世間の電動化論争に埋もれているが、ソフトウェアは、今後の車両開発の要になり、市場競争力の源泉を担う。ソフトウェアは、CASEの4つのすべての領域の性能と機能を特徴づける存在だからだ。
30年以上前から、車両にコンピュータ制御は導入されていた。現行車両でもコンポーネントごとにECUやコンピュータを多数搭載している。しかし、自動運転や高度な安全運転支援機能、コネクテッド機能などを強化しようとする場合、これら部品間の連携や相互作用が重要となり統合的な制御が不可欠となる。
この統合ECUアーキテクチャがなにをもたらすのか。OEMの取組み、サプライヤーはどう動くべきか。この点について、日本政策投資銀行 産業調査部 産業調査ソリューション室 調査役 高柿松之介氏が1月29日開催のオンラインセミナー「2021年自動車業界展望~CES2021調査報告・ソフトウェア競争戦略~」で、今後の自動車業界の変化と、その中核とも言えるソフトウェア領域の動向について講演する。セミナーの概要と自動車産業とソフトウェアの今後について話を聞いた。
――2020年は、新型コロナウイルスの1年だったと思います。自動車業界を振り返ってみてどんな年だったのでしょうか。
高柿氏(以下同):2020年の自動車業界は、新型コロナのパンデミックによって上半期の落ち込みを下半期でどう回復するかという点に注目が集まりました。先進国では、経済の回復が見られますが、欧州は秋以降の第2波とそれによるロックダウンの影響が懸念されています。グローバルの着地点は、昨年の15~20%ダウンといったところだと予測しています。
その中で突出しているのは中国です。中国は想定より強い回復をみせており、2020年の減少幅も相対的に小さいと見込まれています。ただ、政策支援に依存している部分もあるので、2021年に踊り場が現れるか注視しています。
――米国や日本はどうですか?
米国も回復基調にありますが、予断を許さない状況です。しかし、思いのほか、消費者側の対処、メーカーの対応が早く落ち込みを抑えているようです。北米の大手OEMは、パンデミックやロックダウンに対して、いち早くオンライン販売を強化しました。こうした動きは、ロックダウンの状況下でも新車販売やメンテナンスの急激な落ち込みを和らげる要因となった可能性があります。
日本は、前年の消費増税の影響などもありながら、グローバル水準未満の落ち込みに落ち着きそうです。ただ、オンラインへの切り替えがどのように進むかといった懸念材料もあります。
――各国の状況を踏まえて、今後の自動車産業とソフトウェアについてはどんな分析をされていますか。
中期予測のポイントという条件がつきますが、車という商品特性や販売スタイルなどの変化が進むと思っています。気候変動問題への対応として電動化の観点は欠かせませんが、もう一つ重要な観点はソフトウェアです。
たとえば安全運転支援機能や自動運転、コネクテッドサービスの強化が、ソフトウェアアップデートによって可能になる可能性があります。これにより、車というハードウェアが同じでも後から機能アップできるようになり、販売スタイルや開発工程・生産技術にも影響が現れるでしょう。
車のビジネスは、完成品を売って終わりではなく、買ってもらってからがビジネスの本流になるかもしれません。設計・生産技術では、部品やコンポーネントの共通化が進み、標準的なプラットフォームとコンポーネントをベースとした開発の効率化が図られます。
――車がPCのようになるイメージですか?
そのような側面が強まる可能性はあります。そうなると車種ごとの差別化ポイントや付加価値は、ソフトウェアに依存する領域が増えていきます。車のアーキテクチャも変わってくるでしょう。ソフトウェアでさまざまな付加価値を実現する、たとえば自動運転は、複数の制御がバラバラに動いていては難しいので、これらを統合するECUアーキテクチャが必要になります。
サプライヤーは、現在独立しているECUを、複数コンポーネントを統合してシステムアップする必要があります。統合アーキテクチャそのものは、おそらくOEMが主導する形で決まっていきますが、サプライヤーは、それに対応するシステムを提供できることが求められます。サプライヤーの競争領域はそこにシフトしていくでしょう。
統合アーキテクチャは、カーOSの標準化にもつながります。ここまでくると、まさにPCのようにハードウェアとソフトウェアの分離が明確になり、車の作り方が変わってきます。OTAによるアップデートが真価を発揮するようになり、新車の販売方法が変わってきます。
車は完成してから出荷するのではなく、出荷してから機能アップしていくものになるかもしれません。
――それは、現在の自動車業界のとって大きな変革だと思いますが、メーカーやサプライヤーはどうすればそのような変化に対応できるでしょうか。
そうですね。なにかを作るという点は共通ですが、モノづくりとソフトウェア開発は同じではありません。大きな変化に対応するには、まず体力が必要です。開発費、製造コストなどの投資効果は、いわゆるR&Dに近いものになります。内製するにしても外製するにしても人材やスキルの課題もあります。
――そうなると、IT業界のように日本のメーカーやサプライヤーは厳しくなるのでしょうか。
そうともいえません。海外と異なり、日本のOEMとサプライヤーは密な連携のもとでモノづくりを続けてきました。こうした関係では、統合アーキテクチャとシステムアップのすり合わせがやりやすい可能性もあると考えています。
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高柿氏が登壇する1月29日開催のオンラインセミナー「2021年自動車業界展望~CES2021調査報告・ソフトウェア競争戦略~」はこちら。