【VW パサートTDI 3800km試乗】地味だけど走りはすごい!ライバルはカムリ&アコード[後編]

熊本~大分県境の杖立温泉にて。県境にまたがって立つホテルもある秘境温泉だ。
熊本~大分県境の杖立温泉にて。県境にまたがって立つホテルもある秘境温泉だ。全 30 枚

フォルクスワーゲンの欧州Dセグメントミッドサイズ『パサート』のターボディーゼル搭載グレード「TDI」で3800kmほどツーリングする機会があったので、インプレッションをリポートする。前編では総論および操縦性、乗り心地について触れた。後編ではパワートレイン、居住性&ユーティリティ、運転支援システム等について述べていこうと思う(※本稿はWHOによるパンデミック宣言前のテストドライブのものです)。

パサートTDIのパワートレインは最高出力140kW(190ps)、最大トルク400Nm(40.8kgm)を発生する2リットル直4ターボディーゼル+湿式多板クラッチ6速デュアルクラッチ変速機。本国では上から2番目のスペックのものである。

加速タイム&ドライブフィールは

エンジンルーム。2リットルターボディーゼルは最高出力190psの高出力タイプ。中高回転が気持ち良いユニットだった。エンジンルーム。2リットルターボディーゼルは最高出力190psの高出力タイプ。中高回転が気持ち良いユニットだった。
まずは加速タイムについて。わずかな登り勾配の高速道路バリアを利用した実測値はスロットルを踏んだ瞬間から実測100km/h(メーター読み104km/h)までのタイムが8秒8、メーター動きはじめからメーター読み100km/h到達までが7秒8。ノンプレミアムDセグメントとしてはまあまあ俊足な部類と言えるが、同出力のターボディーゼルエンジンを積み、車体がパサートよりずっと重いプレミアムEセグメントのボルボ『V90』には勝てなかった。

発進加速タイムが伸びなかった主因はパワーそのものではなくローンチ時のトラクションコントロールの制御がいささか雑なこと。どーんとトルクがかかってホイールが空転し、それを抑制しようとして電子制御スロットルがパワーを絞り、そこからあらためて全開加速というもたつきがタイムロスにつながった。

一方、走り出した後のパフォーマンスは非常によかった。140kWという最高出力自体、1.6トン級の車体には十分すぎるくらいなのだが、このエンジンは低中回転より高回転のほうが断然気持ち良いのが特色。とりわけ3000rpmを少し超えたあたりからレブリミットの5000rpmまでの領域では、エンジンサウンドに『ポロGTI』の1.8リットルガソリンターボのように“キィーン”という金属音が交じる。

パワーの伸び切り感も今まで乗った2~2.2リットル級ターボディーゼルの中ではBMWを越え、最良だった。筆者はこの後、同型の110kW(150ps)版ターボディーゼルを搭載する『ゴルフヴァリアントTDI』でもロングドライブを試しているが、パワーフィールもサウンドも別物。もちろんパサートのほうがいい。

前席のダッシュボードまわり。プレミアム感はないが、操作系の配置は左ハンドルと共通のシフトレバーまわり以外、実に理にかなったものだった。前席のダッシュボードまわり。プレミアム感はないが、操作系の配置は左ハンドルと共通のシフトレバーまわり以外、実に理にかなったものだった。
中高回転域の素晴らしさに比べ、低中回転のパーシャルスロットル領域のフィールは平凡。ディーゼル音は一昔前ほど大きくはないが低速巡行中でも常時室内に伝わってくるし、アクセルレスポンスもわりとダルだ。市街地走行やクルーズ時に使う中低回転ではドライバーのアクセルペダルの踏み具合の揺れにあまり反応しないよう平準化し、元気よく走る高回転では応答性を重視するという制御プログラムになっていたのかもしれない。

6速デュアルクラッチ自動変速機「DSG」は基本的には良い働きをした。中間加速のシフトアップの切れの良さは気持ち良いものであったし、パドルシフトを使ったシフトダウンも爽快なフィールだった。が、DSGが出はじめの頃に比べてトルクコンバーター式ATが長足の進化を遂げたこともあって、シフトフィールでそれほど差をつけられない一方で変速段数が6段にとどまることのネガも目立ってきた。

