【ボルボ XC90 B5 1200km試乗】気兼ねなく乗れる「奥ゆかしい高級車」という個性[前編]

ボルボ XC90 B5 モメンタムのフロントビュー。プレミアムラージSUVとしては最も実用寄りのデザインを持つ。
ボルボ XC90 B5 モメンタムのフロントビュー。プレミアムラージSUVとしては最も実用寄りのデザインを持つ。全 30 枚

ボルボのフルサイズSUV『XC90』が今夏改良され、ガソリンパワートレインがマイルドハイブリッドとなった。そのベーシックグレード「B5 Momentum(モメンタム)」で1200kmほどツーリングする機会を得たのでインプレッションをお届けする。

XC90 B5マイルドハイブリッドの長所と短所

XC90はリーマンショックを期にフォード傘下を離脱し、中国の浙江吉利控股集団の完全子会社となったボルボがフォード時代に学んだエンジニアリングを叩き台としながら完全新設計したモジュラープラットフォームで作られた第1号モデルで、本拠地ヨーロッパ市場での登場は2015年。

B5マイルドハイブリッドはまず欧州で2019年に投入が開始された新鋭パワートレインで、これもXC90が第1号。本国では同じB5のネーミングでガソリンとディーゼルの2種類が用意されるが、日本にはガソリンのみが投入され、非ハイブリッドディーゼルの「D5」はディスコンとなった。

本国ではガソリンと同じB5のネーミングでディーゼルマイルドハイブリッドも販売されているが、日本には今後も投入されない見通し。高出力ガソリンエンジンのマイルドハイブリッド「B6」、プラグインタイプのストロングハイブリッド「T8 Twin Engine」とあわせ、すべてガソリンハイブリッドとなった。

試乗車のモメンタムはベースグレードだが、それでも車両価格は800万円台となかなか立派なもの。オプションとしてエアサスペンション、グラストップが装備されていた。ドライブルートは東京を起点とした南東北周遊。最遠到達地点は宮城県の気仙沼市で総走行距離は1202.7km。道路比率は市街地2、郊外路3、高速5、山岳路僅少。1~2名乗車、エアコンAUTO。

では、XC90 B5マイルドハイブリッドの長所と短所を5つずつ列記してみよう。

■長所
1. 静粛性、防振性、熱効率が大幅に上がった感のある新パワートレイン。
2. マイルドハイブリッド化でアイドリングストップの質感、持続性が大幅向上。
3. モデルの熟成が進み至極快適。とくに素晴らしいのはハイウェイクルーズ。
4. エアサス装備の場合、最低地上高を252mmまでリフトアップ可能。
5. 押しつけがましさや圧迫感がなく、3列目まできっちり明るいインテリア。

■短所
1. CO2排出量ベースでみてガソリンマイルドハイブリッドはディーゼルにいまだ及ばず。
2. 燃費良く走るには少々コツを要する。
3. 運転支援システムは十分良いが、フロントランナーとしてはそろそろ次の一手を。
4. 日本版ナビゲーションシステムは使いやすいとは言えない。
5. 重量級SUVらしさを求めるユーザーにとっては薄味のドライブフィール。

登場から5年、弱点は大きく解消された

ボルボ XC90 B5 モメンタムのリアビュー。余分な工夫を排しながら上質感を上げることに腐心していることがうかがえる。ボルボ XC90 B5 モメンタムのリアビュー。余分な工夫を排しながら上質感を上げることに腐心していることがうかがえる。
ボルボは昔からクルマはあくまで移動、運搬の手段であり、人間の生活の中では脇役、黒子にすぎないという考えを強く持っているカーメーカー。新世代ボルボの第1号車である現行XC90はサブブランドの「ポールスター」を除くと最も高価格帯のモデルだが、道具感重視のクルマ作りという点は不変である。

外装は細部まで精緻な造形を持つが、距離を置いて見ると存在感を主張しない。内装も素材はオーセンティックだが、高級感や華やかさの演出は最小限で、むしろわざと地味に見せるせるようデザインされている。そういう万事控えめなクルマ作りは威圧感や過剰性を求める顧客が多いプレミアムセグメントにおいては一種の“ハズシ”に近いものがあるが、それが奏功してか、クルマであまり目立ちたくはないが質の高い移動体は欲しいというニッチマーケットを掴むことに成功し、後発のミッドサイズ、コンパクトも含め、地味でリーズナブルな高級車の定番という地位を確立しつつある。

そのXC90の改良モデルだが、欧州登場から5年を経て、なかなか良い感じに熟成されているように思われた。登場当初に比べて一段レベルが高くなったと思われたのは動的質感。舗装面が荒れ、間隔の狭いアンジュレーション(路面のうねり)が続くような箇所で微振動が大きめに感じられるという初期型の弱点は大きく解消し、路面を選ばずとても滑らかになった。

