水族館 アクアマリンふくしま のこだわり…自然を再現した環境、20周年企画も[リアニマル]

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クラカケアザラシのくらまる(「北の海の海獣・海鳥」)
クラカケアザラシのくらまる(「北の海の海獣・海鳥」) 全 62 枚 拡大写真
「アクアマリンふくしま」の愛称で親しまれている、ふくしま海洋科学館(福島県いわき市)は、7月15日に開館20周年を迎えた。同館は東北最大級の水族館で、屋内外に体験型の施設を多く備える。開館当初はドーム型の建屋部分のみだったが、リニューアルを経て現在は小名浜港2号埠頭全体に拡大。敷地面積は5万6190平方メートルと、東京ドーム1.2個分に及ぶ。

展示されている生き物は約800種類4万点。自然や環境についても楽しみながら学べる場として、長く地域内外の人から愛されているという。今年3月末には来館者数1457万人を達成した。

◆福島の海と自然を伝える展示

アクアマリンふくしまという愛称は、水族館の“アクアリウム”と海洋博物館・科学館の“マリンミュージアム”を組み合わせた言葉だ。展示テーマは、「潮目の海」。暖流の黒潮と寒流の親潮は、福島県沖で合流する。その豊かな海に集まる生き物たちを展示しているのが、メイン水槽の「潮目の海」だ。水量2050トンの巨大水槽で、三角トンネルを境に2つに分かれている。黒潮水槽ではマイワシやキハダ、親潮水槽ではウミタナゴやマトウダイなどが飼育されており、中でも黒潮水槽に2万匹いるというマイワシの群れは圧巻。ガラス屋根から降り注ぐ太陽光を体に受けてキラキラと輝く。この水槽は2階と4階から見ることができる構造なので、2階では広大な海の中にいるような光景を、4階ではマイワシの群れや他の魚たちの姿を間近で楽しむことができた。また、三角トンネルは、ドーム型のトンネルよりも歪みが少なく魚たちの姿を正確に伝えられるのだという。



「ふくしまの川と沿岸」では、海へとつながる川の上流から下流、海岸の様子を再現。自然光を取り入れ植物と共に展示しているため、四季折々の風景が楽しめるという。また、「ふくしまの海~大陸棚への道~」では、海岸から水深200mほどまでなだらかに続く海底の生き物を展示。福島の海の特徴を様々な形で余すことなく伝えている。

◆同館の歴史と共に独自の視点で生き物を紹介…20周年企画展

開館20周年を記念して、3つの企画展も用意されている。7月15日からは、「シーラカンスからメダカまで ~さまざまな生き物が暮らす水の惑星『地球』~」と写真展「アクアマリンふくしまと歩んだ20年」がスタートした。

約4億年前に誕生して以来現代まで生き残ってきたシーラカンスは生きた化石とも呼ばれる魚で、同館では生物進化の謎を解く鍵となる生き物として開館当初から現地調査や研究を行っているという。「海・生命の進化」コーナーにてインドネシアとアフリカの標本を展示しているが、2種同時の展示は世界でもここだけ。また、2009年にはインドネシアで生きた幼魚の撮影に世界で初めて成功した。

そのような研究の知見を基に生物多様性について紹介しているのが、「シーラカンスからメダカまで ~さまざまな生き物が暮らす水の惑星『地球』~」(終期未定)だ。シーラカンスの種分化の歴史や、現在の生息地である東アフリカとインドネシア北部でどのような調査を行っているかを紹介。そして、調査の中でシーラカンスの胃からプラスチックゴミが発見されたことにも触れ、水深120m以上の深海にも人間が出すゴミの影響が及んでいることを知らせる。環境問題についても考えさせられる内容だ。合わせて、生物多様性の重要性にも言及。現在では年間4万種以上の生物が絶滅しているとされるが、多様性がなくなり生態系が崩れることは、人間を含めあらゆる生物に影響を与える。それを防ぐために我々はどのような行動をすべきかについて提案している。水槽展示では、特定の地域にしか生息していない固有種、広い地域に生息する広域分布種、世界で33種が確認されているメダカを題材にした種分化、従来はその地域にいなかった外来種、と4つのテーマに分けて魚を紹介。生き残るために進化を遂げてきた魚たちの特性や、人間が別の地域に持ち込んだことで問題になってしまった外来種について知ることができる。



