【MaaS体験記】オンデマンド交通で地域交通の見本に…仙台市・宮城県「TOHOKU MaaS」

秋保オンデマンド交通の車両がお出迎え
秋保オンデマンド交通の車両がお出迎え全 6 枚

今回取材したのは、東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)が宮城県・仙台市とともに取り組む「TOHOKU MaaS 仙台・宮城 trial」だ。2020年2月に実証実験の第一弾を行い、9月から第二弾を開始している。

第二弾では、実施エリアを宮城県内に拡大し、交通系デジタルチケットの拡充や新たなオンデマンド交通サービスを加えた。プロジェクト関係者にお話しを聞きつつ、実際に現地でモビリティ体験をしてきた。

TOHOKU MaaS 仙台・宮城 trial とは

仙台駅の地下鉄の駅構内にもポスターが掲出されていた仙台駅の地下鉄の駅構内にもポスターが掲出されていた
仙台・宮城県で実施するこの取り組みは、複数の移動手段や観光などの検索・予約・決済をシームレスに行える仕組みづくりとして展開。交通系デジタルチケットや飲食チケットの購入、レンタカー予約やロッカー予約、旅行プランニングサービスに加えオンデマンド交通の予約手配までできる大きな取り組みだ。JR東日本では、2019年に伊豆と新潟で、2020年の前半には群馬で観光型MaaSの実証実験を実施してきた実績があり、2021年に東北6県で実施する東北DC(東北デスティネーションキャンペーン)につなげる計画のひとつでもある。

TOHOKU MaaS 仙台・宮城 trial は専用のウェブサイトがあり登録は無料。すでに『Ringo Pass』の会員であれば、新たに登録しなくてもすぐに利用することができる。決済もクレカだけでなく『モバイルSuica』での決済が可能だ。とくに9月からの実証実験で追加されたオンデマンド交通は、旅行者と地域住民のどちらも利用できる新しい地域交通のあり方として注目できる。

オンデマンド交通とモビリティ体験

仙台駅でスマホを提示する仙台駅でスマホを提示する
ウェブサイトから会員登録を済ませ、仙台周辺の電車やバスなどが2日間乗り放題の『仙台まるごとパス』を購入する。仙台駅から秋保エリアに行くには、愛子駅まで仙山線で行き、そこから「秋保オンデマンド交通」を利用する

改札口で駅員にスマホ(仙台まるごとパス画面)を提示すると、駅員も慣れている様子。鉄道の移動中にスマホからオンデマンド交通を予約し愛子駅に到着。愛子駅のロータリーから秋保オンデマンド交通の車両に乗車し、目的地の秋保大滝を目指した。

オンデマンド交通で向上するエリア内移動の利便性

「秋保オンデマンド交通」の運転風景「秋保オンデマンド交通」の運転風景
愛子駅から秋保大滝までタクシーだと通常6000~7000円くらいかかるが、このオンデマンド交通だとひとり1回500円で利用できる。「GoToトラベルキャンペーン」で観光客も増えてきた印象だが、一人で回られる方やカップルなど若い世代が多い一方で地域住民や高齢者の利用はまだ少なく、「クレカ決済やスマホがネックになっているのではないか」とドライバーは話す。

ひととおり景観を楽しみ、そこから秋保エリア内にある有名な『pizza & cafe 森のオーブン Dottore』まで再度オンデマンド交通を予約し乗車する。

「秋保オンデマンド交通」の乗降ポイントの目印「秋保オンデマンド交通」の乗降ポイントの目印
秋保エリア内でもこれまで観光地と施設間の移動ニーズはあったが、路線バスやタクシーではすぐに行きたくても行けない状況が続いていたそうで、今回オンデマンド交通を実施したことで、助かっている店や施設は多いとドライバーは言う。

また、秋保中学校では、生徒自身が地域の交通について考えるカリキュラムを取り入れており、その一環として今回のオンデマンド交通に60名あまりの生徒全員が順次体験乗車を実施するとのこと。生徒たちにとって、将来の地域交通を考えるための身近な教材になるに違いない。

MaaSの本質は移動が便利になること

JR東日本MaaS・Suica推進本部の高木茂次長は、今回のオンデマンド交通は、ただのキャンペーン期間の運行で終わりではなく、今後の地域交通として地元の方々にもご利用いただけるような取り組みにつながればと話す。他県で実施した実証実験とは異なり、既存の交通機関に対応した紙の割引券や乗車券をデジタル化するだけではなく、新しい移動手段を創出することでリアルな移動を便利にし、移動自体を活性化する取り組みとしてみることができる。

