【特別対談】移動を“自由”にするクルマの価値観とは…奥山清行氏×島下泰久氏

【特別対談】移動を”自由”にするクルマの価値観とは…奥山清行氏x島下泰久氏
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コロナ禍によるライフスタイルの変化にも、否応なしに順応してきた私たち。行動が制限され息苦しさを感じることも少なくないが、新しい価値観に目覚めたり、これまでにあったものの魅力を再認識したりすることもしばしばだ。

特にクルマ好きからは、大好きな愛車で走る喜びを改めて感じたという声も聞く。これまで自動車にあまり触れてこなかった人々の中にも、公共の交通機関を避け、自動車移動を選択する機会が増えるにつれて、新たにクルマで走る喜びを感じ始めたという人もいることだろう。

そこで、“クルマ”という共通項を持つ、プロダクトデザイナーの奥山清行氏とモータージャーナリストの島下泰久氏に、それぞれの愛車アルファロメオ4CとホンダS2000を前に、ニューノーマルの中の変化や、取り戻したい日常について、さらにはクルマの今、そしてポスト・コロナの時代とその先の未来について、今だからこそ感じることを大いに語っていただいた。

コロナの時代に気づいた大切なもの

プロダクトデザイナー 奥山 清行氏プロダクトデザイナー 奥山 清行氏

奥山(敬称略)「仕事とプライベートはごちゃ混ぜなので、コロナ以降、どちらも様変わりしましたね。30年ほど海外で暮らして、帰国したのが14年前。以来、月一程度で海外に行っていました。各国の仕事先、アメリカの家、イタリアの家で過ごすと、月の半分は海外に。それが、ここ1年半ほどは全く動けなくなってしまいました」

島下(敬称略)「僕の仕事にも移動はつきものなのですが、2019年には家と取材先を年間30往復していたんです」

奥山「それはすごい」

島下「それが去年は2月末に1回のみ。生活は一変しました」

奥山「実は仕事への影響よりも、自分のメンタリティに影響が出ている。いかに、動くこと、人に会うこと、違う環境でものを考えることが大切だったか痛感しました。朝、飛行機に飛び乗って、夕方もしくは翌日には違う土地に降り立つ。すると、わずか半日前に悩んでいたことは何だっただろうと思えるようになる。違う環境に行くと全く違う結論が出る。良識は変わらなくても、常識は時代や文化で全く違いますからね」

モータージャーナリスト 島下 泰久氏モータージャーナリスト 島下 泰久氏

島下「クルマの取材では、実際に乗り、それが作られた場所に行き、造った人の話を聞きます。それを糧に生きてきたのに、それが失われてしまった」

奥山「僕らは言葉という道具だけでなく、五感でコミュニケーションしていたんだなと実感します。にこっと笑ってくれた、目が輝いたとか、そういう反応を受け取っていた。講演などもオンラインで行うと全くそれがわからない。同じ空気を吸って、同じ場を共有して、そこの中で同じことを考えることが絶対に必要。わざわざ出かけていく意味はそこにある。だから、コロナが終息した途端に、元に戻る部分はありますよね。でも、コロナが流行してかえって忙しくなったと思いませんか」

島下「そうなんですよ。その時間にはオフィスにいない、と言えなくなった。どこに居てもいいからスマホで繋いでくださいよと言われますからね。リモート会議などコミュニケーションの手段が増えて、仕事の効率は上がったのかもしれません。でも、顔色、雰囲気、空気がいかに大事かを実感します。ポスト・コロナの時代は、リモートと実際に会うこと、その両方を使い分けることになる。でも、今日のように実際にお会いするとやっぱり違う。嬉しいですよね」

奥山「それはあります。会議の前に雑談するじゃないですか。『S2000』いいですよねとか。それってすごく大切で。リモート会議だとなぜかわからないけど、雑談しないんですよ」

島下「そうですね、なぜかいきなり本題になります。でも雑談していると、時として本題よりも盛り上がって仕事になったりしますよね」

奥山「そうそう。ありますね。今は一日会議をびっちり詰められる。だから何でもいきなりになる。さっきまでシンガポールと話していて、いきなり今度はアトランタと話しても、状況がわからないままその土地の話をされてもピンとこない。これからは、切り替えせずに“同じ世界”という目で見るといいのかもしれないですね」

クルマで移動するということは、自由であるということ

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奥山「帰国する前、イタリアに12年住んでいましたが、その頃からクルマ文化の限界を感じていたんです。ヨーロッパは素晴らしいクルマ社会。でも、日本に帰ってくるとクルマは贅沢品だと言われる。実際はそうじゃないんですけれど。山手線や新幹線などをデザインしていますが、電車はすごく効率のいい交通システム。数分おきに出るから遅れても次の電車に乗れるし、移動中は寝ていても仕事していてもいい。これはクルマを運転しているとありえない。でも、クルマにはPHS(プライバシー、ヘルス、セキュリティ)という3つの要素がある。これらはどんどんこのPHSが大切になってくると思います。特に衛生は、公共の場では自分のコントロール外にありますし。ここ最近『わナンバー』が増えているのも、皆さんがコロナ時代にあらためてクルマの本質に気づき始めたということ。すごく嬉しいですね」