湿式多板クラッチの制御もDSGが出はじめの頃に比べると長足の進化は遂げているが、トルコンATに比べると冗長性ではどうしても落ちる。目標速度までズバッと一気に加速するヨーロッパ的な運転をする人向けだ。

2~2.2リットル級ディーゼル車で最良クラスの燃費

メーターパネルはフル液晶。メーターパネルはフル液晶。
次に燃費だが、オーバーオールでは過去にロングランを行った2~2.2リットル級ディーゼル車の中で最良の部類に属するスコアだった。クルマのオンロード燃費はモデルの効率の絶対値や交通状況、平均車速などによって変化するものだが、それに劣らず影響するのはクルマと運転者の相性。筆者にとってパサートTDIは相性が良く、厳しい条件でも燃費は大して落ちず、エコランをやれば面白いように燃費を伸ばせるという感じであった。

最初の区間は東京・葛飾から福岡・直方までの1270.1km。給油後、東名・新東名経由で島田金谷インターへ。そこから一般道オンリーで鈴鹿峠から京都の亀岡に達し、そこから山口の宇部まで600km近く中国山地の山間部を走るという、市街地比率は低いがワインディングロードだらけのかなり厳しいコンディションだった。

エア抜きに留意しながら満タン給油をしてみたところ62.53リットル入り、燃費は20.3km/リットル。燃料タンク容量の公称値は59リットルだが、1270km走行地点で燃料警告灯は未点灯、推定航続残も十分という状態だった。本国では公称66リットルなので、日本では副タンクが含まれていないのかもしれない。高速を飛ばさずに走れば東京~鹿児島まで無給油で走りきれることだろう。

1270.1kmを走って給油量62.53リットル、燃費は20.3km/リットル。険路が多かったこの区間がロングラン燃費の最低値で、通常は22km/リットル台で走った。1270.1kmを走って給油量62.53リットル、燃費は20.3km/リットル。険路が多かったこの区間がロングラン燃費の最低値で、通常は22km/リットル台で走った。
ロングランではこの最初の区間が最悪値。以後の実測燃費はやや速めのペースでのロングラン区間がおおむね22km/リットル、市街地と郊外路が半々の普段使いで18km/リットル前後。実測で最も悪かったのはアップダウンがきつく、平均車速が20km/hを切るなど道路状況が悪い鹿児島市街地オンリーの区間で15.2km/リットルだった。アイドリングストップがかなり根性を見せたことが、劣悪な環境における燃費悪化を限定的なものにした。

エコランも2回試してみた。1回目は福岡の直方から熊本南端の水俣までエコモードで走った216.4km区間が25.4km/リットル。フォルクスワーゲンのDSGはエコモードで走るとスロットルオフでクラッチが切れ、アイドリングしたままの空走状態になる。赤信号まで距離があるときは空走でスピードの落ちを最小限にとどめ、そろそろ減速というタイミングでブレーキをチョイ踏みすることでエンジンブレーキを復活させ、燃料カットでさらに消費を抑えるなど、エコランを結構頑張って得られた数値である。スピードを抑えたわけではないが、チンタラ走りをしても上乗せ効果はせいぜい1~2km/リットルぶんであろう。

帰路、名古屋市西部から浜松までの市街地・郊外路混合ルートをスポーツモード+常時パドルシフトを用いたマニュアル変速で走ってみたところ、序盤、市街地走行で渋滞に捕まったにもかかわらず24.6km/リットル。ディーゼルはもともとMTとの相性がいいパワートレインだが、スリップロスの小さなデュアルクラッチ自動変速機はトルコン式ATに比べてMTに近い状態を作り出しやすく、それが燃費向上につながったようだった。

パッケージング&ユーティリティ

リアシートは広さ、シートの体幹支持とも申し分なかった。リアシートは広さ、シートの体幹支持とも申し分なかった。
パッケージングとユーティリティに話を移そう。パサートTDIは全長4.7m台のセダンとしては後席膝下空間が非常に広く、さらにVDA方式で586リットルという大容量の荷室を持つ。長期旅行用のツーリングギアとして、あるいは荷物を大量に積んで別荘地やキャンプ地に向かうリゾートエクスプレスとして、大いに使えるクルマであることは間違いない。運転席まわりは収納が豊富で、長距離ドライブ時の身のまわりの整理も非常に楽そうだった。