今回のオンデマンド交通の運行は、地域に通じたバス会社・タクシー会社であるタケヤ交通と秋保交通の2社が担当している。ちょうどコロナが流行したため一時停滞はしたが、駅からの移動体験を改善するために、時間をかけ足を運んで関係者に働きかけたことで、交通事業者や地元の方々の理解と協力を得られたとJR東日本MaaS・Suica推進本部の東北エリアMaaS推進プロジェクトの遠藤潤爾課長は話す。

ただ一方で、ウェブサイト上でのオンデマンド交通への誘導や予約操作、チケットの見せ方などでブラッシュアップが必要だと話す。今後は、そうしたブラッシュアップを重ねていき、今回の取り組みをモデルケースに、東北DCでは他の地域にも展開していく予定だと言う。

配車システムはNTTドコモの「AI運行バス」

ブラウザからオンデマンド交通を予約ブラウザからオンデマンド交通を予約
今回の配車システムを担っているのは、NTTドコモの「AI運行バス(R)」のシステムだ。このシステムでは運行車両に専用タブレットを配布・設置し、AI運行バス®のシステムで振り分けられた予約情報と配車指示がリアルタイムで各車のタブレットに配信される。

今回はAPI(Application Programming Interface)をJR東日本に提供することで、ウェブサイトからオンデマンド予約を可能にしたが、そのAPIとシステム連携には多くのトライ&エラーが必要だったとNTTドコモ モビリティビジネス推進室の西田担当部長は話す。

地域の活性化なくしてその先の観光開発はない

今回ご紹介したオンデマンド交通のほか、仙台・宮城trialでは「仙台まるごとパス」をはじめとする周遊に便利なフリーきっぷや、高速バスのチケットが複数用意されており、フリーきっぷには観光施設の入場料が割引になるクーポンなど特典もついてくる。

また、旅の行き先を決めるための観光情報についても「利用者に広く周遊していただきたいので、エリアの偏りなく、通年で魅力的な観光スポットを選定した」と宮城県の担当者が話すように、2月の実証実験と比べて大幅に拡充された。

仙台市の担当者は、「体験プログラムなどのアクティビティとモビリティを一体的に案内できるようになると、観光型MaaSとしての利便性はさらに高まると期待している」と期待を寄せる。

観光客向けと地域住民向けという2つの側面を持つ地域交通の課題としては、交通事業者の経営悪化と乗車率低下という悪循環が根幹にはあるが、地域住民の高齢化に加えて地域交通の担い手であるドライバーも高齢化することにより、本来必要なはずの移動自体ができなくなってしまう恐れも今後十分に考えられる。

そんな中で今回のオンデマンド交通は、地域の移動に関わる切実な問題に真摯に向き合ったということと「地域の活性化なくしてその先の観光開発はない(JR東日本・高木次長)」という強い信念により実現された取り組みだといえる。今後10年先の地域交通や生活がいかに豊かになるか長期的な視点での評価が期待される。

■MaaS 3つ星評価
エリアの大きさ:★★★
実証実験の浸透:★
住人の評価:★★
事業者の関わり:★★★
将来性:★★★

坂本貴史(さかもと・たかし)
株式会社ドッツ/スマートモビリティ事業推進室 室長
グラフィックデザイナー出身。2017年までネットイヤーグループ株式会社において、ウェブやアプリにおける戦略立案から制作・開発に携わる。主に、情報アーキテクチャ(IA)を専門領域として多数のデジタルプロダクトの設計に関わる。UXデザインの分野でも講師や執筆などがあり、2017年から日産自動車株式会社に参画。先行開発の電気自動車(EV)におけるデジタルコックピットのHMIデザインおよび車載アプリのPOCやUXリサーチに従事。2019年から株式会社ドッツにてスマートモビリティ事業推進室を開設。鉄道や公共交通機関におけるMaaS事業を推進。

《坂本貴史》

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

教えて!はじめてEV

アクセスランキング

  1. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  2. 最後のフォードエンジン搭載ケータハム、「セブン 310アンコール」発表
  3. 船上で水素を製造できる「エナジー・オブザーバー」が9年間の航海へ
  4. 高機能ヘルメットスタンド、梅雨・湿気から解放する乾燥ファン搭載でMakuake登場
  5. 「三菱っぽくないけどカッコいい」ルノーの兄弟車となる『エクリプス クロス』次期型デザインに反響
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 米国EV市場の課題と消費者意識、充電インフラが最大の懸念…J.D.パワー調査
  2. 低速の自動運転遠隔サポートシステム、日本主導で国際規格が世界初制定
  3. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  4. BYD、認定中古車にも「10年30万km」バッテリーSoH保証適用
  5. 「あれはなんだ?」BYDが“軽EV”を作る気になった会長の一言
ランキングをもっと見る