【三菱 デリカD:5 1400km試乗】とりとめもない旅へと駆り立てる3つの要素[前編]

三菱 デリカD:5 アーバンギア。下段のランプが前照灯なのが、フロントマスクの大きな特徴だ。
三菱 デリカD:5 アーバンギア。下段のランプが前照灯なのが、フロントマスクの大きな特徴だ。全 32 枚

三菱自動車のラージクラスミニバン『デリカD:5』で1400kmほどツーリングする機会があったので、インプレッションをリポートする。

【画像全32枚】

デリカD:5は半世紀以上の歴史を持つデリカブランドの第5世代モデル。2007年1月デビューというオールドモデルだが、2019年に内外装、パワートレイン、シャシーなど各部の大規模変更でリフレッシュされ、今日も延命中。

デリカのイメージと言えば、第2~第4世代で営々と築いてきた“1ボックスのクロスカントリー4x4”というものだった。第5世代では歴代モデル、とりわけ第4世代の「スペースギア」と比較すると、仕様、デザインともオフロード色は大幅に薄まった。が、それでもディーゼルエンジンを搭載し、ある程度のクロスカントリー能力を持つミニバンという独特のキャラクターで、少数派ながら明瞭な存在感を発揮し続けている。

テストドライブ車両は前述のリフレッシュ時に新設された都会志向グレード「アーバンギア」。ドライブルートは東京を起点とした東北周遊。往路は福島、岩手・一関経由で盛岡へ。そこから国道106号線で三陸の宮古に出て後、国道45号線三陸道、宮城・名取、福島浜通りなど、太平洋沿岸を駆けて東京に戻る――というもので、総走行距離は1389.7km。常時1名乗車、エアコンAUTO。

筆者は改良前の6速AT版でも新潟・奥只見~福島・檜枝岐を巡っており、本サイトで試乗記をお届けしているので、それとの差分も意識しながらレポートしてみよう。

では、デリカD:5アーバンギアの長所と短所を5つずつ。

■長所
1. パワートレインの騒音・振動、ロードノイズなどが大幅に減少した。
2. オンロードにおける敏捷性は改良前に比べ明らかに向上した。
3. 高い着座位置と広い窓が生む開放的かつ安心感のある眺望が旅気分を盛り上げる。
4. シートバックが柔軟でフルフラット時の寝心地良好。長時間運転での疲労も少ない。
5. 車両感覚が明瞭でボディサイズのわりに運転しやすい。

■短所
1. オンロード重視になったぶん、サスストロークを生かした乗り味では後退。
2. 外観はオフロード色が薄れ、独自性が弱まった。
3. インテリアデザインは前時代的で魅力薄。
4. 運転支援システムは拡充されたが、車格を考慮するとステアリング制御が欲しい。
5. 必要十分な能力はあるが、付加価値を考えるともう少しパワーが欲しい。

アドベンチャーからタウンカーへの変貌

三菱 デリカD:5 アーバンギア。広大なフロントウインドウという特徴は健在。顔つきは改良にともない激変した。三菱 デリカD:5 アーバンギア。広大なフロントウインドウという特徴は健在。顔つきは改良にともない激変した。
インプレッションに入っていこう。2019年に行われたデリカD:5の改良ではエクステリア、インテリアのデザインがガラリと変わったことが話題になったが、実際にドライブしてみたところ、デザインにとどまらず、モデルの性格そのものが当初と少なからず変わったように感じられた。一言で表現すれば、「アドベンチャーからタウンカーへの変貌」である。

激変したのはサスペンションのチューニング。ロールは小さく、ステアリングフィールは確かなものとなり、舗装路での敏捷性、安定性は確実に上がった。改良前はいささかノイジーだったディーゼルエンジンは騒音・振動対策が一気に進み、大変静かになった。6速から8速へとステップ数が増えたATは燃費性能の向上に大いに貢献していた。ロードノイズの遮断も旧型に比べて大きく進化した。ライバルが長足の進歩を遂げる中では決して高機能とは言えないが、運転支援システムも充実をみた。

半面、デリカシリーズがもともと持っていたオールテレーン性というキャラクターは大幅に後退した。オンロードでの扱いやすさの向上と引き換えに、鉄板の下で4輪がゆるゆると自由運動をしているかのような気持ちの良いオフロード車的フィール、路面の不整や水たまりを踏み越えてもステアリングの修正なしに針路が維持される“ばく進感”は影をひそめた。

