【池原照雄の単眼複眼】日本各社の今期業績、3重苦にも収益力改善へ確かな手応え

トヨタ・ヤリス
トヨタ・ヤリス全 4 枚

増益と赤字がともに3社と格差露呈の前期

コロナ禍で開け、期末には半導体不足と原材料費の高騰が加わって“3重苦”にある自動車メーカーの2021年3月期決算が揃った。

最終損益(純利益)ではトヨタ自動車など3社が増益となる一方、日産自動車など3社が赤字となり、企業間の収益力格差を露呈する結果となった。今期も半導体などの重しを引きずるが、各社とも課題克服を着実に進め、若干の赤字が残る日産を含めて収益力の改善が進む見通しとなっている。

今期の乗用車7社の利益予想は以下のようになり、純利益ではマツダと三菱自動車工業が黒字転換し、トヨタとSUBARU(スバル)は増益となる。ホンダは減益だが、前期に販売費用の引き当てに関する一時的な収益増があったためで、水準は低くない。また、主力市場のインドのコロナ禍が深刻なことから、唯一、今期見通しの公表を見送ったスズキは同国の情勢次第だが、固定費など費用削減への集中力もあり、大崩れは回避できよう。

■乗用車7社の2022年3月期連結業績予想
企業 営業利益 純利益
トヨタ 2兆5000億円(14%) 2兆3000億円(2%)
ホンダ 6600億円(0%) 5900億円(▲10%)
日産 0(-) ▲600億円(-)
スズキ 未定
マツダ 650億円(7.4倍) 350億円(-)
スバル 2000億円(95%) 1400億円(83%)
三菱自 300億円(-) 100億円(-)
*カッコ内は増減率。▲は減少または赤字 

自動車各社の足元の経営環境は、コロナ禍、半導体、原材料費―という3重苦の状況にある。ただし、全社が重い負担を強いられている原材料費以外は、企業によってダメージに濃淡があるのも特徴だ。コロナ禍の自動車販売への影響は、中国、米国という2大市場で、すでに最悪期を脱している。中国は感染拡大への抑止力、米国はスピーディーなワクチン接種によって、今期の新車需要増が確実な情勢にある。

このことは、米中で強みをもつトヨタとホンダ、また米国で高い顧客支持を獲得しているスバルの今期業績を支えていく。一方で、スズキはインドでのシェアが高い故、感染状況に振り回される展開になっている。

半導体不足は企業間で影響差広がる

半導体の需給ひっ迫による影響も、今のところ企業間で大きな開きがある。最も深刻な予想としているのは対策の後手が否めない日産で、グローバルでは上期に50万台を減産する見込み。「下期に半数をリカバリーする」(内田誠社長)方針だが、それでも通期で25万台規模の減産となる。

車種数が少ないスバルも、半導体の共通化を進めてきたため、影響が出やすく、4月には当初計画比で2万5000台を減産した。「回復時期は、現時点でははっきり申して分かっていないが、期を通じて挽回を図りたい」(中村知美社長)とし、回復には休日出勤などによって増産できるよう、労使で柔軟な対応を図る構えだ。このほか、マツダは生産で10万台、出荷規模で7万台の影響を業績予想に織り込んだ。

今のところ、大きな調整に至っていないのは、最も生産台数が多いトヨタで、「年初から増産を計画していたが、少し慎重な生産に切り替えている」(近健太執行役員)程度ですんでいる。2011年の東日本大震災後の経験などを基に、在庫の積み増しやサプライチェーンの強化を図った成果が出ている。ただ、そのトヨタも「リスクとしては年度後半も予断は許されない」(同)と慎重に構えている。

原材料費高騰でトヨタは年3000億円の原価改善が吹き飛ぶ

3番目のリスクである原材料費の高騰は、各社共通のダメージとなっている。排ガス触媒などに使用するレアメタルのみならず、通常の鋼材や樹脂部品など自動車の素材全般の値段が上がっているのだ。咋年後半から世界の自動車メーカーがほぼ一斉に生産を回復させたことや、素材メーカーの増産対応が遅れたことが需給をひっ迫させている。

半導体同様に収束のタイミングは見えておらず、「日を追って市況は悪化」(スズキの長尾正彦専務役員)する暗雲となっている。トヨタは今期の原価改善が前期実績の1500億円から、一気にマイナス1350億円に落ちるとの予想を示している。原材料費の変動を反映しているからで、「原価改善は年間3000億円レベルの改善を行う計画だが、資材市況の上昇が大きなマイナス要因になる」(近執行役員)という。

つまり、トヨタでは4000億円を超える影響が出る見込みであり、同社は長期化も覚悟した予想とした。それでも今年の日本各社の決算会見からは、コロナ禍をはじめとした3重苦を乗り越えていく自信や活力が見えてきた。一寸先が暗闇だった1年前とは様変わりであり、経営トップや財務担当役員からは、それぞれの経営課題克服への確かな手応えも伝わってきた。そう悲観しなくてよい展開になろう。

《池原照雄》

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