国がある。世界最大の市場であり、かつ新型コロナの震源地ともなった中国である。中国汽車工業協会の発表によると、4月の新車販売は前年同月比4.4%増の207万台となった。中国は17年をピークに18年、19年と縮小が続いてきたので、月次の販売がプラスになるのは18年6月以来、実に22か月ぶりだった。

トヨタ、日産、マツダも浮上した

中国の年初からの前年同月比の新車販売推移を見ると、1月は18%減、生産がほぼ全面的にストップした2月は79%減まで落ち込んでいた。そして、3月には43%減と回復に向かい、4月で前年を上回った。

■中国の2020年新車販売推移
・1月 194万台(▲18.0%)
・2月 31万台(▲79.1%)
・3月 143万台(▲43.3%)
・4月 207万台(4.4%)
※カッコ内は前年同月比、▲はマイナス

4月の回復をけん引したのはトラックなど商用車で、建設需要や政府の新車買い替えへの補助金などが寄与している。一方で全体の8割程度を占める乗用車も同月には前年比3%減と、まだマイナスではあるが回復に貢献している。世界の4月の新車販売に目を転じると日本は29%減、米国(推定値)は47%減、さらに感染拡大が深刻な欧州(EUの主要18か国)は80%減だったので、中国の復元ぶりが際立っている。これに伴って日本ブランド車の中国での販売も、4月には前年を上回るケースが相次いだ。

昨年末まで好調な販売が続いていたトヨタは0.2%増の約14万3000台とわずかだが、水面上に浮上した。同社の前年比推移は2月が70%、3月が16%の落ち込みだったので市場全体の動きとほぼ歩調を合わせて急回復している。かねて「『カローラ』や『レビン』のハイブリッド車やレクサスが好評だった」(近健太執行役員)こともあって回復にもスピード感が出ている。

トヨタ以外でも4月は日産自動車が1.1%増、マツダが1.0%増とプラスに転じた。また、ホンダは9.5%減となおマイナスが続いているが、2社ある現地合弁メーカーのうち東風本田の工場が武漢市に集中しているため生産面で大きな影響を受けたという事情もある。それでも2月の85%減からは著しく改善している。

皮肉にも震源地の回復力が業績再建をサポート

ホンダの倉石誠司副社長は「受注は好調に推移している。4月は卸売りベースでは前年を10%強上回った」と、回復に手ごたえを感じている。同氏によると、需要回復の背景には政府が電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)などの「新エネルギー車」への補助金による優遇措置を延長していることや、大都市での需要制限策であるナンバープレート規制が緩和されていることがあるという。

日本各社が中国以上に販売を依存する米国は、まだ販売店が休止状態にある地域が少なくない。倉石副社長は「全米での販売再開は夏ごろを想定している」と話す。それだけに、先行きの不透明感がぬぐえないとはいえ、米国を上回る巨大市場の回復は各社には心強いものとなっている。

08年のリーマン・ショック時には、先進諸国の落ち込みを中国がカバーした経緯がある。発生翌年の09年の新車需要は、1世紀余りにわたって世界トップの座にあった米国が前年を21%下回る1043万台に落ち込んで2番手に後退した。これに対し、積極的な財政出動による景気対策を打ち出した中国は46%の急成長を遂げて1365万台でトップとなった。コロナ禍の発生地という複雑な思いはあるが、最大市場の回復力は各社の業績建て直しを着実にサポートするだろう。

《池原照雄》

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