車内換気の重要アイテム“サイドバイザー”誕生の歴史から機能を見直す ~密閉回避で快適に~

車内換気の重要アイテム“サイドバイザー”誕生の歴史から機能を見直す ~密閉回避で快適に~
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窓ガラスの曇りをすぐに取りたい時や、車内の空気を入れ替えたい時など、ちょっとだけ窓を開ける際にとても便利なのが、サイドバイザー(※)。

※一般的に「ドアバイザー」「プラスチックバイザー」などとも呼ばれるが、本記事内では「サイドバイザー」に呼称を統一しています。

今までは喫煙家が好んで装着していたが、換気の重要性が見直されて装着数が増えている

これがあれば、雨の日に窓を開けても雨粒が入るのを防ぎながら換気ができたり、喫煙者にとっても煙が素早く車外に出せたりと、一度使うと手放せない存在である。また昨今の3密を避けたいご時世では、クルマに乗る時にもこまめな換気は重要。とくに、複数人で乗る際には走行中でも換気をするのが理想的なため、風の巻き込みが抑えられるサイドバイザーのありがたみが再び注目を浴びつつある。しかし、そのサイドバイザーがいったいいつ、どんなきっかけでこの世に誕生したのか。それを知っている人はどのくらいいるだろうか? それは予想もしていない、とても心温まるエピソードからはじまった。

心の温かさ。親切から始まったサイドバイザーの歴史

聞かせてくれたのは、創業者がサイドバイザーを考案して以来、長きにわたり開発からの全行程を一貫して行っているという、DNP田村プラスチック株式会社の代表取締役社長・阿部一夫さんと、副社長 営業開発本部 本部長の桑鶴義浩さんだ。

DNP田村プラスチック株式会社 代表取締役社長 阿部一夫氏DNP田村プラスチック株式会社 代表取締役社長 阿部一夫氏

時は昭和30年夏。日本は少しずつ敗戦の傷跡を癒しながら、豊かな暮らしを手にしようと必死になっていた時代である。マイカーブームの到来はもう少し先だが、徐々にクルマの往来も増えてきた頃だった。創業者である田村槇一氏は、名古屋から東京へ向かうために国道1号線を走っていたという。ちょうど神奈川県の湘南のあたりで、スコールのようなひどい雨に遭遇した。ふと窓の外を見ると、急な雨に追われて軒先で雨宿りをしている母娘3人が目に入り、良き時代の親切心からクルマに乗せてあげたのだった。

しかし豪雨で窓が開けられず、エアコンもない車内は4人が乗るとかなり蒸し暑く、窓も雲ってしまった。観念して窓を開ければ車内に雨が吹き込んでくる。母娘を無事に送り届けたあと、槇一氏は「なんとかできないものか」と思案した。そしてはたと浮かんだのが、母娘が雨宿りしていた軒先である。「そうだ、クルマの窓にもひさしをつければいいじゃないか」。このひらめきが、今では私たちのカーライフに欠かせない存在、サイドバイザー誕生のきっかけとなった。

DNP田村プラスチック株式会社 副社長 営業開発本部 本部長 桑鶴義浩氏 DNP田村プラスチック株式会社 副社長 営業開発本部 本部長 桑鶴義浩氏

「その後すぐに、もともと自分で何か事業を起こしたいと考えていたこともあって、翌年1月には実用新案を出願し、アクリル板を曲げて成形するという製法で、最初のサイドバイザーが完成しました。」(桑鶴副社長)

現在は多くのメーカーが取り扱うバイザーだが、「サイドバイザー」という商品名については、槇一氏が名付け親だ。クルマの横に取り付けるものなので「サイド」。ひさしを表現する言葉として、西洋の甲冑の目の部分を指す「バイザー」をくっつけた。それから65年が経った今も、変わらず人々に親しまれる商品名というのも希少である。また、風の巻き込みを最小限に抑え、雨の日には雨の吹き込みを防ぎながら、車内の換気や窓ガラスの曇りを取ることを可能にするという、当時からの便利さも変わらない性能のひとつ。しかしその性能をより突き詰め、安全性や燃費性能などが重視される時代の変化にも対応してきた結果として、初期の頃のサイドバイザーとはデザインや素材、製法などは劇的な進化を遂げてきたという。

時代と共に機能はそのままながら
より機能的にスタイリッシュに変化を続ける

見た目はもちろんのこと、空力抵抗までも考慮されてデザインするサイドバイザー

「初期の頃のサイドバイザーは、まさに軒先のひさしといった印象で、窓に対して垂直に出っ張るような感じで装着されていました。装着方法も、窓枠に挟んで取り付けるというものでした。それが現在は、クルマのフォルムに寄り添うようにして、なるべく窓ガラスと水平になるようなデザインとなっています。というのは、サイドバイザーはクルマが完成した後に取り付けられるものです。クルマは開発時にあらゆるテストをくぐり抜けて、究極の状態で完成していますので、後から出っ張るものを取り付けると、やはり風切り音がうるさくなったり、デザインを壊してしまったり、燃費性能も悪化してしまうのが普通なんですね。昔はそれこそ、クルマもうるさかったのでひさしでも構わなかったのですが、今はクルマが高性能になったのだから、サイドバイザーにもその性能を悪化させる要因を持たせてはならないと、どの自動車メーカーも厳しい基準を設けられています。それをクリアするために、自動車メーカーと一体で試行錯誤しながら進化してきたのが現在のカーメーカー純正オプション商品としてのサイドバイザーです」(桑鶴副社長)