フロントシート。改良でダイヤモンドステッチをあしらったデザインに変わった。あまり趣味が良いとは言えない。フロントシート。改良でダイヤモンドステッチをあしらったデザインに変わった。あまり趣味が良いとは言えない。
内外装は都会志向となったぶん、アドベンチャー感は希薄に。とくに内装はオフロード愛好家の仕事場という雰囲気が消えた。さりとて高級感の演出が上手いわけでもなく、中途半端な印象になった。

改良を境にデリカD:5の販売台数は急伸。昨年はコロナ影響が長引いたことで落ち込んだが、今年に入ってふたたび好調さを取り戻しているところをみると、このイメチェンは顧客からおおむね好意的に受け入れられているとみていい。

ただ、三菱自動車が過去に営々と築いてきた屈強なオフローダーというブランドイメージがほとんど継承されなかったのはちょっともったいない。せっかくデザインをアーバンギアとノーマルの2ラインにしたのだから、アーバンギアはこれでいいとして、ノーマルのほうはもうちょっとワイルドに振っても良かったのではないかと思った。

ステアリングの据わりはミニバン屈指の良さ

ダッシュボードのデザインも全面変更。アウトドアムードよりラグジュアリーさを重視したものに。ダッシュボードのデザインも全面変更。アウトドアムードよりラグジュアリーさを重視したものに。
では、論評に入っていこう。まずはロングドライブの走りを支えるボディ&シャシー性能だが、前段で述べたように性格は改良前からかなり変わり、オンロードミニバンらしさを感じさせるものになった。カーブで横Gがかかったときのロール角は改良前に比べて明らかに小さく、しっかりと踏ん張るような足どりで山道もぐいぐい走ることができた。空車重量2トン近い重量級ミニバンだが、ミニバンに不慣れなドライバーでもあまり不安を抱かずにロングドライブをこなせそうだった。

高速道路やバイパスなど速度レンジが高い道路でも安定性は大変よろしかった。とくに優れていたのは直進性で、ステアリングの据わりはミニバン屈指の良さ。これは2007年のデビュー当初から変わらず維持されてきたデリカD:5の美点である。

一方、クルーズフィールについては改良前とどっちが気持ち良く感じられるか、ユーザーによって好みが分かれそうに思えた。旧型はサスペンションの上下動幅を豊かに使うようなイメージで、大型車の通行で舗装面がワダチだらけになったような老朽化路線でも路面の不整を大径タイヤがゆるゆると受け止め、アッパーボディはゆっくりと揺られるような独特のSUVフィールがあった。それに対して改良モデルの動きは至って乗用車ライクな動きだった。

デリカD:5はFWD(前輪駆動)とAWD(4輪駆動)をダイヤルスイッチで切り替えられるようになっているが、両モードの違いは結構ハッキリしており、AWDのほうが断然良い。とくにワインディングロードではハンドリングがニュートラルに近づくだけでなく、ボディの振られ方が穏やかになるため快適性の面でもAWDに分があった。東京出発後、盛岡までは2WD、そこから三陸経由で東京帰着まではAWDといった具合にメリハリをつけてみたが、燃費的にはほとんど差が認められなかったので、常時AWDに入れていてもいいかなという気がした。

進化幅が大きかったポイントは静粛性

三菱 デリカD:5 アーバンギア。アッパーボディの絞り込みの小さなスクエアフォルムが特徴。三菱 デリカD:5 アーバンギア。アッパーボディの絞り込みの小さなスクエアフォルムが特徴。
ボディは2019年の改良でサスペンションマウント部をはじめ多くの場所が補強を受けたという。サスペンションセッティングが大きく変わったため新旧でのボディ側の差分を体で感じ取ることはできなかったが、サスペンションが固められても不正路面からの大入力を余裕をもって受け止めるくらいの強度があるのは確かだ。

デリカD:5のプラットフォームはダイムラークライスラー(現ダイムラー)と共同開発したもので、初出は2005年の初代『アウトランダー』という古いものだが、いまだにアップデートで延命を図れているあたり、最初の設計がよほど優れいていたものとみえる。

