日本は48Vマイルドハイブリッドを忘れていないか、地場産業の電動化戦略…岩城富士大氏[インタビュー]

日本は48Vマイルドハイブリッドを忘れていないか、地場産業の電動化戦略…岩城富士大氏[インタビュー]
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電動化はエネルギー政策やグローバル経済を見たマクロ視点がある一方、地域経済や個々の製造業にしてみれば今後の取引にかかわる現実の問題だ。グローバル展開するTier1以外のサプライヤーはこの問題にどう対峙すればよいのだろうか。

元マツダエレクトロニクス開発部の部長で、現在、(株)横田工業商会上席技術顧問と広島大学大学院客員准教授を兼務する岩城富士大氏が、2月18日開催【オンラインセミナー】「自動車産業のパラダイムシフト・地域別インパクト~48Vマイルドハイブリッド車の特徴・狙い・見通し~」で、48Vマイルドハイブリッドと地域の取組みについて講演する。どんな内容なのか、中国地方の自動車産業支援の中で、モジュール化や電動化へのパラダイムシフトへの取組みについて聞いた。

---:電動化シフトは世界中で進んでいます。しかし、地域やメーカーを個別に見ていくと、その捉え方や戦略に幅があります。そのあたりと、とくに岩城先生が取組まれた中国地方の自動車部品産業振興という視点で現状を整理していただけますか。

岩城氏(以下同):私は2005年マツダを定年退職後、ひろしま産業振興機構に移り、カーエレクトロニクス推進センター長として地域のモジュール化やカーエレクトロ二クス化など自動車産業振興に注力して来ました。これはマツダ在職中から取組んでいた「モジュール化」を地場産業振興に効率的に活用するための調査・研究を産学官連携した共同活動としてスタートしたものでした。

その後、中国経済産業局のNOVA調査(地域産業活性化調査)の結果を受け、次世代車両の電動化・エレクトロニクス化へ対応するため、地域のカーエレクトロニクス推進戦略(ひろしまカーエレクトロニクス戦略:2008年広島県策定)を策定しました。

2010~2018年には医工連携イノベーション拠点を設立して、医工連携によりカー・エレクトロニクスの強化を行いつつ2015年には次世代自動車社会研究会を設立し電動化時代の自動車の研究を深堀しました。加えて医工連携研究によって高付加価値化を図による開発の中には、ハイレゾサウンドシステムの開発による居眠り運転防止といったユニークなものも進めました。

中国地域における自動車産業のパラダイムシフト、第一弾はモジュール化への対応でした。

1990年代から欧州で生産のモジュール化が本格化し、2012年には企画、設計のモジュール化へと進化しました。VWのMQB、トヨタのTNGA、日産のCMF、マツダのコモンアーキテクチャなどに代表される共通プラットフォームによる車両設計手法です。マツダのコモンアーキテクチャは、単に共通台車を利用するだけでなく、モデル開発をベースにハードウェア・ソフトウェアのアーキテクチャ設計をOEMが主導し、必要なコンポーネントをサプライヤーから調達するという特徴があります。

モジュール化のパラダイムシフトのあと、エレクトロニクス化・電動化へのパラダイムシフトが起こりました。

---:マツダは、ハイブリッド車やEV車がまだ多くありません。この取組みはどのような形で表われるのでしょうか。

マツダはビルディングブロック戦略で段階的に電動化に取組んでおり、現在は24Vマイルドハイブリッド車を展開中でEVも2020年に投入されました。また同年12月には、2年以内に48Vマイルドハイブリッド(MHV)やPHEVの投入などフルラインの電動化を宣言しています。

日本ではEV、ストロングハイブリッド(HV)、PHEVなどの電動化議論の中で、48VMHVの存在が忘れられているようですが、総量でのCO2規制への対応や今後の新興国ニーズを考えると48VMHVも現実解のひとつといえます。

2014年から2017年、科研費研究を大学自動車研究者12名で欧州、アセアン、中国、北米の自動車産業調査を実施しました。その中で、ドイツ・コンチネンタル社より2030年のグローバルのパワートレイン別のシェア予測データを受けました。48VMHVが22%と電動系では一番の高い比率と予測しています。欧州ではかって環境問題に対して、ディーゼルエンジンとガソリンエンジンのダウンサイジングで対応してきました。その後、2021年にCO2 95g/kmと規制の強化に対応して電動化の波が起き、様々な電動車両が登場しました。その中で48VMHVは欧州発のユニークな電動化技術といえます。