島下「最初は満員電車に乗りたくないとか、そんな理由かも知れませんが、乗ってみたらクルマから離れられないなと感じる人もいるはず。利便性からスタートしているかもしれませんし、奥山さんがおっしゃるPHSが理由かも知れませんが、きっと自由だと感じられるようになると思うんです」

奥山「自由! まさにそうです」

島下「クルマなら、電車の時間を気にせず寄り道してもいいし、景色のいいところを通ってあえて遠回りしてもいい。僕は都内に住んでいますから電車も使いますが、ここに来る途中でも、お天気が良ければ屋根を開けようかなと思うし、運転も楽しめる。クルマ移動の喜びって、そういう小さなことの積み重ね。今日は移動が楽しかったとなるし、移動の時間が自分の時間になるわけです。電車だと、人が多いなとか狭いなとか憂鬱になったかもしれない。やはり人は機能や実質だけでは生きられない。気が重い仕事に向かうときでも、エンジン回して行こうとなる(笑)」

クルマを通して拡張する自分

奥山氏の愛車 アルファロメオ 4C奥山氏の愛車 アルファロメオ 4C

奥山「道具ってそもそも自分の能力がそれを通して拡大していくというものじゃないですか。日曜大工にしてもそうですが、いい道具は拡大の範囲が広い。クルマはその典型。自分では出来ないことが、沢山出来るようになる。それが道具を使う唯一の動物である人間の面白さ。道具がもう自分の延長という感じ。ただ、使いこなすのに必要な慣れとか学習とかが面倒でどんどん簡単になっていくわけです」

奥山「僕のアルファロメオ『4C』のようなマニュアルシフトのクルマは、乗り心地は良くないし、乗り降りも腰が痛くなる。でも、学習の度合いによってその先の発展性が凄くある。だからクルマ好きはどんどんここに戻ってくるんです。フェルディナント・ポルシェ博士が、最後に残るクルマはスポーツカーだと言っていたのは良くわかる。自分の能力の延長になり、基礎がしっかりしているハードウエアというと、究極はスポーツカーなんですよね」

島下氏の愛車 ホンダ S2000島下氏の愛車 ホンダ S2000

島下「最近人気の、沢山の人が乗れるとか、荷物が一杯載せられるとか、そういうクルマはインフラとして求められるんでしょうね。呼んだら来てくれるクルマとか、自動運転車とかもそう。僕や奥山さんのクルマは、自分たちがいないと動かない。自分の延長だから、運転することで自分が生きていることを確認するようなもの。バイタルが刺激される。今日もこのクルマを上手く動かせる自分でいたいと思う。だから楽しい。自転車と同じだと思うんです」

奥山「そうそう。自転車やオートバイは人が降りたら倒れますからね」

島下「なぜ自転車やバイクがなくならないかというと、そういう喜びがあるから。バスの方が楽だとかそういう話じゃない。これじゃなくてはいけない理由がありますよね。スポーツカーの解釈も同じ。自転車やバイクに比べると、能力の拡張範囲が広いし。それを自分の肉体や精神の延長として感じられる。速度の問題だけではないですしね」

奥山「絶対値を求めると、もっとパワーがあり性能が高いものはある。ヘリとかジェット機とか。でも、町の中で日常的に乗れるという適度な延長感がいい。おまけに、乗っていて格好いいというアパレル的要素も、ハードウエアの延長という性質も併せ持つ。クルマって凄い。クルマは20世紀の奇跡。そう考えると、それに関わっているってすごく貴重なことです」

島下「本当にそう思いますね。この時代に生きていることが幸せな偶然だと感じます」

新しいクルマとの関係性

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島下「電動化、自動化となると、暮らしは便利にはなりますよね。ただ、そんな世界の中で、自分はどこに楽しみを見つけていくんだろうかと。今ふと思ったのは、こういうクルマで、飛ばすわけでもなく、ゆっくり帰るだけで何か楽しい、そんな感覚が失われないようにしたいなとは思うんです。40km/hでも夕暮れの中をオープンカーで走るその気持ちよさは感じていたい。職業上、その喜びを多くの人に知ってもらいたいです」

島下「きっかけは何でもいい。選ぶことの楽しさを知ってもらえれば。レンタカーでもいろいろ乗っていれば、この前乗ったやつの方がいいな、何が違うんだろうとなり、やがてある種のこだわりがそこから生まれていく。クルマの性能って、包丁みたいなもの。良く切れる包丁を一回使ったら前のものには戻れない。理屈じゃなくて、そういうものなんですよね。そうなってくれたらいい。これは、何馬力ですねとか、別にどうでもいいから」