難点を挙げるとすれば、左ハンドル重視のパッケージングのせいか、アクセルペダルまわりがタイトなこと。できればアクセルペダルをもう少し右寄りに配置してほしかったところだ。下肢のタイト感の手っ取り早い解消法は体の軸線をわずかにセンターコンソール側に傾けて座ることで、ロングドライブ時はほとんどそういう姿勢で運転していた。

助手席から前席まわりを見る。助手席から前席まわりを見る。
シートは長時間連続運転でも疲れのたまらない、良い仕立てであった。一見ルーズな形状だが、シートバックの背中へのフィット感に優れていたため、ワインディングで強い横Gがかかったときも体のブレは小さいほうだった。前席はパワーシートで、運転席にはマッサージ機能がついていた。刺激が少ない高速クルーズのときなどの眠気覚まし効果は結構大きいが、それ以前に気持ちが良いためドライブを通じてしょっちゅう使っていた。

荷室は凝った仕掛けはほとんどないが、容量自体が非常に大きく、使いやすかった。キャスターを除く高さ70cm級の大型旅行用トランクを縦に積めるだけの奥行きと天地があり、長期旅行はもちろん、空港送迎などにも威力を発揮しそうだった。後席のシートバックは可倒式で、トランクスルー状態にするとおそらく長尺でない普通のスキー板くらいは楽々積めそうだった。

大型トランクを軽く呑み込む広大なトランク。容量はDセグメントセダンのトップランナー。大型トランクを軽く呑み込む広大なトランク。容量はDセグメントセダンのトップランナー。

実に便利!な12.3インチ液晶パネル

運転支援システムは基本的にとても良い働きをした。雨天でも車線をよく認識し、スピードコントロールも自然。レーンキープのステアリング介入は結構強めで、車線に近付くとグイッとステアリングが自動修正される。が、印象深かったのは運転支援システムよりもフロントライティングシステム。可変配光型のアクティブハイビームを装備しているのだが、真っ暗な山岳路を走っていても不安感がほとんどないくらい、効率良く前方を照射した。ライティングにもスポーツモードがあり、スポーツに設定しておくとコーナリング時にイン側に素早く光軸が向く。光量は十分で、かつ照射ムラがほとんどないのも夜の視界をより良いものにした。

コクピットのインストゥルメンタルパネルは12.3インチ液晶パネルに速度計、回転計、燃費計、そしてカーナビや電話リストなどを動的に表示するアクティブインフォディスプレイ。Cセグメントのゴルフにもほぼ同じものがオプション設定されており、それに乗った時は過剰装備ではないかと思ったものだった。が、ノンプレミアムでも高級化、高機能化が進んでいるDセグメントの場合、このくらいの装備があったほうが顧客満足度が高いだろうというのが率直な感想だった。

この液晶メーターは実に便利。瞬間燃費や平均燃費、航続距離などは一目でわかるよう速度計、回転計などに組み入れられているため、液晶パネルの中央部分には普段は車両情報ではなくカーナビ画面を表示させていた。そのナビ画面は縮尺をステアリング上のスイッチで自在に拡大・縮小できるため、便利なことこのうえない。通常のカーナビディスプレイもセンターコンソールに設置されているのだが、地図を思いっきり縮小して数百km先を検索するような時以外はほとんど見ることがなく、カーナビ以外の情報を表示させておくことも多かった。いったんメーター内ナビ画面に慣れると、センターコンソールのチラ見がいかに危ないかがあらためて痛感された。

カーナビ画面だけでなく、電話のダイヤルリスト、オーディオ情報、車両状態など、多くの項目を簡単に切り替え表示できるのも非常に便利。操作にもたつきがないため、わずかな信号待ちの間にステアリングスイッチひとつで素早く電話をかけられるし、オーディオ操作も的確にできる。プレミアムセグメントのようにドライバーがやりたいことをコンシェルジュのごとく自動アシストしてくれるような感じではないが、ツーリングをより安心で快適なものにするのには大いに役立った。

銀河鉄道999のようなキャラクター

VW パサートTDI。久住高原にて。VW パサートTDI。久住高原にて。
パサートTDIを買って幸せになれそうな顧客は、まず年間走行距離が2万、3万kmと長く、かつクルマで目立ちたくないから地味なモデルのほうがいいというタイプの人だ。もともとパサートは地味さが身上で、初代以来、見目麗しいデザインが与えられたことは一度もない。むしろわざと格好悪く、ボロくさく作っているのではないかとさえ思われるフシがあった。