タイヤは275/45R20サイズ、XL規格のコンチネンタル「SportContact5」。それほど柔らかいタイヤではないが、それでも高速道路のクルーズ時の滑走感はこのクラスにふさわしい素晴らしさだった。

もっとも、ラージSUVのカテゴリーにおいては絶対的な質感の高さはアドバンテージにはならない。絶対性能が良くなければそれだけで顧客を逃がしてしまう世界だからだ。むしろ、どういうクルマを良しとするのかというメーカーの考え方の違いが生む特性の差異のほうがセールスポイントになる。

2.1トンの大型SUVでもセダンに近いフィールを持つ

ボルボ XC90 B5 モメンタムのサイドビュー。3列シートSUVは3列目が狭いケースが多いが、XC90は大人でも一応きちんと座れるだけのスペースが確保されていた。ボルボ XC90 B5 モメンタムのサイドビュー。3列シートSUVは3列目が狭いケースが多いが、XC90は大人でも一応きちんと座れるだけのスペースが確保されていた。
特質という観点でXC90の動的な特性を一言で表現すると、モノコックボディの大型クロスオーバーSUVの中で最もセダンに近いフィールを持つ1台。試乗車の自重は約2.1トンと、立派にヘビー級。似たようなウェイトのライバルを見回すと、たとえばメルセデスベンツ『GLE』は、その自重の慣性力を生かす形でサスペンションストロークをたっぷりと使い、沈み込んだり浮き上がったりした状態から水平に戻るときにそこでバウンシングを柔らかくピタッと止めるようなチューニング。それによって大型車独特の心地よさを乗る人に感じさせる。

同じヘビー級でもXC90はそれとちょうど対極の性格で、大きめの路面不整箇所を通過してもストロークの短い領域でそれを吸収するようなフィール。ロール角も小さめで、ハンドリングは道や速度域を選ばず弱アンダーが保たれた。そのかわりサスペンションの変位が小さいぶん、揺れ幅は大きくなる。重いクルマならではの特別感より、普通の乗用車的に乗りこなせることを優先させたような感じである。

クロスカントリー4x4ライクなテイストを楽しみたい人にとっては物足りないだろうが、この高価なクルマをファミリーのリゾートエクスプレスとして気兼ねなく使い倒したいという人にとっては、クルマに余計な気を回さずにすむという点で、とてもウェアラブルに感じられるだろう。

前席。シートの座り心地はきわめて良好だった。前席。シートの座り心地はきわめて良好だった。
車内は前述のように、オーセンティックなマテリアルを多用しつつ、装飾性を抑えた作りになっていることと、全長5m級の3列シートSUVの中では3列目のスペースに比較的ゆとりがあるのが特徴。もちろんこのクルマの一番の使い倒しパターンは3列目を収納し、4名乗車+長期ヴァカンスの大荷物積載というものであろうが、3列目も見かけは1、2列目に比べると粗末だが、スペース、座り心地ともそこそこイケてるという感じだった。

また、3列目を立てた状態で後方に残る最小限の荷室もライバルに比べると実用的だ。これらはエクステリアをクーペライクに仕立てる、大型エンジンを積むといった華美な要素と引き換えに得られたという感が強く、これもまた道具に徹したがゆえの特徴と言えそうに思えた。

思うがままに景色を求めて走り回る楽しさ

奥松島にて。白砂が生む松島ブルーな海の色が素晴らしかった。奥松島にて。白砂が生む松島ブルーな海の色が素晴らしかった。
旅の様子も交えながらもう少しクルマの特性について述べてみよう。東京を出発後、往路は宇都宮、福島の飯坂温泉などを経由し、泊地の宮城・仙台へ。前述のようにXC90は大柄・重量級ボディでありながらセダンライクなドライブフィールを持つのが特徴。大型車的な大船に乗った感、重量車でありながらスポーツカー的なハンドリングといった演出がなく、刺激性という点では強豪ぞろいのライバル群の中では最も薄いほうだ。動力性能も必要十分だが、驚くほど速いわけでもなく、ごくフツーである。

うわっこれはすごい!!と感じさせるような面白みには欠けているが、クルマのコントロールで不要な緊張を強いられず、かつ基本的なフィールが上質という味付けは、長時間ドライブではどこまでも自然い走り続けられるような感覚を生じせしめる。その点、XC90はとことん旅向きの性格と言える。

