【WEC 開幕戦】ハイパーカー時代に突入、トヨタGR010の初陣は1-3…中嶋一貴組の8号車が優勝、2位はアルピーヌ

優勝した#8 トヨタの中嶋一貴(前右)、ハートレー(前左)、ブエミ(後方。最終走者であり、この時点ではマスク未装着)。
優勝した#8 トヨタの中嶋一貴(前右)、ハートレー(前左)、ブエミ(後方。最終走者であり、この時点ではマスク未装着)。全 8 枚

世界耐久選手権(WEC)の2021年シーズンがベルギーのスパ・フランコルシャンで開幕し、現地5月1日の決勝レースではトヨタGR010 HYBRIDの8号車、中嶋一貴組が優勝を飾った。僚機7号車の小林可夢偉組は3位。旧LMP1規定車のアルピーヌが2位に入っている。

WECの“シーズン9”は2021年シーズンというかたちで、久々に「季」と「年」がイコールになった。コロナ禍の影響が続くなか、8月に延期されたルマン24時間、2年ぶりの開催となる富士6時間(9月)を含む全6戦が現段階でスケジュールされている。開幕戦には5月1日決勝のベルギー戦、スパ・フランコルシャン6時間が位置づけられ、4月26~27日の同地プロローグテストから実質約1週間の“WECオープニングウイーク”ともいえる状況でのシーズンインだ。

今季からWECの最高峰クラスは「ハイパーカー」へと新生された。しかしながら、開幕戦(開幕ウイーク)に実際に姿を見せたハイパーカー規定車はトヨタ(TOYOTA GAZOO Racing)の「GR010 HYBRID」2台のみ(年初発表の年間エントリーリストに2台で名を連ねていたグリッケンハウスは準備が遅れている模様)。特例的に旧LMP1規定のノンハイブリッド車で参戦するアルピーヌ(ALPINE ELF MATMUT)の1台を含めても、ハイパーカー・クラスは2チーム計3台というラインアップである。

開幕戦のエントリー総数はハイパーカー、LMP2、LMGTE-Pro、LMGTE-Amの各クラスをあわせて34台(決勝出走は33台)。タイヤはLMP2クラスがグッドイヤーで、他のクラスはミシュランだ。日本籍チームとしてはハイパーカーのTOYOTA GAZOO Racing以外にも、LMGTE-AmクラスにD’station Racingが参戦(マシンはアストンマーティン・ヴァンテージ)。

開幕ウイークが始まってみると、各種規定の“調整”が難しいWECならではともいえる逆転現象が生じる。1周のタイムでLMP2クラスがハイパーカーを凌駕する状況が続いたのだ。レース本番になって、長いスティントを走る状況下ではLMP2が自力でハイパーカーの前に行くことは難しくなるだろう、とも考えられはしたが、パッと見には驚きのタイムシートが現出した。

予選ではトヨタGR010が7号車(小林可夢偉 / M. コンウェイ / J-M. ロペス)、8号車(中嶋一貴 / S. ブエミ / B. ハートレー)の順で1-2。今季からドライバー1名のベストタイムによって争われることになった予選でアタッカーを務めたのは可夢偉と一貴だった。ハイパーカー・クラスのもう1台、#36 アルピーヌA480-ギブソン(A. ネグラオ / N. ラピエール / M. バキシビエール)はLMP2クラスのトップ1台を挟み、予選総合4位に。

スパ・フランコルシャンといえば天候変転急なことで“スパウェザー”の異名もあるコースだが、今回の決勝6時間レースは安定的なドライコンディションのもと、大きなアクシデント等なく進んだ。ただ、ハイパーカー時代初戦ということもあってか、トヨタGR010勢もピット作業に関するペナルティをもらったり、GTカーとの接触があったりと、完全に順調とは言い難いレース運びである。

残り2時間を切ったところで、トップに位置していた#7 トヨタ(可夢偉がドライブ中)がコースアウト、ランオフエリア先のグラベルで一時的に立ち往生してしまうアクシデントが発生。直前を走っていた複数の周回遅れに気流を乱された影響があったか、あるいは車両に何か万全ではないところがあったためか、そんなふうに思える“直進コースアウト”だった。これで#7 トヨタは優勝争いから実質的に脱落。

その後は#8 トヨタと#36 アルピーヌがそれぞれピットインする毎にトップ交代、というような流れの戦況になり、最終的には#8 トヨタが1分7秒差(スパでは約半周差)で先頭ゴールを果たした。ハイパーカー・クラス(および総合)の順位は、2位が#36 アルピーヌ、3位に#7 トヨタというかたちで決着している(#7 トヨタは1周遅れ)。