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奥山「知らないですね。僕、ジープを持っていますが、何馬力だろう? 考えもしなかったです(笑)」

島下「好きになるって、そこじゃないですからね。もっと感覚的に好きとか嫌いで選んでいい。このブランドだったら間違いないとか、アルファロメオってしっくりくるんだよね、とか。理屈はいらない。あとは使い方。フェラーリでキャンプは行けないですしね」

奥山「日本のクルマ文化は思いがけないブレイクスルーが時々出てきてヨーロッパの人が感激することがあるんですよ、定期的に。日本車にはそこに期待したいです」

島下「日本のメーカーから、面白いものが突然出てきたりしますよね。そうか、文化の軸が違うからこそ起こることなんですね。そういった面白いと感じられるクルマが数多く出てくることを期待します」

サービスステーションができること

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奥山「クルマの未来について考えるとき、ひとつ気になるのが発電のこと。電気自動車が走り出したら、今の3倍発電する必要が出てくる。どうするか解決してから電気自動車の話をしようよと、世界中そう思っている。今のリチウムイオン電池は、基本的に4年から10年が寿命。でもクルマというのは20年残らなきゃならない。ならば、4年後以降どうしたらいいんだと。今はバッテリーがクルマと一体構造になっている。それはバッテリーの寿命が来ると、クルマの寿命も来ると言うこと。反対に、フェラーリのようなものは価値が上がっていくんです。まだ完全に電気に移行しないのは、クルマが次の世代まで残れないから。『ラ・フェラーリ』のバッテリーを10年後にどうするかということです」

島下「フェラーリ初の市販のハイブリッドカーですからね」

奥山「誰かが解決しないと、電気自動車の時代は来ない。それでもヨーロッパでは、電気をやっていないと、環境問題に対応していない会社と見なされて生き残れない。皆、本音ではディーゼルエンジンがいいねと思っていても、電気に行かざるをえない状況にある。本当に何がいいかを冷静に考えると、内燃機関は必ず何らかの形で残ると思っています」

島下「もうガソリンがやばいという時に見つけた、あの安心感はたまらないですしね」

奥山「ガス欠になったことありますか? 僕はギリギリまで追い込むの好きで、ランプが付いてからが勝負みたいなところがあって(笑)。人生で1000回ぐらいガス欠やっていますが一番印象的なのが、ドイツのアウトバーンで経験したときのこと。イタリアへアメリカ人の友人3人と一緒に帰っていたら、夜中の2時頃にハイデルベルグのあたりで200km/h以上出ている時に、エンジンが止まったんです。真夜中のアウトバーンを空走するって結構なスリル。しばらく皆シーンとして。タタタタとかいって2kmほど走って止まるわけです。トウモロコシ畑の中の明かりひとつない片田舎だし轢かれるからヒッチハイクもできず」

島下「それはかなり怖いですね」

奥山「そこから畑の中を延々と歩いて、一番近い村に行ったら、奇跡的にガソリンスタンドがあったんですよ。言葉が通じないのに、やっとガソリンを缶*に入れてもらって、男4人で歩いて戻って。朝方にエンジンが掛かったときの喜びと言ったら! ガス欠ってショックですよね。それまでの素晴らしいクルマがただの鉄くずですから。スタンドの有り難さってガス欠を経験したことがある人なら良くわかると思います」*日本国内では携行缶以外でのガソリンの持ち運びは禁止されております

島下「よくわかります(笑)」

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奥山「エネルギー産業のひとつのカタチと考えれば、そうじゃない。山形では、灯油を届けてくれるサービスステーションがあって、すごくサービスが良い。各家が灯油を必要とするタイミングも、誰が何を使っているかも知っている。田舎に行くと、クルマ以外の部分でも人の暮らしに密着しているんです。エネルギースタンドになれば、出来ることは山ほどあると思います」

島下「地元に密着している感じは、本当にいいですよね。ドイツのスタンドはコンビニが併設されていますよね。ああいうの、いいですよね」

奥山「24時間開いているし。アメリカもそうですね。サービスステーションって、洗車やコーティングが凄く上手なんですよ。街中にあると、クルマを預けて、買い物に行って帰ってくるとピカピカになっている。クルマ好きとしては、もっと活用していきたいですね」

島下「クルマ社会に強い安心感を与えてくれているサービスステーションという存在はとっても心強いです。この先にクルマというものが変わっていくのと同じく、変化して僕らの生活に結びつくものだと思います。なのでこれからもこの先も自分なりにクルマを楽しみ、サービスステーションを利用していきます」

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《牧口じゅん》

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