写真展「アクアマリンふくしまと歩んだ20年」は本館2階スロープで開催(10月11日まで)。一般公募した館内での写真とエピソード159点から選ばれた20点が展示されている。

また、8月1日から11月3日には「卵から育てる水族館」を実施。同館は様々な魚を卵から育てることに挑戦しており、世界で初めてサンマの累代飼育にも成功した。食卓ではおなじみの魚だが、確かに泳いでいる姿はあまり見たことがない。鱗が剥がれやすく網で採集するのが難しいうえ、寿命もおよそ2年と短命で、非常に飼育が難しいとのこと。そのようなサンマを始めとする卵からの飼育に成功した魚や、人工保育展示日数世界最長を記録した深海ザメ「ラブカ」の標本展示を行う。



◆珍しい生き物がたくさん、飼育困難魚や新種も

前出のサンマを含め、ここでしか見られない珍しい生き物を飼育している点も特色の一つ。「北の海の海獣・海鳥」では、2015年からクラカケアザラシの”くらまる”が暮らしている。北海道で保護された個体だが、その生態は謎が多く飼育が非常に難しいとされている。オホーツク海などの冷たい海に生息しているため暑さに弱く、冬~春のみの展示だが今年は海水温が低い日が多いということで取材時にもその姿を見ることができた。寝ているのかと思ったら、ふと首を持ち上げ左右を見回すような動きをする。くらまるは大人しくマイペースな性格で、飼育員が手を焼くこともないそうだ。



また、日本では未確認種のため標準和名がなかったハゴロモコンニャクウオの展示・命名や、今年2月に新種として発表されたオトヒメコンニャクウオの共同研究も行っている。

同館では生き物の採集を業者に委託せず、飼育員が月1回程度、鹿児島県や和歌山県、北海道など全国各地の拠点に赴き実施している。そのため、水槽内でも生息地の環境を再現することができ、珍しい生き物の飼育成功につながっているという。また、北海道羅臼町の漁業共同組合の施設には海洋深層水の入った水槽があり、採集した生き物を蓄養することも可能で、貴重な深海生物も展示することができるのだそうだ。

◆動物たちのベビーラッシュ、可愛い赤ちゃんたちが続々お披露目

葛西臨海水族園、上野動物園園長などを歴任してきた安部義孝館長が「水族館と動物園の垣根を壊す、緑の水族館」と言うように、水族館の枠にとらわれず自然の素晴らしさや生き物の生き生きとした姿を見られるのが魅力の同館では、海の生き物だけでなく、哺乳類や鳥類も飼育されている。繁殖にも力を入れており、5月にはユーラシアカワウソ、6月にはホンドタヌキ、フェネックの赤ちゃんが誕生した。

「わくわく里山・縄文の里」の「カワウソのふち」で展示されているユーラシアカワウソは、2012年に絶滅宣言がなされたニホンカワウソと遺伝的に大変近く、外見的な類似性も高い。岩や木があり魚も泳ぐ水槽は、自然環境を再現すると共に、これだけの豊かな自然がないと生きていけないというメッセージにもなっているという。何もない水槽に魚を入れてもあっという間にカワウソに食べられてしまうため、岩や木を入れることでなるべく魚が隠れられる場所を作ったのだそう。エサは、ニジマスや鮎、鶏頭等を与えており、フィーディングタイムでそれらを食べる様子が見られる。現在は4頭の大人のカワウソと赤ちゃんが飼育されており、自然の環境に近づけたことで、各々落ち着ける場所に巣穴を作って暮らすようになったそうだ。「この種の人工保育は非常に難しく、国内でも2例しか成功例がないため、お母さんに育ててもらうのが一番安心」と飼育員は話す。そのため、ストレスなく出産・育児ができるよう、エサをこまめに与えたり普段やっている作業を減らすなどの努力をしてきた。赤ちゃんは既に公開されており、「おしりがぷかーっと浮いてしまって上手く泳げていない頃の姿がとても可愛いので、ぜひ見てほしい」とのこと。