それでいながら中身がいいという銀河鉄道999のC62 48機関車のようなキャラクターが、パサートがヨーロッパのDセグメント市場の盟主であり続けてきた原動力なのだが、日本でもそういうクルマ作りに共鳴する顧客は少数だが確実に存在する。フォルクスワーゲンのコアなファン層はその最たるものだろう。

本編で述べてきたように、パサートTDIは地味なルックスに似合わずすごい走りをすることができ、疲れ知らずで、ユーティリティや機能性は高く、経済性にも優れるなど、ロングツーリングにはもってこいという美点を多数持つクルマであった。その点はとくにヨーロッパ車好きからは高く評価されよう。

それだけに、どことなくシャシーのフリクション感が強く、過去のヨーロッパ仕様のような驚異的にフラットでしっとりとしたクルーズ感、良路から石畳まで一貫して保たれる当たりの柔らかな乗り心地がないことは、そういうモノのわかった顧客の評価を下げかねず、その一点が返す返すも惜しかった。

現行のヨーロッパ仕様が過去のモデルと同様に乗り心地がいいのであれば、そっちのほうが好まれるのではないかと強く思った。ちなみに単なるヴァカンスエクスプレスという使い方なら、さらに積載力が大きく、リセールバリュー面でも有利なヴァリアント(ステーションワゴン)のほうが適している。

国産ライバルは「カムリ」「アコード」「マツダ6」か

VW パサートTDIのフロントエンド。デザインはおとなしいが、ステアリングの据わりの良さや転がりの良さから、空力的洗練性はかなり高い印象だった。ヘッドランプ上縁はモールでデコレーションされている。VW パサートTDIのフロントエンド。デザインはおとなしいが、ステアリングの据わりの良さや転がりの良さから、空力的洗練性はかなり高い印象だった。ヘッドランプ上縁はモールでデコレーションされている。
ライバル考。パサートTDIは輸入車だが、国産、輸入車問わず、ノンプレミアムDセグメントセダン全般、とりわけ走行コストの低いエコカーと競合するであろう。日本での最大のライバルはフランスのプジョー『508GT』ターボディーゼル。

昨年日本デビューを果たした現行モデルは独立したトランクを持たない流麗なファストバックとなり、ヨーロッパでは思い切って低価格グレードを廃止するなど、思い切った仕立てになった。室内&荷室容積、使い勝手や燃費、路面コンディションを選ばない走りはパサートが上を行き、スタイリングのインパクトや内装の質感、静粛性、良路での乗り味の滑らかさは508が勝る。ちょうどいいライバル関係と言えるだろう。

日本車ではトヨタ『カムリ』、ホンダ『アコード』のハイブリッドコンビ、およびターボディーゼルを持つ『マツダ6(旧アテンザ)』あたりが好敵手となろう。本来ならハンドリングの懐の深さでパサートとタメを張るスバル『レガシィ』が最も強く競合しそうなのだが、低燃費エンジンを持たないことからTDI相手に限って言えば選択肢から外れる。

それらの日本勢相手でパサートTDIが優位に立つのは、舗装されてさえいれば良路、悪路、ドライ、ウェットといったコンディションに左右されず、常に安定して思い通りに走れる適応性の高さとシャシーの速さ、そして運転支援システムの機能の高さ。また、日本勢が軒並みアメリカ市場ターゲットであるためか、小回り性能、取り回しのしやすさもパサートが勝る。

半面、市街地の乗り心地ではカムリの圧勝。カムリは山岳路は苦手だが、高速巡航のようなアメリカンスタイルのロングツーリングでは疲労耐性でもパサートといい勝負だ。アテンザは設計年次が古いこともあってか乗り心地がしなやかさに欠け、室内&荷室容量でも大きく劣る一方、デザイン、とくにインテリアの装飾性の高さでは3モデル中トップ。良路では攻撃的な走りを許容する性能も持つ。現時点で未試乗の新型アコードとパサートTDIの対比も興味深いところだ。

VW パサートTDIのリアビュー。熊本・阿蘇外輪山のミルクロードにて。VW パサートTDIのリアビュー。熊本・阿蘇外輪山のミルクロードにて。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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