優勝した#8 トヨタGR010 中嶋一貴のコメント
「TOYOTA GAZOO Racingのハイパーカーでの最初のレースで勝てたことを誇りに思います。我々はチームとして決勝レースで本当に良い仕事ができたと感じています。チームと全てのクルーとともに、この勝利を祝いたいと思います」

「なかなか一筋縄ではいかないレースでしたが、ドライバーとしてやるべきことをこなしました。コース上での追い抜きは非常に難しく、ミスをしやすい状況で、アルピーヌや何台かのLMP2カーといった強力なライバルと戦うのは容易ではありませんでしたね。そんななかで、ミスなく自分たちの役割をうまくこなすことができ、満足しています。一時はどうなるかと思っていただけに、素晴らしい結果です」

3位の#7 トヨタGR010 小林可夢偉のコメント
「スタートは良かったのですが、厳しいレースになってしまいました。コースアウトした際、タイヤをロックさせてしまいましたが、車両を何かにヒットさせることは避けられました。ただ、不運にもこの時にグラベル上で動けなくなってしまい、レスキューカーにコースに戻してもらうまで待たなければなりませんでした。それまで我々のペースは良く、充分に勝利を狙える位置にいただけに残念です」

「今日はいくつかのトラブルがあり、まだまだGR010 HYBRIDの性能を最大限に引き出すための学習途上だということがわかりました。いいパフォーマンスを示すことはできたと思いますが、まだ改善すべき点も残っています」

2018/2019シーズン、2019/2020シーズンに続くシリーズ3連覇とルマン4年連続制覇を目指し、トヨタは記念すべきハイパーカー時代初戦で(1-2こそならずも)勝利をおさめた。チーム代表の村田久武氏は「いくつかの難しい問題に直面しましたが、メカニック、エンジニア、ドライバーたちの大変な努力のおかげで、表彰台の中央で耐久レースの新時代を迎えることができました」と陣営を讃える。

さらに村田氏は「レースウィーク中も困難な状況が多数ありましたが、チームは決してあきらめない姿勢を貫きました。実際に可夢偉は、スタックしてしまった後もわずか数周でトップの車両を追い抜き(その時点では周回遅れを解消するなど)、この姿勢を体現してくれました」と続け、始まったばかりの新時代の今後に向けて、「今日のレースは我々の次世代レーシングハイブリッド技術の力強いスタートになりましたが、引き続きGR010 HYBRIDの改善を続け、学び続けていきます」との決意も語っている。

トヨタの豊田章男社長もコメントを寄せた(以下、抜粋)。

「2台のGR010 HYBRIDが耐久レースという厳しい道を走り始めました。何が起こるかわからない初レースで、このクルマの “速さ” と “強さ” の可能性を感じさせてくれた6人のドライバーたちとチームのメンバーに感謝したいと思います」

「ただ、我々は “速さ” “強さ” “安心” “安全” その全てを今後も示し続け、そして高め続けていかないといけません。レースは続きます。24時間レースもあります。 どんな道でも走り続けられるクルマづくりをこのまま続けていってもらいたいと思います。 そして、このクルマで鍛えたものをお客さまにお届けできるようにしてまいりたいと思います」

WEC開幕戦は29台が完走。LMGTE-Amクラスの#777 D’station Racing(星野敏 / 藤井誠暢 / A. ワトソン)はクラス7位だった。

2021年シーズンのWEC第2戦は6月13日を決勝日とする日程で、ポルトガルのポルティマオ(アルガルベ・サーキット)にて開催される予定となっている。

(*本稿における決勝順位等は、現地時間のレース当日に発行された「Final Classification」に基づく)

なお、WECのプロローグテストと開幕戦があった4月最終週(週末は5月)、LMDh規定マシンでの近い将来のプロトタイプ耐久レース・トップカテゴリー参入(復帰)を企図しているアウディがイメージ画像を公開し、進捗状況等について記したプレスリリースも発行した。

今回の発表内容によると、2023年1月のデイトナ24時間レースがアウディのLMDhマシンにとって最初の実戦になる予定だという。また、今回の活動はファクトリーチーム限定系のそれではなく、かつてのルマン王者マシン「アウディR8」がそうだったようにカスタマーチームにも門戸を開くかたちのプロジェクトになる、とのことである。

《遠藤俊幸》

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