乗り心地は基本的には良い。2トン近い車重の恩恵で、フラット感は申し分ないくらいの高さだった。が、ワイルドなイメージとは裏腹にフリクションの小さいヌルヌルとした乗り心地を持っていた改良前と比べると、若干ハーシュネスが強まった感があったのも確か。ガタガタと乗り心地が悪いというわけではなく、路面の荒れがきついところでゴトゴト感が出やすくなったという感じである。サスペンション強化でマウントラバーにかかる負担が大きくなった影響かもしれない。

改良前と比べて進化幅が大きかったポイントは静粛性。タイヤは225/55R18サイズの横浜ゴム「ジオランダーSUV G055」という、未舗装路や浅い積雪程度なら乗り越えられるマッドアンドスノータイプで、コンフォート系のサマータイヤに比べるとノイズ面では不利と予想していたが、実際にはパターンノイズが思いのほか小さめだったこととボディの遮音性強化の合わせ技で大変静かであった。また、エンジンルームとキャビンの間の隔壁も遮音性能が強化されているようで、エンジンノイズの室内への侵入も少なくなっていた。

装着タイヤは225/55R18サイズのヨコハマ「ジオランダーSUV G055」。可もなく不可もなくといったところ。装着タイヤは225/55R18サイズのヨコハマ「ジオランダーSUV G055」。可もなく不可もなくといったところ。

とりとめもない旅へとオーナーを駆り立てる

据わりのよいハンドリング、良好な乗り心地、静粛性の高さの3点があれば、遠乗りが俄然楽しくなる。このドライブの主目的はもともと岩手・一関で行われた熱気球レースの取材だったのだが、東京から現地まで450km程度のディスタンスは苦にもならなかった。せっかく東北に来たのにこのまま帰るのはもったいない。取材の後、クルマの返却日に間に合う限界点まで足を延ばしてみようと思いにかられ、さらに北上した次第だった。

県庁所在地の盛岡から北上山地を横断し、閉伊(へい)川に沿って三陸の宮古に抜ける国道106号線を走った。このルートは人口希薄地帯で、民家はごく少ない。国道と並走するJR山田線は盛岡側の上米内と宮古側の区界の駅間25.7kmをはじめ、駅間距離が8km台、9km台がざら。国道からちょっと支線にそれると、渓流の水音や風の音だけの静寂を味わうことができる。心に沁み入る民話的風景だった。

宮古へと流れる閉伊川流域にて。宮古へと流れる閉伊川流域にて。
宮古からは国道45号線と長大な無料高速道路、三陸道を併用しながら南下。陸中、陸前の太平洋沿岸地域はどこも大なり小なり東北地方太平洋沖地震のさいに津波の被害を受けている。政府は東京オリンピックを復興五輪と銘打っているが、実際には復興にはほど遠く、沿岸都市は一様に急速な人口減に苦しんでいる。

そもそも自然発生的な過疎すら止めるアイデアを持ち合わせていないのに、三陸、宮城・福島の太平洋沿岸で復興をうたうなど、厚顔に過ぎるというものだろう。大切なのは復興と言い張れるアリバイ作りではなく、その場に省庁のバックエンド部隊を移転するといった“ドーピング”を行うなど、力技を使ってでもいいから彼の地の経済規模を膨張させることだ。

などという漠たる思いを抱きながら、釜石、陸前高田、南三陸…とドライブを進める。三陸の風景は激変した。巨大な防潮堤の建設が急ピッチで進められ、美しい入り江や海岸の風景を見渡せるビュースポットは一気に減った。あれだけの激甚災害が起こったのだ。その海を隔絶してしまいたくなる人たちの気持ちもわからなくはないが、防衛線をもう少し内陸に寄せるという選択肢はなかったのだろうか。そうすれば海岸線の美しさをもう少し残せたかもしれない。人々の愛情がなければ、風景は簡単に壊れてしまう。

こんなとりとめもない旅へとオーナーを駆り立てる雰囲気は、デリカD:5がデビュー当初から持っていたものだ。改良によってデザイン、ドライブフィールとも少なからず変わってしまったが、それでも国産ラージクラスミニバンの中では最もパーソナル色の強いモデルであることに変わりはない。その一点において、今あえてこのクルマを選ぶ価値は維持されているように思った。

後編ではパワートレイン、燃費性能、居住性/使い勝手について触れる。

津波で甚大な被害を受けた陸前高田にて。津波で甚大な被害を受けた陸前高田にて。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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