『GT-R50 by Italdesign』の販売は日産じゃない?カロッツェリアの伝統「フオリセリエ」とは

GT-R50 by ItaldesignとSCIのジャスティン・ガードナー氏
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銀座四丁目交差点に面した「日産クロッシング」に、『GT-R50 by Italdesign』が3月末までの予定で展示されている。『GT-R NISMO』がベースとはいえ改造車ではなく、イタルデザインが生産するニューモデル。50台限定という超少量生産モデルだ。

イタルデザインのビジネス拡大

イタルデザインはご存知のように、北イタリア・トリノを本拠とするカロッツェリア。1968年にデザイナーのジョルジェット・ジウジアーロとエンジニアのアルド・マントバーニによって設立された。2010年にアウディ(正確にはそのイタリア子会社のランボルギーニ)に買収されて以降は、主にVWグループのために活動してきた。「主に」というのは、カメラのニコンD4など工業デザインの分野では幅広いクライアントの仕事を続けていたからだ。

ではなぜ、VWグループのイタルデザインと日産が手を組んだのか? 2015年にイタルデザインのCEOに就任したヨルク・アスタロシュは、会社を成長させるためにVWグループ以外のビジネスを拡大しようと考えた。

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そのひとつが、2017年に発表した自社開発の『ゼロウーノ』だ。アウディ『R8』の5.2リットル・V10を積み、0-100km/h加速が3.2秒というハイパーカー。翌年にはそのオープンモデルの『ゼロウーノ・デュエルタ』を加え、それぞれ5台を、世界のコレクターのために生産した。

そしてゼロウーノに続く第二弾のビッグプロジェクトとなったのが、日産との協業で開発したGT-R50 by Italdesignだ。

プロジェクトの発端は2017年

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日産はロンドンにNDE=日産デザインヨーロッパというデザイン拠点を持っている。19年3月のジュネーブショーで、当時その責任者だった青木護副社長(当時/現在は日産を退職)にGT-R50 by Italdesignの経緯を聞いた。

「最初はランニングプロトタイプのショーカーを作りたい、ということだけだった」と青木。「17年1月のデトロイトショーで、アウディがショーカー(Q8コンセプト)を出品していて、そのクオリティの高さに驚いた。しかも実際に走るという。それを製作したイタルデザインと何か一緒にできないかと考えた」

2か月後のジュネーブショーで、青木は上司のアルフォンソ・アルバイサ(17年4月からグローバルデザイン統括専務)と共にイタルデザインのブースを訪ね、アスタロシュCEOとミーティングを持った。昨年5月にイタルデザインが開催したGT-R50 by Italdesignの公式発表イベントでも、アスタロシュCEOが17年のジュネーブショーが今回の発端だったと語っている。

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「考えてみたら、2018年はイタルデザインの50周年で、19年はGT-Rの50周年。そこでGT-Rを前提にプロジェクトを進めることになった」と青木。「できれば生産化したい。それにはGT-Rのようにブランドバリューのあるクルマでないと難しいですからね。日産社内でこのプロジェクトをプレゼンテーションするうちに、興味を持ってくれる人が増えて、生産しようということになった」

とはいえ「日産車」として販売するのは保証やサービスの点で難しい。日産ではそこまで出来ないから、GT-R50 by Italdesign。販売主体はあくまでイタルデザインなのだ。

イタリアに続くフオリセリエの伝統

イタリアではこうした超少量生産車を「フオリセリエ」と呼ぶ。Fuori=外へ・外側、Serie=シリーズ。イタリア語はわからないが、継続的に生産する範疇の外側にあるもの、というニュアンスだろうか? 

トリノやミラノのカロッツェリアは100年前に、量産車のシャシーに独自のボディを架装した「フオリセリエ」を作ることで、その歴史をスタートさせた。カーデザインという文化が、そこから始まったと言ってもよいだろう。

60年代からモノコックボディが普及して「フオリセリエ」を作りにくくなると、例えばピニンファリーナやベルトーネは年産数万台規模の工場を設け、量産メーカーからクーペやオープンなどの少量生産を受託。一方、イタルデザインは工場経営のリスクを避けて、デザインとエンジニアリングを提供する会社として発展してきた。

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初代『ゴルフ』や『アルファスッド』をはじめ、イタルデザインが手掛けたデザインは数多い。70年代にカーデザイン界の寵児となったジウジアーロは、とにかく多作家だった。しかし昔も今も、イタルデザインの最大の収益源はエンジニアリングだ。創業まもない頃のアルファスッドや現代ポニーのプロジェクトでは、デザインだけでなく、工場全体の設計を請け負った。

VWグループ傘下になる少し前には、BMWの2代目ミニの設計、実験、認証まで担当。近年はアウディ『Q2』の設計と実験を手掛けている。そのためには試作車を作らなくてはいけない。Q2ではイタルデザインが70台余りのランニングプロトタイプを製作したという。

カロッツェリアの「フオリセリエ」の伝統が、60年代までとは違うかたちで試作車に活かされた。そして、そうした経験があるからこそ、イタルデザインはゼロウーノやGT-R50 by Italdesignのような「フオリセリエ」を世に出すことができたのだ。

売る人がいてこそのフオリセリエ

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ただし「作る」と「売る」の間には、前述のようにハードルがある。GT-R50 by Italdesignの販売はイタルデザインのホームページから注文することで始まったが、日本でそれを買う人を誰がフォローするのかが、当初は決まっていなかった。そこに白羽の矢が立ったのが、ケータハムやモーガン、KTMのインポーターとして知られるエスシーアイ(SCI)である。

「GT-Rのプログラムダイレクターのボブ・レイシュリーさんから、たまたま話があった」と語るのは、SCIでブランディングマネージャーを務めるジャスティン・ガードナー。「横浜に住んでいるので、日産の外国人には知り合いが多い。ボブさんとも以前から友人で、『ジャスティンの会社でできないか』と言われて、決まりました」

SCIは日本でのGT-R50 by Italdesignのインポーター業務を担う。クルマの通関からPDI(納車前点検)、認証手続き、予備車検などを担当するのだが、日本でナンバーを取得できるようにするのは簡単なことではない」とガードナーは語る。

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逆に言うと、そういう困難に立ち向かうインポーターがいて初めて、「フオリセリエ」が成り立つということだ。ガードナーがこう打ち明ける。「昨年暮れに中国でGT-R50 by Italdesignが展示されて、残りの生産分はすべて中国向けになるのかと思ったけれど、まったくそうなっていない」。SCIのように少量生産車を輸入するノウハウを持つ会社が、中国ではまだ育っていないからだろう。

「作る」のはできても、「売る」が伴わなくては「フオリセリエ」はありえない。近年はフェラーリやランボルギーニなど、自動車メーカーが自ら「フオリセリエ」を行う事例も見られるが、それはもともとカロッツェリアの伝統。それを次世代につなげる試金石として、GT-R50 by Italdesignを見たいと思う。

自動車メーカーとカロッツェリアがコラボして作り上げたクルマを、インポーターが責任を持って販売する。このビジネスモデルを確立できれば、カロッツェリアはもっと「フオリセリエ」に積極的に展開できるし、「フオリセリエ」を起源とするカーデザインの文化も広がるはず。そう期待したいものだ。(文中敬称略)

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《千葉匠》

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