【千葉匠の独断デザイン】『ホンダe』はホンダらしい? らしくない?

ホンダe(上)と初代シビック(下)のフロントマスク
ホンダe(上)と初代シビック(下)のフロントマスク全 16 枚

EVを活かして初代シビックの面影

ホンダ シビック 初代ホンダ シビック 初代
EVというだけでなく、『ホンダe』は話題豊富なクルマだ。インパネに並ぶワイドなディスプレイ、音声認識システム、CMS(カメラモニタリングシステム=いわゆるミラーレス)、ポップアップ式のドアハンドル…等々、世界初ではないにしても目新しいアイテムに事欠かない。いつの頃からかホンダが忘れていた進取の気風の伝統が、ホンダeで復活したように思えるのは嬉しいことだ。

かつてのチャレンジングなホンダに憧れた世代なら、ホンダeに初代『シビック』の面影を見て拍手したくなるだろう。デザイナーが具体的に初代シビックから引用したのは、ショルダーから2回折れてCピラーへと立ち上がるラインだけ。初代シビックを彷彿とさせるのは、むしろプロポーションだ。

ホンダe アドバンスホンダe アドバンス
サイズ的に近い『フィット』とは正反対にAピラーを後ろに引き、ボンネットをあえて延ばした。水平基調のサイドビューは、Cピラーをやや強めに傾斜させて台形のイメージ。80年代にAピラーを前進させたキャブフォワードやベルトラインを前傾させたウエッジシェイプが流行り始める前の、昔懐かしくも安定感のある2BOXプロポーションをホンダeは描いてみせた。

FF・2BOXのルーツは50年代の英国のミニだが、VWの初代『ゴルフ』より2年早い1972年に登場した初代シビックは、それを世界に広めたパイオニアのひとつと言って間違いないだろう。そこにホンダeのデザインは立ち返った。モーターをリヤに置くRRレイアウトを活かせば、衝突安全基準を満たしながらフロントオーバーハングを70年代のように短くできる。EV専用車というプロジェクトは、初代シビックのプロポーションを再現する絶好のチャンスでもあったのだ。

N-ONEに続く2作目のヘリテージデザインは「諸刃の刃」

ホンダ N-ONE 新型ホンダ N-ONE 新型
しかし…。自社の伝統にある名作に題材をとり、それをモダンに表現することを「ヘリテージデザイン」と呼ぶが、ホンダがこれをやったのは『N-ONE』に続いてホンダeで二度目。N-ONEは往年のN360(67~71年)をモチーフにした。

もともとホンダは過去を懐かしむような社風ではなく、N-ONEのデザインが提案されたとき、社内には多くの議論があったという。そこでひとつ殻を破ったからこそホンダeのデザインが成立したわけだが、ホンダのラインナップのなかで「ヘリテージデザイン」は少数派。ホンダeの主戦場であるヨーロッパにN-ONEはないから、あちらでは変わり種と見なされても不思議はない。

そんなホンダeのデザインが「ホンダらしい」としたら、それ以外の(日本ではホンダeとN-ONE以外の)ホンダ車は「らしくない」ということになってしまう。ホンダeはホンダ・ブランドにとって諸刃の刃なのだ。

EV商品戦略はどこに?

ホンダe アドバンスホンダe アドバンス
せっかくのEVだから、その特性を活かして本流とは違うデザインをやるというのは理解できる。しかし今や、EVを1車種だけ出して済む時代ではない。VWは「ID.」というEVサブブランドを掲げてすでに『ID.3』と『ID.4』を世に出し、それに続く車種もコンセプトカーで予告済みだ。メルセデスは旗艦『EQS』を手始めに6車種のEV専用車を展開すると発表した。一方、グループPSAはプジョー『e-208』、『DS 3 クロスバック・E-TENSE』、シトロエン『e-C4』と、内燃機関車と同じボディでEVを送り出しつつある。

EVをどうラインナップしていくか、その展望を示すべき時期に来ているわけだが、ホンダeを見てホンダの今後のEV商品戦略を想像するのは難しい。主流のデザインからかけ離れているからだ。

北京モーターショーで発表されたホンダSUV e:コンセプト北京モーターショーで発表されたホンダSUV e:コンセプト
ひとつあるとすれば、BMWミニがオリジナル・ミニのイメージを守りながら車種展開しているように、初代シビックをモチーフに複数のEVをシリーズ展開することだろう。しかしこれはなかなか考えづらい。案の定、ホンダが北京ショーで発表したSUV『e:concept』はホンダeとはまったく違って、むしろ本流に沿うスポーティでモダンなデザインだった。

EV戦略の先陣を切る存在のホンダeではあるけれど、後に続くEV商品群のイメージリーダーでないのは明らかで、単発のニッチ商品だと理解した方がよさそうだ。それが成功するか否かは、主戦場のヨーロッパでEV市場がいつまでニッチであり続けるかにかかっている。

ホンダe アドバンスホンダe アドバンス

千葉匠|デザインジャーナリスト
デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

アクセスランキング

  1. タイヤブランドGTラジアルよりオールシーズンタイヤ「4シーズンズ」発売
  2. 1回あたり300円、10分で施工できる凄技コーティング、洗車機との相性も抜群『CCウォーターゴールド』が選ばれる理由PR
  3. マツダ、電動セダン『EZ-6』世界初公開、24年発売へ SUVコンセプトも…北京モーターショー2024
  4. スバルとスカイラインにフィーチャー…第4回アリオ上尾 昭和平成オールドカー展示会
  5. 【ホンダ ヴェゼル 改良新型】開発責任者に聞いた、改良に求められた「バリュー」と「世界観」とは
  6. 「ホンモノのGT」が日常を小冒険に変える…マセラティの新型『グラントゥーリズモ』が誘う世界とはPR
  7. アルファロメオ『ステルヴィオ』後継モデルは、大容量バッテリー搭載で航続700km実現か
  8. 新型アコードに搭載、進化したハイブリッド「e:HEV」が示すホンダの未来【池田直渡の着眼大局】
  9. トヨタが新型BEVの『bZ3C』と『bZ3X』を世界初公開…北京モーターショー2024
  10. Sズキが電動マッサージ器を「魔改造」、25mドラッグレースに挑戦!!
ランキングをもっと見る