宮城からは松島、三陸道、およびリアス式海岸に沿って走るワインディングの国道45号線などを経由し、津波で甚大な被害を受けた南三陸町、さらに気仙沼市南部にまで達した。2019年のゴールデンウィークにフルサイズエステート『V90』で長旅をしたときも同様だったのだが、出発から500kmを超えたあたりではクルマそのものに対する観察の興味はあらかた消え失せ、主役はウインドウから見える景色のほうに完全移行していた。

クルマよりも外界のほうに意識を向けさせたファクターは視界の良さと採光性の良さ。ボルボに限らず、このふたつは旅気分を盛り上げるのにモロに効く。自分でハイデッカー車を乗り回しているような気分になれるからだ。

奥松島から三陸海岸へと北上するルートは心に染み入るような感傷性を帯びた景観が魅力。東北道を走っていたときはロングドライブでも心地よいという程度の感想だったのだが、このエリアでは移動のストレスは最小限に、思うがままに景色を求めて走り回る楽しさで気分が上がること甚だしかった。道具系高級車としてなかなか良いキャラクターではないかと思われた。

インテリセーフが売りになるという時代は過ぎた

ボルボ XC90 B5モメンタムボルボ XC90 B5モメンタム
帰路、少しだけオフロードも走ってみた。試乗車にはエアサスペンションが装備されており、オフロードモードにすると最低地上高を250mmまで上げることができる。日本のカタログには記載されていないが、渡河性能は水深45cmと、クロスオーバーSUVとしてはかなりのものである。

今回走った場所での水たまりの最大水深は20cm弱で、ホイールの下4分の1くらいが水に浸かる程度で、車高を上げる局面はなかった。その水たまりの底はぬかるみの強いマッドコンディションだったが、距離が短かったこともあって通常のスタビリティコントロール機能だけで何の問題もなく走れた。

もっとも、XC90のサスペンション構造は完全に乗用車系なので、左右輪の高低差が大きい不整路では車体の横傾斜は大きく出るし、それが連続するとアッパーボディーの揺すられも大きくなる。あくまでそこまでアンジュレーションが大きくないフラットダート向けのものであって、それ以上のクロスカントリーについてはある程度はこなせるにしても、それに向いたものとは言い難いようにも思えた。

ボルボの特質のひとつである先進安全&運転支援システムは、十分に良い働きをした。筆者が初めて「インテリセーフ」と称する先進技術パッケージ装備車、旧型『V60』で長旅をしたのは5年ほど前のことだが、その時代からの進化は相当なもの。高速道路でレーンキープ+前車追従クルーズコントロールを使って巡航していても、速度差のある大型車の追い抜きで速度調節に迷ったり、日本特有の路面ラインの引き方(高速道路の分流や二重線など)に遭遇たときに誤認識したりといったことが大幅に減った。ボルボが目指すレベル4までにはまだまだ遠いという感じだが、実用性は非常に高いと言える。

ただ、この分野は日進月歩で、ライバルもそれぞれ素晴らしい機能を実現させてきているので、今のレベルのインテリセーフが売りになるという時代はとっくに過ぎ去っているのも事実。ボルボが安全で世界に先んじるというブランドアイデンティティを崩したくないのであれば、そろそろ次の段階に移行していかねばなるまい。

奥ゆかしい高級車の難しさ

ボルボ XC90 B5 モメンタムのラジエータグリル。ボルボ XC90 B5 モメンタムのラジエータグリル。
商品力のまとめ。クルマに一切気兼ねすることなく乗れるという、プレミアムセグメントではちょっと珍しいキャラクターのXC90の改良型は、税込み年収3000万円ないしそれ以上の高所得層がヴァカンスに使い倒すための上質な実用車を欲するというようなニーズにはぴったりのクルマだった。

内外装とも控えめで華美さを排したクルマ作りは奥ゆかしさがあり、そういうありかたを知的と感じる層にも向くだろう。半面、高級車ならではの押しの強さを求める層の目には、そういうキャラクターがモロに短所に映るだろう。おそらく選択肢にも入らないはずだ。

高級車作りで華美さを排するというクルマ作りを貫くのは難しいこと。実際、XC90も出来は素晴らしいものの、このキャラクターなら下のクラスの『XC60』で十分と思われて上級モデルに誘導するのが難しいという側面もありそうな気がした。

2015年以降、新世代ラインナップへの更新を図ってきたボルボ。ここまでは想像以上に上手くやったという感があるが、難しいのはここから。アイデンティティを保ちながら次にどんな新しい一手を打てるのか、ちょっと注目である。

後編ではB5マイルドハイブリッドの技術的な特徴や実際のパフォーマンスを見つつ、それをモデルケースにマイルドハイブリッドの今後の発展性などについて考察してみたい。

試乗車にはグラストップが装備されていた。これはぜひ付けたいところ。試乗車にはグラストップが装備されていた。これはぜひ付けたいところ。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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