【ヤマハ MT-09 新型】MTシリーズで最もヤマハらしさを追求した「3気筒エンジン」の進化とは

ヤマハ MT-09 新型の3気筒エンジン(写真は欧州仕様)
ヤマハ MT-09 新型の3気筒エンジン(写真は欧州仕様)全 15 枚

初のフルモデルチェンジを遂げたヤマハ『MT-09』欧州仕様。その開発チームが、より刺激的に、より楽しく生まれ変わった新型MT-09の開発秘話を明かすインタビューの第2弾。ここからは、アイデンティティとも言える水冷DOHC4バルブ3気筒エンジンの話を中心に聞いた。

【インタビュー参加メンバー】
PF車両ユニット PF車両開発総括部 SV開発部 SP設計 グループプロジェクトリーダー主査の北村悠氏:ヤマハ発動機株式会社に入社後、主にASEAN向けモペットやASEANとインド向けYZF-R15、ヴィクシオンRの車体設計を担当した後、MT-09の開発プロジェクトリーダーを担当。

PF車両ユニット PF車両開発総括部 SV開発部 SP設計グループ 主事の田中友基氏:車体設計チーフ。これまで開発に携わった車両はMT-25、YZF-R25、YZF-R6、YZF-R1など。

パワートレインユニットPT開発統括部 第3PT開発部 サウンド技術グループ主査の濱田大資氏:サウンド技術担当。これまで開発に携わった車両はFZ8、初代MT-09など。

パワートレインユニット パワートレイン開発統括部 第2PT開発部 MC設計グループ 主務の三吉伸幸氏:プロジェクトチーフ。入社後は小型エンジンの開発に携わった後、MT-09、MT-07の部品設計などを担当。

PF車両ユニット PF車両開発統括部 車両実験部 プロジェクトチーム主事の山田心也氏:車両実験プロジェクトチーフ。これまで担当した車両は2代目MT-09、MT-09 SP、MT-10 SPなど。

なぜ3気筒エンジンにこだわるのか

ヤマハ MT-09 新型ヤマハ MT-09 新型
----:やはりMT-09というと、真っ先に3気筒エンジンが思い浮かびます。今回のモデルチェンジも、まず3気筒ありきでスタートしたのでしょうか。それとも、MT-09らしい走りを追求した結果が3気筒だったのでしょうか。

プロジェクトリーダーの北村悠氏(以下敬称略):3気筒エンジンありきという議論をちゃんとしたわけではないですが、開発のベースはこの3気筒エンジンからスタートしています。その理由は、今回サウンドにもこだわったので、音の面でも3気筒エンジンが有利に働くというのがありますし、軽量・スリム・コンパクトを狙った時に3気筒はエンジンの幅を抑えられて、車体のフレームや左右ステップ間もスリムにできるメリットがあるので、継続して3気筒エンジンを選びました。

----:先ほど展示車をまたがらせてもらったのですが、確かにスリムで、車体の引き起こしもとても軽くて驚きました。それこそ250ccや400ccみたいな感覚で起こせたので。

車体設計チーフの田中友基氏(以下敬称略):こちらの狙い通りのコメントです!

ヤマハ MT-09 新型(欧州仕様)ヤマハ MT-09 新型(欧州仕様)
車両実験担当の山田心也氏(以下敬称略):3気筒ありきといっても、今回その3気筒エンジンの中でどうしたいかを結構根源的な部分から考えていて、いちばん最初はクランクマスをどうするかから始めたんです。結局、クランクの慣性マスが10kgf重くなったんですけど、そこに行き着くまでにいろんなパーツを試作したりして、全然別物のエンジンになっています。

何というか…とにかく気合いを入れたモデルチェンジなんですよ(笑)。僕らとしてはMTのブランドイメージを代表するのは「09」だと思っているので、やっぱり気合いもすごいですね。

サウンド開発担当の濱田大資氏(以下敬称略):初代MT-09で珍しい3気筒エンジンを作ったのは、2気筒や4気筒もテストした中で、軽量化でき、かつトルクが出るエンジンは何だってことでたどり着いた答えなんですね。現在もそれを継承しているので、新型ももちろん3気筒で、という流れはありました。それにMT-09の開発に気合が入っているというのは本当で、今回もオールニューで作らせてもらいました。

プロジェクトチーフの三吉伸幸氏(以下敬称略):シリーズの中ではMT-09がいちばんヤマハらしさを追求して開発できていることは確かですね。

「もっと欲しいのはトルクで、パワーじゃないよね」

パワートレインユニット パワートレイン開発統括部 第2PT開発部 MC設計グループ 主務の三吉伸幸氏パワートレインユニット パワートレイン開発統括部 第2PT開発部 MC設計グループ 主務の三吉伸幸氏
----:排気量がアップし、最高出力も上がりましたが、それも“暴れ馬”的な刺激を追求した結果でしょうか?

