【池原照雄の単眼複眼】「資本」より「信頼」…ホンダとGMがめざす新たな提携のカタチ

ホンダとGMの燃料電池合弁会社が入るGMの米ミシガン州のバッテリーパック生産工場
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両社の屋台骨「北米」で濃密な協業へ

ホンダと米GM(ゼネラルモーターズ)が北米事業で、プラットフォーム(車台)の共有化など幅広い協業の検討を始める覚書を締結した。

両社は20年ほど前にホンダ製のエンジン供給などから協力をスタートさせ、近年は燃料電池車(FCV)や電気自動車(EV)分野などに提携を拡大していた。資本提携は今のところ検討されておらず、資本の重しを避ける一方で濃密な協業をめざすという、新たな提携スタイルを模索する。

合意によると、北米向けの複数セグメントでエンジンと電動パワートレーンを含めたプラットフォームの共有や共同開発を中核に、購買や生産効率の向上を目指した協力も検討する。両社はこれらによる投資やコストの節約効果を、電動化や自動運転といった先進技術領域への投資拡充に振り向ける方針だ。先進領域では、すでに協業を進めているが、今回、コネクティッドサービス(つながるクルマ)の共同開発なども検討することとした。

協業は両社の上級幹部による「合同ガバナンス委員会」が運営し、2021年初めには共同開発などに着手できるよう、スピード感も重視していく。北米事業は両社にとっての屋台骨だ。ホンダは2019年度の四輪車販売(479万台)の38%を北米に依存した。GMも2017年には不採算だった欧州からの撤退を決め、ホームマーケットである北米強化策を鮮明にしている。

技術へのリスペクトから信頼が芽生えた

重要市場での提携拡大は、不調に終わった場合のリスクも大きい。それでも両社を踏み切らせたのは、20年に及ぶ協業で培った相互の信頼関係が裏付けになったと言えよう。両社の提携の推移は以下のように段階を踏んできた。

■ホンダとGMの提携案件

・2000年 ホンダのV6エンジンとATを03年からGMに供給。ホンダはGMの車載通信システム「オンスター」を01年から北米で採用することに合意
・2013年 FCV向けシステムの共同開発で合意
・2017年 FCスタック(燃料電池)などの合弁生産会社を折半出資で米国に設立
・2018年 EVのバッテリーシステムの共同開発で合意。ホンダは自動運転のGMクルーズに出資し、無人ライドシェア車の共同開発で合意
・2020年 ホンダはGMのプラットフォームとバッテリーを採用し、GMが生産するEV2車種を23年から北米に投入で合意

両社の提携は、ホンダが環境性能の高いエンジンおよび自動変速機(AT)をGMに供給する2000年の契約調印から始まった。その後、2013年にFCV分野に提携を拡げることになるが、この時、ホンダの担当技術者が「GMからはわれわれのエンジン技術をリスペクトいただき、お互いの信頼が芽生えて新たな提携に進めた」と話していたのが、印象的だった。

今回の協業拡大に関しては、資本提携が伴わないことを危惧するメディアの報道が多く見られる。確かに株式の持ち合いは、資本を通じて双方のつながりを強固にする役目はある。しかし、世界の自動車大手といえども、電動化や自動運転、コネクティッドなど「CASE」と呼ぶ新たな技術・サービス群すべてを自前で賄うのは容易ではなく、各社はイノベーションのオープン化に走っている。

しなやかさが求められるCASE時代の提携

そこでは、必ずしも資本の出番は求められていない。相手やテーマが余りにも多いからだ。資本提携は、関係がこじれた際の足かせにもなる。それは09年に業務・資本提携を発表したスズキと独VW(フォルクスワーゲン)のケースが記憶に新しいところだ。両社は提携から1年もしないうちに対立関係に陥り、15年の国際仲裁による解決まで長期を擁すこととなった。信頼関係もないままお互い描いた提携メリットは、まったく「同床異夢」だったのが破談の原因だ。

トヨタ自動車はSUBARU(スバル)やマツダ、スズキとの提携で、株式の持ち合いを原則としている。かつて、財務担当幹部に「業務提携では新型車計画などお互いの機密も開示するので、相手への出資は誠実さや覚悟を示すもの」といった趣旨の狙いを聞いたことがある。ただ、トヨタにも苦い経験はある。ディーゼルエンジンの共同開発のため、06年にいすゞ自動車に出資したものの、両社の技術的な意見対立もあって実現には至らなかった。トヨタが資本を引き揚げたのは18年になってからで、いすゞ株を12年間も塩漬けする結果となった。

これらの事例は、提携では「資本」ではなく、まずは「信頼」こそが重要だということを示す。とりわけ、意志決定や開発にスピードが求められるCASE時代の提携は、資本関係に拘泥しない、しなやかさが大切となる。それぞれのブランドアイデンティティを保持するには、一方による支配関係を生みやすい資本は邪魔になるケースもあろう。今回の協業拡大について、ホンダの倉石誠司副社長は「ホンダの商品独自性や優位性は維持しつつ、大幅なコスト効率の向上が実現可能」とコメントしている。ホンダとGMがめざす北米での関係強化は、自動車産業の提携の新たな理想形をめざす試みでもある。

《池原照雄》

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