オーテックのデザインはセンスの良さを感じさせたい…デザイナー[インタビュー]

オーテックジャパン デザイン部の若林康二さん(左)、青山雄未さん(右)
オーテックジャパン デザイン部の若林康二さん(左)、青山雄未さん(右)全 9 枚

日産の特装車やスペシャルなクルマを得意とするオーテック。現在カタログモデルとしてミニバンから軽まで取り揃えており、プレミアムスポーティをコンセプトにデザインされているという。そこで、デザイナーのお二人にその思いを聞いた。

攻めることが新しい匠

----:オーテック各車のデザインのお話をお伺いすると、“匠”という言葉を耳にします。オーテックは特装系のクルマも多く扱いますので、1台1台違う仕上げ、まさに匠の技がいると思います。しかし、その匠の技の部分と、プレミアムスポーティというクルマを仕上げるのとでは、全くやり方やテクニックが違ってくると思うのですがいかがでしょう。

オーテックジャパンデザイン部の青山雄未さん(エクステリアデザイン担当、以下敬称略):特装とオーテックとでそれほど大きくデザインの仕方は変わってはいません。例えば遊園地のバスの特装の場合は、遊園地の雰囲気を表すための特装です。パトカーでは元となるクルマをパトカーに見えるように特装します。考え方でいうとそれと一緒で、例えば『ノート』というキャラクターをオーテックブランドに見えるようにするわけですから、あまり考え方に変わりはないのです。

オーテックジャパンデザイン部の若林康二さん(インテリアデザインCMF担当、以下敬称略):匠のニュアンスは、時代時代によって変わっていかなければいけないと思っています。日産 ノートオーテック日産 ノートオーテック

昔は、何でもあり、やっちゃえばいいじゃないか、というモノづくりの面もあり、ファンも獲得してきました。しかし法規も厳しくなり、安全性能や保安性能が高まって来て、あまり思ったままにいじれなくなっています。その中でも“攻める”ことが新しい匠になってきています。

これからは自動運転になって来ますが、その中でどれだけ楽しい空間を作れるか、基準車に対してよりバリューのある空間やエクステリアが作れるかが、新しい時代の匠だと思うのです。その時代によって変わる匠のニュアンスみたいなものを、敏感に感じ取り、そこを極めていこうという集団なのです。

青山:オーテックブランドのクルマは、先進機能が含まれたプレミアムスポーティです。アフターパーツメーカーのコンプリートと大きく違うのは、基準車の安全性能はひとつも殺していないことが大きな特徴です。

それはエクステリアもインテリアも同様で、特にインテリアにおいては、様々なデバイスが先進機能になっていますので、何かモノを置いたりすることで、機能が阻害されてはいけません。エクステリアでもセンサー類の機能を損ねてしまうこともあります。そういうことをひとつも殺さずに出来るのは、我々の匠が成長しているということです。

若林:そういったこと以外にも、設計の人もすごく考えています。プロテクターなどの金属調シルバーという特別なカラーの場合、最初に1度黒を吹いてから透過性の高いシルバーを吹くという技を用いています。しかし基準車が用意しているアクセサリーパーツに同じように塗って車体に取り付けたとしても、同じように質感を高く出来るかというとそうではないのです。その理由は見えないところの車体への取り付け方が全然違うからです。そこにお金がかかっているので、質感の高いものになるわけです。

“腹落ち”するデザイン

----:日産とオーテックのデザイナー同士の交流はどのようにしているのでしょう。

青山:日産のデザイナーとは、密に交流をしています。多い時には週に1から2回は日産のデザインセンターにいっています。

若林:我々のデザインがスタートする時にはほぼほぼ基準車のデザインは終わっています。そうすると基準車を開発していた時にデザインのどこを大事にしていたのかが意外と分からないもので、これで大丈夫となかなか思えないこともあります。

そのデザインスケッチの段階で自分の中でストンと“腹落ち”するためには、手描きをすることで基準車の持っているダイナミズム感や、車両としてウェッジしている感じとか、バランスみたいなものは、描いていると手が考えてくれている感じがします。それでバランスはこんな感じかなとストンと腹落ちして、何も考えずによし決まったとなっていくので、私は手描きでデザインの絵を結構描きますし、その手描きを大事にしています。

そして、基準車を買いに来たお客様が、たまたまオーテックのカタログや実車などを見て、こちらの方が良いねとなってくれるところを目指しています。つまり基準車に比べて明らかにバリューがついていないとダメなのです。

センスの良さを表現する

----:では、オーテック全体としてのデザインの方向性、プレミアムスポーティというのはどういうものだと捉えているのですか。

若林:最初にプレミアムスポーティと聞いた時に、簡単に誰でも出来ると思っていましたが、実はわかりやすい言葉でありながら漠とした言葉でもあるのです。どういうことなのかというのはやっていくうちに徐々に見えてくるという感じでした。

結局オーテックで出来る範囲でしか出来ませんし、1000万、2000万円以上するクルマを見てやりたいと思って提案してもそんなものは通りません。オーテックとしてのプレミアムスポーティはどういうものなのかというのを模索して、そこから、お客様に刺さる形でどう世の中に出していくか。そういったことは人によって解釈は割れます。