三吉:そこは「トルク&アジャイル」という商品コンセプトと、いま市場でもMTのトルクに対する評価がされている中で、「もっと刺激を強く、もっと個性を強く」という方向でのトルクを上げる主眼で、排気量を上げる手段を取りました。その方法はボアアップとストロークアップがあるんですが、ストロークアップの方法を取ったのは、軽量・スリム・コンパクトにするために車輌の幅を増やさない意図もあって。

どう表現するのが良いかわからないんですが、今回はストロークアップさせながらも、エンジンの高さ自体を現行の国内仕様から変えてないんです。それも軽量化や車体をコンパクトに収めるという狙いから、取り入れた手段ですね。トルクピークも2代目の8500回転から新型では7000回転まで落として、日常域でよりトルクを味わえるようなセッティングに変えています。

濱田:さりげなく言ってますが、エンジンの大きさを変えずにそれを実現するってかなり大変なことなんです。それでいて軽量化もしていますし。

三吉:そうですね。慣性マスを上げつつ、クランク重量はほぼ上げずにできたことが、エンジン全体で約1.7kgの軽量化にもなって、車体の軽量化にも貢献できたと思います。

山田:我々の間でも最初に「もっと欲しいのはトルクで、パワーじゃないよね」って話があって、今回の狙いをトルクに定めました。結果的にパワーも出たんですけどね。

「トルク感」と「加速感」を表現した3気筒サウンド

ヤマハ MT-09 新型ヤマハ MT-09 新型
----:先ほど北村さんが「音にもこだわった」と仰っていましたが。

濱田:プロジェクトメンバーと話し合い、今回のフルモデルチェンジのテーマである「トルク&アジャイル+フィール」の“フィール”の部分と、「人機官能」というヤマハの開発思想を、サウンドでも追求しようとまず決めたんですね。実際にどうしたかというと、排気量もトルクも上がるので、それを乗った人が音でも体感できる「トルク感」、そして性能が上がった加速の感覚を音で表現した「加速感」という、2つのキーワードをベースに音の開発をしました。

具体的に言うと、今回の排気システムはチャンバータイプで、出口が2本左右出しになった珍しいデザインなんですが、あれは最初から構想があって、ぜひ私も左右2本出しにしたかったんです。狙いとしては、音を左右から聞かせることで包まれるような感覚になってもらうことと、できるだけ後輪の近くに排気口を持ってくることで、力強い音が下からこみ上げてくる感じを出せるというのがあって。

山田:普通に交差点を曲がるだけでも、ぱっとスロットルを開ければ太い排気音が出ますし、スピードを出さなくても楽しめるようにちゃんと制限速度以下でのサウンド管理ができている。今までのヤマハ車にはないチャレンジだったと思いますし、目標は達成できたと思いますね。

パワートレインユニットPT開発統括部 第3PT開発部 サウンド技術グループ主査の濱田大資氏パワートレインユニットPT開発統括部 第3PT開発部 サウンド技術グループ主査の濱田大資氏
濱田:「トルク感」の演出では、かなり低音で腹に響くような太い音を目指していて、30km/hくらいのごく低速でスロットルをパパッと開けた時に、開けるスピードに負けないくらいの低音が立ち上がるセッティングを、何本もマフラーを試作させていただきながら、世に出せるレベルまで作り込みました。

もうひとつの「加速感」は、ワインディングを走っているとやはり中・高回転域が車速も出るし、こみ上げる吸気音が聞こえやすいので、加速感を感じられるねという話になって。ちょうどトルクピークの7000回転くらいを使う領域なんですけどね。そこで、これもちょっと珍しいですが、通常は1本しかないエアクリーナーボックスの吸気ダクトを3本にして、それぞれの長さと径を変えることで音が共鳴しあい、太く、かつスロットルにリニアに反応する加速感にを感じる音にできました。

これも3本にたどり着くまで何度もテストしましたし、完成したものも、無理してレイアウトしてもらったんです。でもその甲斐あって、普通の短音ではない、3音が混じり合ったすごく豊かなサウンドになっていますので、これもぜひ乗って聞いていただきたいです。

エアクリーナーボックス内の3本の吸気ダクトが心地よいサウンドを奏でるエアクリーナーボックス内の3本の吸気ダクトが心地よいサウンドを奏でる

----:サウンドの面でも現行モデルとの違いを味わえると。

濱田:現行の国内仕様と乗り比べてもらえば、走安性や性能の進化はもちろん、サウンドも違うことは絶対感じ取ってもらえると思います。まあその実現には三吉さんはじめ、いろんな人にすごい迷惑をかけたんですけども…(笑)。

三吉:そこはみんな持ちつ持たれつで。エンジンも相当いろんなところに迷惑はかけてますからね(笑)。とにかく開発チームのみんなが、自分がやりたいと思ったことをどうすれば商品に落とし込めるかを常に考えていて。仲間に多少面倒をかけてでも、こういうものを作りたいからこうしたいんだってちゃんと話し合いましたし、そのためにパーツを作り、確認してという作業を何度も繰り返しながら作り込んだので、このメンバーだから作れたMT-09だと思いますね。

(第3回 デザイン・車体設計編へ続く)

《齋藤春子》

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