見た目には、クルマのデザインに自然に馴染むようにスマートになり、カラーもよく合って上質な印象を受ける、現在のサイドバイザー。今回、あらためてその効果のほどを確かめようと、編集部で実験を行なった。ライブハウスで使用する煙を使い、サイドバイザーあり/なしの状態で窓を少し開けた場合と、エアコンのみの場合で車内の換気の状況を比べてみたものだ。

いま重要視されている換気という行為、
サイドバイザーはどんな状況でも快適に実現する

映像を見てもらえれば、エアコンのみの場合と窓を開けた場合の差は一目瞭然。窓を開けると素早く換気が完了することがわかる。ただし、サイドバイザーがない状態では、風が車内に入ってくるばかりで乱気流が起こり、うまく煙が車外に抜けていかない。窓を大きく開ければ換気は早いが、それでは女性などは髪が乱れたり軽いものは飛ばされたりと、快適とは言えなくなる。それが、サイドバイザーありの状況では、ほんの少し窓を開けただけで煙がスムーズに外に吸い出されていくのがわかった。これなら確かに、雨や砂塵などの侵入を防ぎながら、素早く換気ができるはずである。

「創業当時とは違い、今ではほとんどのクルマにエアコンが装備されていますが、サイドバイザーの需要がなくならないのは、やはりこうした効果のおかげだと思っております。またお客様から、エアコンの風が直接当たるのが苦手なので、サイドバイザーがあって助かっている、というお話も伺っております。」(阿部社長)

モータージャーナリスト まるも亜希子氏モータージャーナリスト まるも亜希子氏

車内の空気が外に吸い出され、外から入る風は肌当たりがやさしくなる。まるで魔法のようなサイドバイザーの効果である。また、これから暑い季節になると、炎天下に駐車すれば車内の温度はかなり上がってしまうが、サイドバイザーの幅くらいで窓を開けておくことで温度上昇が抑えられるという。自宅など防犯上の問題がない場所で、ぜひ試してみたいものである。そして、こうした効果を突き詰め、性能を磨いて自動車メーカーの厳しい基準をクリアすることができるのは、創業当時から変わらず一貫してデザインから開発、製造まで内製体制を続けているからだ。

車内換気の重要アイテム“サイドバイザー”誕生の歴史から機能を見直す ~密閉回避で快適に~

「創業から現在までのノウハウがすべて蓄積されていることが、とても大きな強みであると感じております。開発、デザイン、製造まで、もっと言えば成形のための金型も当社で作っておりますので、各部署での連携が取りやすいですし、修正やトラブルへの対処も迅速に行えます。なかなか一発で完成することはなく、何度かトライ&エラーを繰り返しながら作られていくものですので、やはり全行程が社内でできることは、納期までのスピードという点でもメリットが大きいですね」(阿部社長)

「当社独自の取り組みとしては、自動車メーカーと一緒に開発をさせていただいておりますので、その段階でテストコースでの高速走行や風洞実験といった多くの“評価”というステップを踏んでいきます。いちばんハードルが高いのが、やはり風切り音などでクルマの本来の性能を悪化させないこと。厳しい基準以下に抑えるということが求められます。そのため、コンピューター上での流体シミュレーションにより、基準をクリアすることはもちろん、さらに良い提案ができるよう研究開発にも取り組んでおります」(桑鶴副社長)

納期はメーカーによって様々だが、一般的には発注から1年ほど、早ければ3~4ヶ月という場合もあるという。そうした短い期間で自動車メーカーの要望に応えられる、信頼のおける製品づくり。それができるのは、試行錯誤しながら積み重ねてきた知識と経験を、しっかりと最新の製品に生かしているからこそと言えそうだ。

さて今、社会もクルマも大変革を遂げつつある中で、未来のサイドバイザーにはどんな可能性があるだろうか。

「一時期より喫煙をされる方が減ったことや、大気汚染の問題などもあり、近年はあまりクルマの窓を開けないことが一般的になっていたように思います。しかし今回の世界的な外出規制などによって、CO2排出量が激減したといったニュースが聞かれたり、密閉空間を避けるという観点から、私個人としては再び“窓を開けての換気”、“その気持ちよさ”が見直されていくのではないか、と感じております。そうした中で、私たちが更に魅力的な、皆さまが望むような商品を提案できるかどうか。そこが今後の課題だと思います」(桑鶴副社長)

DNP田村プラスチックとなってから培った技術とノウハウが融合することで新たな製品が続々と生み出されている

2015年に大日本印刷株式会社のグループに入ってから、DNP田村プラスチックのデザイン力・技術力は大きく進歩したという。そこに、サイドバイザーを通じて培ってきた高い樹脂成型技術や製造ノウハウが融合することで、大きなシナジーが生まれている。目指すのは、「未来のあたりまえ」となる製品やサービスを創出して、暮らしやビジネスに新たな価値を提供することだ。

それはもしかしたら、先進の印刷技術であるハードコート転写フィルムや加飾フィルムなどを生かした、思わず手にとって眺めたくなるアートのようなデザインのサイドバイザーかもしれない。あるいはクルマだけでなく、電車やバス、船などの窓ガラスにサイドバイザーがついたり、今は想像もつかないような機能が実現する可能性だってある。

そうした未来のサイドバイザーや、シナジーによって登場する新たな製品は、必ずや私たちのカーライフ、暮らしをもっと豊かにしてくれるはずだ。そう確信しつつ、まるで黒子のようにクルマにピタリと寄り添い、目立たないけれど大事な仕事をしてくれているサイドバイザーに、これからも注目してほしいと思う。

DNP 田村プラスチック サイドバイザーの詳細はこちら

《まるも亜希子》

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