48VMHVは台あたりのCO2の削減効果はさほど大きくないものの、パワーデバイスが安価であることや電源の48V化による回路電流の低減からのワイヤーハーネスの軽量化など、採用される技術の容易さや部品コストを考えると、使いやすい技術といえます。また人体の感電限界とされる60Vに対して48Vは感電の心配がなく整備に特別な資格が不要で、新興国などへの電動化展開が容易なことも特徴です。

---:欧州、中国などでは48VMHVの需要が期待できるということでしょうか。

ボッシュの予測で48VMHVの国別シェアは2025年、中国で30%、欧州および北米で25%程度になるとして大きなシェアを予測しています。

CO2削減のトップランナーたるEVや燃料電池車、PHEVに対して、電動化のべ―スラインとして多くの台数を量販してCO2削減の面積を稼ぐのが48VMHEV、それぞれ効用があるのです。

2006年に中国地域では、ハイブリッドやEVの電動化が地域の製造業にどれだけインパクトを与えるかを分析し電動化への対応を検討しました。当時マツダが中国地域で域内調達している部品は部品点数で60%、金額で40%、調達額では8000億円と推定されました。当時はエレクトロニクス化が進んでいる部品は大部分が名古屋や関東などの域外からの調達と海外からの調達であり、地域からの調達はエンジンやドライブトレーン、車体部品、空調装置などでしたが、今後これらの部品群もエレクトロニクス化や電動化で影響を受けると予測され、対応できないと5000億円程度が地域から消えてしまう予測となりました。

2020年では、HEVが主力で、EVはもう少し先との予測(ATカーニー予測 HV 17% PHV 9% EV1%)があり、HV化による地域のリスクは480億円と想定して、新たなカーエレクトロニクス部品の開発を行うことでビジネスを取り戻すべく、インバータやバッテリーパックなど16システムについてリカバリープランを策定し電動化に向けた開発を行っています。

---:電動化議論ではCAFE規制のクリアという問題もあります。マイルドハイブリッドではどう対応していくのでしょうか。

今回、著作した自動車産業の「パラダイムシフトと地域」の中で述べていますが、マイルドハイブリッドのCO2排出量の実力値から見て緊詰の2021年CO2、95gr/kmの達成はクリアは出来ません。一方、CO2改善性能が高いEVやPHEVはコストが高く販売量の全量を、EVやPHEVとするわけにはいきません。プロダクトミックスを上手に組み合わせて全体としての達成が必要です。マイルドハイブリッドはベースラインで比較的安価に面積(販売量)を稼いでいく電動システムと思います。

英国シンクタンクPAコンサルティングが2019年のCO2排出実績から予測した2021年CO2規制の達成予測では、わずか数社のみが達成可能という厳しい予想であり、2021年に向けて各社電動化を加速しています。

一方、EUではメーカー間(グループ)でCO₂排出量をプールすることが認められており、基準達成に程遠いメーカーでも、余裕を持って基準をクリアしたメーカーとプールすることで合意できればペナルティを軽減可能。そのため企業間の交渉が活発化しています。トヨタはレクサスやスバル、マツダをプール化で救うと予測されています。

欧州各社はEVやPHEVのラインナップを増やしながらCO2削減を進めていますが、全体コストや内燃機関技術の有効活用の観点から48VMHVによるボトムアップのスキームも捨てていません。

日本でも軽自動車の電動化が議論され、スズキが12VMHVに加えて48VMHVの開発を表明しています。マツダの48VMHV採用宣言と合わせ、日本でも一定の48VMHVが出現すると思われます。48V系電動コンポーネントが欧州勢による独占を回避するために、国内サプライヤーの取組みが必要だと思っています。またアセアンや新興国への電動化へ48VMHVの応用は忘れてはならないと思います。

岩城氏が登壇する2月18日開催【オンラインセミナー】「自動車産業のパラダイムシフト・地域別インパクト~48Vマイルドハイブリッド車の特徴・狙い・見通し~」はこちら。

《中尾真二》

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