例えば、プレミアムスポーティといってもワル風のものをイメージする人もあれば、本当にハイブランドのセンスが良い品がある感じのイメージをする人もいます。だからこそ日産車の豊富なラインナップをやるのは良いのかなと思います。

青山:『エルグランド』のように少し悪っぽく見えたり、可愛いポップなノートがいたり。それらをプレミアムスポーティとは何かと解釈した結果は、どんなものでもセンス良く見えたりするのです。それが、我々のプレミアムスポーティかもしれません。乗った時に悪っぽくても、この悪っぽい人はすごくセンスが良いなところもあるでしょうし、ポップだったり可愛かったりしても、それぞれにセンスが良く見える。そう見えるようにするのがプレミアムスポーティだと思います。日産 エルグランドオーテック日産 エルグランドオーテック

インテリアでは、表現の手法としてNISMOのレーシングの官能的というよりは、少し“ポエム的”なもの。レースだと走っている時の暑苦しさや、情熱が表現されれば良いのでしょうが、我々は、湘南の美しい景色を入れ込むぞと考えていますので、その時点で既に情緒的、官能的になります。それをどうやって各車種でセンス良く見えるようにするかということでしょう。

若林:実はオーテックを担当するようになった最初、先ほどお話したとおり、プレミアムスポーティは獏として難しかったのです。我々はデザイナーですがブランドの戦略的な事も少し携わります。

もともとNISMOがありましたから、そこと比較をして考えるのが分かりやすいですよね。そのNISMOはクルマを見たら速そうだし運転したら楽しそう、持っているだけでアドレナリンが出ちゃうみたいなところがあります。そういうエモーショナルな価値に対して、オーテックは、その時の提案は通りませんでしたが(笑)、センスが良さそう、高そう、賢そうといったところを提案すると、皆がすごく分かってくれました。そういうところかもしれません。

青山:それからNISMOとスポーティの解釈の幅が全く違うことも挙げられます。クルマでスポーティといってしまうと、レーシングになってしまうことが多いですよね。しかし我々のスポーティは車種ごとにその解釈が全然違っているのです。

アウトドアもスポーツだと思っていますし、キャンプもスポーティでしょう。湘南のサーフィンやスケボーもスポーティに含まれます。例えば、『ルークス・オーテック』はサーフィンのスポーティな雰囲気をテーマにデザインしています。ヨガもサーフィンヨガがあるようにスポーティに入るでしょう。

このように例えばオリンピックの種目は何百種類もあって、これらが全部運動スポーツに括られるように、走ったり幅跳びなどだけをスポーツとしてしまうのではなく、馬や他のものもスポーツです。そういう幅広い意味でスポーティと捉えています。日産 ルークスオーテック日産 ルークスオーテック

ですので、我々はミニバンの『セレナオーテック』でもマルチベッドを選択出来るようにしています。これがもしスポーティという解釈が狭ければ設定しないでしょう。キャンプとかアウトドアで優雅に雰囲気を過ごしてもらいたい、キャンプで楽しんで活発に過ごした後のリラックスする時間もプレミアムスポーティだろうという解釈の仕方をしているわけです。ですから通常のプレミアムスポーティを標榜するブランドに設定されないようなペットなどが設定されているのです。日産セレナマルチボード(標準車)日産セレナマルチボード(標準車)

----:プレミアムとスポーティをわけて考えてはいけないということですね。

若林:そうです。

青山:我々のプレミアムスポーティの解釈は、体験や経験に近いと思います。スポーツの前後の過ごす時間もプレミアムスポーティです。経験値がそこにつながるようなイメージですね。

----:そこに少しだけ特別感みたいなものがあるということですね。

青山:クルマが最初に見えてくるプロダクト作りというよりも、ユーザーが乗った時を含めてのどう見せたいかという作り方をしています。ファミリーで乗った時にその過ごしている空間などが、素敵で優雅な時間になればいいな、あるいはノートであればカップルで出かけた時にその後盛り上がるといいなというイメージですね。

NISMOだと最初にクルマが格好良く、どうだ良いだろうというような、クルマが最初に出てくるようなイメージもありますし、レースをしている自分のような感じに対して、オーテックはそうではない。クルマに乗った後素敵な時間を過ごせることが出来ればいいかなと考えてデザインしています。

プレミアムスポーティはそのままに解釈が変化する

----:今後オーテックとしてはプレミアムスポーティのままで行くのでしょうか。それとももっと幅を広げて行くのですか。

青山:プレミアムスポーティは変えません。ただし、スポーティとプレミアムの解釈がどんどん時代を経て変わっていきますので、それに合わせた商品の進化はしていくことになるでしょう。例えば、アウトドアなどでもっと友人と楽しむことをスポーティという言葉で生まれ変わるとしたら、我々はそれをスポーティと解釈してクルマを進化させていきます。

