【池原照雄の単眼複眼】トヨタ筆頭に危機時も強い体質…日本勢、今期は乗用車3社が黒字確保

トヨタ自動車元町工場
トヨタ自動車元町工場全 5 枚

リーマン時に比べ、最終赤字額は4分の1以下に縮小

自動車各社は2021年3月期の第1四半期(4~6月期)業績を公表するとともに、トヨタ自動車を除いて見送っていた通期予想も、スズキ以外が明らかにした。

新型コロナウイルスの影響は、2008年9月のリーマン・ショック時よりも「インパクトは、はるかに大きい」(トヨタの豊田章男社長)というのが、自動車産業の一致した受け止めだ。実際に4~6月期の経済成長(実質GDP年率換算)は日本が27.8%、米国が33%、ユーロ圏が40%といずれも戦後最大のマイナスに陥っている。

乗用車7社の業績について、リーマン直後である09年3月期実績と今期予想を、以下の表で比較してみた。最終損益(純利益)が赤字となる企業は5社から3社(未定のスズキは除く)に減少し、7社合算ベースの赤字額(同)も4分の1以下に減少する。そこからは、この10年余で、日本各社は総じて危機への迅速な対応力と、収益力の土台を強固にしてきた姿が見えてくる。

■乗用車メーカー7社の純利益(今期予想とリーマン直後の実績)
企業 今期予想 2009年3月期
トヨタ 7300(▲64%) ▲4,370(-)
ホンダ 1650(▲64%) 1370(▲77%)
日産 ▲6700(-) ▲2337(-)
スバル 600(▲61%) ▲699(-) 
スズキ 未定 274(▲66%)
マツダ ▲900(-) ▲715(-)
三菱自 ▲3,600(-) ▲549(-)
(合計)▲1,650  ▲7,026
*単位=億円、▲は赤字、カッコ内は前期比増減率で▲はマイナス

経営再建とコロナ危機が重なった日産と三菱自は巨額赤字に

乗用車7社のうち、リーマン時の09年3月期に黒字を確保したのは二輪車が健闘したホンダと、実質米国市場から撤退し、金融危機の影響が軽微だったスズキの2社だけだった。7社合算の純損益赤字総額は7026億円に及んだ。トヨタの営業損益は4610億円、純損益は4370億円と、いずれも空前の赤字に陥り、営業赤字は創業直後以来、実に71年ぶりだった。

金融危機で新車市場が一気に後退し、減産対応が遅れて在庫が膨らんだだけでなく、1ドル70円台の最高値に急伸した円高も各社の大きなダメージとなった。

そうしたリーマン時を上回るコロナ危機下で、各社が示した今期の業績予想(スズキを除く6社)は、トヨタ、ホンダ、SUBARU(スバル)の3社が黒字確保とした。ただし、膨大なコストを伴う経営再建策とコロナ危機が重なったため、日産自動車と三菱自動車工業はそれぞれ6700億円、3600億円という巨額の最終赤字に陥る。主力市場インドでの感染拡大の影響が大きいため、予想の開示を見送っているスズキも、この4~6月期から「実質赤字」(長尾正彦常務役員)となっており、通期での黒字確保は厳しい展開だ。

それでも7社合算ベースでの赤字額は09年3月期の7026億円から1650億円(スズキ除く)へと、4分の1以下に抑えられる。各社ともリーマン時の経験から、迅速に生産調整を進め、在庫を適切にコントロールしてきた。また、終わりなきテーマである原価低減への地道な取り組みを重ねてきた成果も見える。

リーマン時から損益分岐台数を200万台強下げたトヨタ

最大手のトヨタは4~6月期の純利益が74%の減益となったものの、1588億円を確保した。同じ時期にグローバルのライバルである独VW(フォルクスワーゲン)は2009億円(1ユーロ=125円換算)、米GM(ゼネラルモーターズ)は796億円(1ドル=105円換算)の最終赤字となっており、危機時におけるトヨタの収益基盤の強さが際立っている。

空前の赤字となった09年3月期のトヨタの連結販売は前期比15%減の757万台だった。黒字予想の今期は、このほど従来比で20万台多い720万台に上方修正したが、前期比20%減と落ち込みはリーマン時を上回り、逆に台数は下回る。原価改善力のパワーアップやスリム化した固定費によって生産・販売の損益分岐点が明らかに改善している。豊田社長は「リーマン時に比べて200万台以上」の引き下げができたと指摘している。

もっとも、トヨタを筆頭に健闘する日本勢にとっても、コロナ危機の先行きは読みづらく、一段の引き締めが必要だ。黒字予想を出しているスバルの中村知美社長は第1四半期の決算会見で、影響を受けやすい為替について「(足元より円高の)1ドル=105円を前提に計画利益を確保していく」と、自らを鼓舞した。

《池原照雄》

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