また、「わくわく里山・縄文の里」では7月20日から同館で初めて誕生したホンドタヌキの赤ちゃんの公開も始まった。人と自然がバランスを取りながら共生していた縄文時代を再現した同エリアには、他にもアズマモグラやカヤネズミなども展示されている。

フェネックが飼育されているのは、「子ども体験館 アクアマリンえっぐ」。7月15日から赤ちゃんも展示を開始した。初日は初めて歩く砂の感覚が楽しかったようで、小屋にも戻らずずっと歩き回っていたという。



◆子どもたちが自然を感じ生き物と触れ合えるように

研究・教育に注力しているため、子どもたちが自然や生き物を身近に感じられるような取り組みも数多く実施されている。

広さ4500平方mを誇る国内最大級のタッチプール「蛇の目ビーチ」は、磯、干潟、浜という海辺の自然を再現。裸足になって自ら水に入り、海辺の生き物に触れることができる(期間はGW~11月末まで)。その隣りにある「BIOBIOかっぱの里」はかつてどこにでもあった小川や池を再現し、カエルやメダカなどの生き物を飼育。こちらも春から秋には、小川で生き物と触れ合うことが可能だ。



「アクアマリンえっぐ」には、釣り場が併設されており、自分で釣った魚を調理してもらい食べることができる。ただ観察するだけでなく、釣って食べるところまで経験することで命の尊さを学べる場を用意した。

そのような食育的要素は、館内のレストラン「アクアクロス」や寿司処「潮目の海」にも。同館は、海の恵みを守るため、資源量の少ない魚をなるべく避けて、数が多く安定した魚介類を食べる「HAPPY OCEANS」運動に取り組んでおり、食事処のメニューでも比較的資源量の多い魚を提供。資源量の少ない順に赤・黄・青と信号機になぞらえて分類したリーフレットも配布している。例えば、クロマグロは赤、キハダは黄、カツオは青だそうだ。

◆貫いてきた生き物や自然への思い

この度無事に20年の節目を迎えた同館だが、過去には閉館の危機とも言える出来事があった。2011年の東日本大震災だ。人的被害はなかったものの、数度の津波によって水槽や建物、地下の電気設備が損傷。地域全体が停電したため、水の循環や温度維持ができなくなり、9割の生き物が死んでしまったという。しかし、全国の水族館・動物園の協力で、海獣類や鳥類の命を救うことはできた。事業調整グループ・企画チームの金成美枝チームリーダーは「当時はもう再開できないのではないかと感じるほどの被害だったのですが、館長が4ヶ月後の開館記念日には再開させると決めていたので、私達も必死に努力しました。他の園館や採集でお世話になっている漁師さんたちの協力なしではできなかったことです」と話す。そのような経験を乗り越えいわき復興のシンボルになったからこそ、今回新型コロナウイルスの影響で休館を余儀なくされたときも、「前向きにとらえて、小さなお子さんに生き物を探してもらえるような展示を新しく導入したり、水槽の水を抜いて研磨したりと、今だからできることを考えて取り組めた」という。



同館ではエンターテイメント性のあるショーは行っていない。フィーディングタイムも、生き物たちのエサの時間にしか見られない姿を見てほしいという思いから実施しているものだ。「ショーがあるとどうしてもその時間に合わせて行動してしまうと思うので、生き物たちをじっくり見ることができなくなってしまう。また、何もない水槽に展示した方が生き物そのものは見やすいのですが、自然界ではそういうところで生きているわけではないので、なるべく自然に近く隠れる場所もある形で飼育するように努めています」(金成さん)とのこと。自然を再現した展示や国内外の研究施設と連携した取り組みには注目が集まっており、そのような展示をしたいと他の園館からやってくる飼育員も少なくないそうだ。今後も、開館当初からの方針を貫き、自然を体感しながら生き物について学べる機会を提供していくとしている。



<取材協力:ふくしま海洋科学館>

自然を再現した環境で生き物を飼育する、アクアマリンふくしまのこだわり…20周年企画展示も

《吉田瑶子》

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