【ソニー VISION-S 試乗】ソニーが車両開発にこだわる思いを感じ取った

日本国内で初めて走る姿を披露したソニーのコンセプトEVモデル「VISION-S」
日本国内で初めて走る姿を披露したソニーのコンセプトEVモデル「VISION-S」全 14 枚

今年1月、米国ラスベガスで開催されたCES 2020で世界中が注目したのが、ソニーのコンセプトEVモデル『VISION-S』である。その車両が日本でこのほど公開された。この車両を開発した目的はどこのあるのか。ソニー敷地内での簡単な試乗を経て感じた印象をお伝えしたい。

車格はSクラス並み。搭載センサーはLi-DARを含めた33個

公開されているVISION-Sのスペックは、ボディサイズが全長4895mm×全幅1900mm×全高1450mmで、200kWのモーターを前後にそれぞれ1基ずつ配置した4WDのEVとなっている。

乗車定員は2+2の4名で、フロントシート前方には横長の大型ディスプレイを搭載。タッチ操作や音声認識を活用することで、直観的な操作で様々なエンタテインメント系コンテンツを視聴できるのも大きな特徴だ。ホイールベースは3000mmとメルセデスベンツ『Sクラス』並みで、車格としてかなりハイクラスを意識した造りとも言える。

また、センサーとして車内外の人や物体を検知・認識して高度な運転支援を実現するために、ソニーの車載向けCMOSイメージセンサーやToFセンサーなどを活用したセンサー類を合計33個配置。その構成はカメラ×13個、レーダー×17個、ソリッドステート型LiDAR×3個から成る。特にLi-DARは自動運転の実現に向けて今後の普及が期待されているもので、ソニーとしてもこのVISION-Sを通してこの分野に新参入することをCES 2020で明らかにしている。

「OVAL」をコンセプトにしたデザイン。インターフェイスもソニーらしさ

さて、VISION-Sの体験会は、東京・品川にあるソニー本社の敷地内で同乗する形で行われた。CES 2020でもすでに「実際に走れる」とは聞いてはいたが、会場内にある以上、“展示物”としか見ることはできなかった。しかし、この日、屋外で走っている姿を目の当たりにするとCES 2020では感じられなかったクルマとしてのリアル感が伝わってくる。その印象はまったく異なった印象となるから不思議だ。

開発におけるデザインテーマは「OVAL(楕円)」とし、ボディから車内に至るまですべてがそのコンセプトに包まれている。外観で特徴的なのがフロントグリルを中心に広がるイルミネーションラインで、スマホでドアロックを開閉するときに光が走る! ドアをアンロックすると光が外側に走り、その動きは収納式ドアハンドル、リアコンビランプにまで流れるように表現される。この動きもOVALデザインの一環なのだ。

車内に入るとここもまたOVALデザインの下で構成されている。左右に広がるダッシュボードにはパノラミックスクリーンと呼ばれる高精細ディスプレイが包み込むようにレイアウトされ、各表示は必要に応じて左右へ移動させられる。たとえば、目的地までのルート設定を助手席側でしたい時は指先でフリックすれば、センターにあったマップを助手席側へと移動できる。また、走行中に動画コンテンツを見たいときも運転席からは見えにくい助手席側へとその映像を移動させられるのだ。

音楽に包み込まれてドライブする姿は「走るウォークマン?」

オーディオへのこだわりもソニーらしさを感じさせた。没入感のある立体的な音場を実現する新たな音楽体験「360 Reality Audio」を実装しており、車内にいながらリアルかつ臨場感豊かなサウンドを楽しめるのだ。

この技術で凄いのは、これまで臨場感を高める技術として使われてきたサラウンドとは違い、臨場感を再現しながらボーカルや楽器など演奏者の存在が明確化できているということ。すでにホームオーディオやヘッドホンなどで実用化されている技術だが、これがプロトタイプとはいえ、車両に初めて実装されたのだ。

この包み込まれるサウンドを体験して思ったのが、「これって“走るウォークマン”?」ということ。ソニーは1979年に音楽を携帯することをコンセプトに初代ウォークマンを発売した。それまでの音楽を聴くスタイルを根底から覆す画期的アイデアとして世界を席巻することになるが、ソニーがこのシステムを駆使して次なるウォークマンとしてクルマを目指しても不思議ではない。

公道実験に向けて次なる試作車も準備中。車両製作にこだわる理由とは?

そして、いよいよ走行となった。走行した場所は石畳が続いており、走る条件としては酷な状態ではあった。それでもVISION-SはEVらしくスムーズにしっかりとした走りを示していた。一方で、ドアを閉める音や走行中に各所から響いてくるギシギシ音は、否応なくプロトタイプであることを感じさせるものだった。

この状態で公道実験をするのは少々ツライのではないか。そう思って担当者に話を向けると、なんとソニーは年度内の公道実験のために次なる試作車の製作を依頼中であるとの回答が返ってきた。

ソニーはこのVISION-Sを車両として販売する気はないという。にも関わらず、ここまで車両開発にこだわるのはどうしてなのか。それはセンサーを開発するには、クルマがどういうものかを知ることが欠かせない、との思いがソニーにはあるからだ。

自動車メーカーやサプライヤーからの求めに応じて開発していたのでは、ソニーとしてとしての独自性は出せない。結局は価格競争に陥ってしまう。そんな中で車両の製作に関わることでその知見が積み上がっていけば、他社にはマネが出来ない製品開発につながっていく。VISION-Sにはそんな思いが含まれているのだ。

とはいえ、これまで世の中にないものを数多く生み出してユーザーを魅了してきたのもソニーだ。それだけに、ソニーに対して期待する声は大きい。これまでもソニーは多くのクルマを試作車として公開してきた歴史があり、古くは2001年にトヨタと共同で“感情を持つクルマ”を発表しているし、最近ではドコモと組んで自動運転の実証実験にも参画している。21世紀に相応しい、アッと驚くようなスタイルのクルマがソニーから登場することを期待したい。

《会田肇》

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