プレミアムも昔は金の指輪をしているのがプレミアムという価値だったものから、いまはこういう体験をしたら、過ごす時間がプレミアムになってきているように、プレミアムの価値観が変わってきているのです。つまり、その時代に合わせたプレミアム、時代に合わせたスポーティ、時代に合わせたプレミアムスポーティと同じ進化をしていくと思います。

若林:プレミアムスポーティでない別軸で何か作りたいとなると、これまでのストーリーをつなげていくのが結構難しいと思います。お客様が求めている、こういうクルマがあったらいいなということを、全く違う世界観で作りたいとなった場合、それを果たしてオーテックブランドで売るのか、オーテックから出ているがオーテックブランドにはしないのかという選択もあるでしょう。“エクストリーマーX”はそうですね、デザイン開発はオーテックでやるが、オーテックブランドでは売らないというものです。日産 エクストレイルエクストリーマーX日産 エクストレイルエクストリーマーX

そう考えるとプレミアムスポーティは変えないと思います。ただ、カラーは変わるかもしれません。コミュニケーションカラーもこのところ少しダークな感じ、ダークブルー系になっていますがそれが変わっていく可能性はあると思います。

青山:そうですね、青の解釈は違ってくるし、色々な青があるでしょう。時代によって好まれる青も変わって来ます。ちなみにセレナで最初に設定されたオーテックブルーと、現行のものとでは全然違うように、時代価値によって変わっているのです。最初の頃はもう少し紫にしていて、少し悪っぽくしていました。その時代から青の価値観が変わって、いまは全然違うカラーになっているのです。

----:では今後目指すオーテックのプレミアムスポーティの世界観はどういうものなのでしょう。

若林:クルマがすごいから皆が飛びついてくるというよりも、ライフスタイルブランドではないのですが、少しそちら方向を目指したいと思っています。生活の中でのクルマに対する興味は人によって全然違います。NISMOはクルマ温度が高めの人をコアのターゲットにしていますが、オーテックはそうではないところを狙っていきます。

生活の中でクルマ意識が10%以下とか、クルマは必要だから買うだけ、ただ質の良いものが欲しいという人に、パッと選んでもらえるようなものになるためには、必要以上にこだわりの強すぎる世界観を作っていくのはどうかなと思いますし、基準車に対してちょっとした微妙な差でもものすごく刺さるものであれば、それでもいいと思います。

自分自身でもニュートラルでいるために、これで成功してきたからなどの成功体験に縛られないようにしています。新しいビジュアルもそうですが、ライフスタイルの変化もちゃんと感じ取って柔軟に、おじさん達にいままで出来たことと違うじゃないかといわれながらも、新しいものはこれで良いんだといえるようなデザイナーになりたいですね。

湘南のイメージを価値に

----:ところでなぜ湘南にこだわるのですか。

青山:創業の地だからです。そもそも創業の地を活かしたいと思っているからです。それと同時に突き詰めていくと地場には色々な伝統があり、我々の伝統ともリンクしています。

簡単に “こじゃれて”見える外国のものをインスパイアして、よくわからない外国の横文字のブランドのこれが素敵というのは、パッと見だけであればすごく簡単な作業かなと思います。誰もが見たことのないような、外国のよくわからない横文字のモノを持ってきて説明すればいいのですから。

それよりも、日本の地であり漢字で書かれるこの湘南で、多くの人が行ったことのある、アニメでも使われている、江ノ島も知られていますし、シラスもある。そういう創業の地を使っておしゃれにセンス良くまとめる、センスよく伝えることが出来たら、それはすごく日本として他にはないブランドを立ち上げられるかなと思いがあるのです。

----:伝統がリンクしてということですが具体的にはどういうことですか。

青山:例えばオフィスの箪笥や机などは、すぐ近くの伝統の家具の匠がいるので、そこに我々が図面とデザインを引いてこういう家具を作ってくれと依頼して作ってもらいました。そういうことに対応してもらえる、デザイナーの無茶ぶりに対応出来る職人と技が社内にも社外にもある。また、場所としても伝統的に美しいところもありますので、リンクしていると思っています。オーテックジャパンデザイン部の青山雄未さんオーテックジャパンデザイン部の青山雄未さん

若林:本当はもっともっと活用していかなければいけないと思っています。湘南に行ったことがない人が思い浮かべた時のイメージには、センスが良さそうで抜けがあってという気持ちの良いイメージがありますので、それを商品に魅力的に閉じ込めたいという思いがあります。そこが狙いどころでもありますので、やはり我々も湘南のイメージにすがりたいというところもあるわけです。こだわっているのはそういうところでもあります。

青山:センスよく見えるものを作ろうとした時に立ち帰ったら、創業の場所が一番インスパイア元としては素敵だったのです。

また、マーケティングから工場、職人から全部が一貫してここで働いていますのですごく環境も良いですね。

若林:輸入車だとロンドンなどがバリューとなって買ってくれている場合もありますので、オーテックは湘南のイメージもあって買っているという人が増えてくれると嬉しいです。オーテックジャパンデザイン部の若林康二さんオーテックジャパンデザイン部の若林康二さん

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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