アメリカの景色を変えた名車、初代『シビック』に試乗して感じた“ホンダDNA”

ホンダ シビック 初代モデル(ホンダ・コレクションホール収蔵)
ホンダ シビック 初代モデル(ホンダ・コレクションホール収蔵)全 32 枚

間もなく誕生から50年の節目を迎えるホンダ『シビック』。それに先立ってツインリンクもてぎ内にあるホンダ・コレクションホールでマスコミ向けのシビック取材会が催された。歴代のシビックを一堂に展示するとともに、当時のデザイナーが狙いや苦労を語っている。

そこで、動態保存されている当時のままの初代シビックにミニ試乗する機会を得た。オーナーでもあった筆者のインプレッションとともに、ホンダの功績を振り返りたい。

達成不可能と言われた排出ガス規制をクリアしたCVCCエンジン

ホンダ シビック 初代モデル(ホンダ・コレクションホール収蔵)ホンダ シビック 初代モデル(ホンダ・コレクションホール収蔵)
1970年代を前にアメリカは、きれいな空気を取り戻すためにマスキー法を制定した。これは、当時の技術レベルでは達成不可能と言われたほど厳しい排出ガス規制だ。この難関に挑み、世界で初めてマスキー法をクリアしたのがホンダである。ホンダは副燃焼室を備えた複合渦流調速燃焼のCVCCエンジンを初代のSB1型シビックに搭載し、73年12月に発売した。

CVCCエンジンはロングストローク設計のED型直列4気筒SOHCで、横置きにマウントされている。排気量は1488ccだ。圧縮比は8.1から7.7に下げられている。上級グレードの4ドア「GL」は高性能版で、最高出力はグロス値で73ps/5500rpm、最大トルクは10.2kg-m/3000rpmだった。

これ以外のグレードは63ps/5500rpm、10.2kg-m/3000rpmにディチューンされている。トランスミッションは4速MTと2速セミオートマチックのホンダマチックが用意されていた。

「クルマに合わせる」ドラポジまでもが懐かしい

ホンダ シビック 初代モデル(ホンダ・コレクションホール収蔵)ホンダ シビック 初代モデル(ホンダ・コレクションホール収蔵)
目の前に現れた初代シビックは、かなり小柄だ。ボディサイズは今の軽自動車より少し大きいだけである。だが、小さくても風格があるし、愛らしさも感じさせる。全高も1325mmとスポーツモデルのように低い。だから着座位置は低く、思いのほかスポーテイと感じさせるドライビングポジションだ。座ってみて、当時の愛車の雰囲気を思い出した。視界は良好だ。トレイ型のインパネだから開放感があり、前方の視界が広がっている。

ホンダが動態保存しているシビックCVCCは、右側にスピードメーター、左側にタコメーターを配し、助手席側には2つの補助メーターを並べた。操作系スイッチ類もシンプルに配置されている。快適装備もファミリーカーとしては不満のない内容だ。

ホンダ シビック 初代モデル(ホンダ・コレクションホール収蔵)ホンダ シビック 初代モデル(ホンダ・コレクションホール収蔵)
試乗したのは4速MT車である。燃費を意識してハイギアードなギア比だが、試乗コースは3速ギアまで入れるのが精いっぱいの直線が短いレイアウトだった。シングルキャブ仕様だが、エンジンが暖まるまではアイドリングが不安定で、ブルブルとストールしそうになる。この頼りなさも40年ぶりに感じた。

暖気が済んでからは振動が消え、音色も軽やかだ。ギアを1速に入れ、アクセルを踏み込もうとする。が、この瞬間に今のシビックとの違いを思い知らされた。ペダル配置が極端にオフセットされ、思っていたより左側にアクセルペダルがあったのである。

しかもクラッチは奥が深く、アクセルとブレーキは逆に浅くて軽い。ちょっと内側を向く運転姿勢を強いられ、右足が疲れた。だが、当時のFF車ならではの、クルマに合わせるドライビングポジションまでもが懐かしいと感じた。

50年前のクルマだと考えれば

ホンダ シビック 初代モデル(ホンダ・コレクションホール収蔵)ホンダ シビック 初代モデル(ホンダ・コレクションホール収蔵)
低回転は心もとない。だが、アクセルを踏み込んでいくと気持ちよくパワーとトルクが盛り上がる。CV型キャブを2連装する「RS」は6500回転まで軽やかに回った。これに対しCVCCエンジンは応答レスポンスが今一歩で、高回転も苦手だ。だから引っ張らないで、フラットなトルクをうまく使ったほうが気持ちよく走れる。車重も755kgと軽量だから軽やかな加速と感じられるのだ。

しかも高回転まで回すと、意外に排気サウンドが耳に心地よかった。快音を放つのはホンダエンジンに共通する美点だ。小気味よい変速も楽しめる。初期型のCVCCエンジンのため、アクセルを閉じたときの回転落ちの悪さが気になった。だが、今となっては、この空走感までもが懐かしい。この弱点は80年に登場したCVCC IIでかなり改善され、扱いやすくなっている。

ホンダ シビック 初代モデル(ホンダ・コレクションホール収蔵)ホンダ シビック 初代モデル(ホンダ・コレクションホール収蔵)
サスペンションは4輪ともストラットの独立懸架で、これに細身のバイアスタイヤを組み合わせていた。トレッドが狭いこともあり、それなりにロールを誘う。また、ステアリングにはパワーアシストもないからFF車特有のキックバックが伝わってくるし、アンダーステアも強めに出る。だが、復刻された6.00-12サイズのヨコハマ製バイアスタイヤを上手に履きこなし、乗り心地も穏やかだ。しかもアクセルを閉じてのタックインも楽しめるなど、短時間の試乗でもFF車らしさを満喫できた。

ブレーキはフロントにディスクブレーキを採用し、リアはドラムブレーキだ。1500シリーズはマスターバックを装備しているため軽いタッチで減速できるが、制動性能そのものは現代のクルマと比べると心もとない。慣れるまでは気を遣った。が、50年近く前に誕生したクルマだと考えると、トータル性能と商品性は高いと感じる。

アメリカの景色を変えた20世紀の名車

ホンダ・コレクションホールで開催されている企画展“CIVIC WORLD”ホンダ・コレクションホールで開催されている企画展“CIVIC WORLD”
ちなみにCVCCエンジンを積んだ初代シビックは、75年に19万台あまりが北米に輸出された。そして80年には66万台に迫る数を北米に送り出し、アメリカの景色を変えてしまったのである。また、シビックCVCCは75年から4年連続して米国連邦環境保護庁(EPA)の燃料経済性評価においてトップに輝いた。初代シビックが20世紀の名車の1台だったことが分かるだろう。

今につながるホンダのDNAを色濃く宿す、CVCCエンジン搭載の初代シビックに乗れたことは幸せだった。その魅力と功績を多くの人に伝えて欲しいと思う。

ホンダ シビック 初代モデルと片岡英明氏ホンダ シビック 初代モデルと片岡英明氏

片岡英明|モータージャーナリスト
自動車専門誌の編集者を経てフリーのモータージャーナリストに。新車からクラシックカーまで、年代、ジャンルを問わず幅広く執筆を手掛け、EVや燃料電池自動車など、次世代の乗り物に関する造詣も深い。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

《片岡英明》

片岡英明

片岡英明│モータージャーナリスト 自動車専門誌の編集者を経てフリーのモータージャーナリストに。新車からクラシックカーまで、年代、ジャンルを問わず幅広く執筆を手掛け、EVや燃料電池自動車など、次世代の乗り物に関する造詣も深い。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

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