「内から外へ」アウディが『グランド・スフィア』で見せる自動運転時代のデザイン戦略とは

アウディのデザインとは美観と機能の融合

インテリアは購入を決定づける要素そのもの

プロポーションが変わってもプレステージな外観は残る

アウディが投げかけるデザインの未来像とは

アウディがオンラインワークショップでその片鱗を見せたコンセプトモデル『グランド・スフィア』
アウディがオンラインワークショップでその片鱗を見せたコンセプトモデル『グランド・スフィア』全 18 枚

7月9日、アウディは「デザイン」をテーマに、全世界のメディアに向けたオンライン・ワークショップを開催した。司会兼モデレーターを務めたのは、アウディAGの広報PRマネージャー、ヨゼフ・シュロスマッヒャーだ。彼に促され、エクステリア・デザインのチーフであるフィリップ・レーマースと、インテリア・デザインの同じくチーフであるノルベルト・ウェーバーが登壇した。

今回の枠組みでは未だチラ見せながらも、9月のミュンヘンIAA(旧フランクフルト・モーターショー)で正式に披露される3台のコンセプト・スタディの1台、『グランド・スフィア』の大まかな全体像も公開された。加えて他2台のコンセプト、よりスポーティでドライビング・プレジャーに焦点を当てた『スカイ・スフィア』は8月のモントレー・カーウィークで披露されることが決定しており、より都市部コミューター寄りで広々としたスペースを想起させる『アーバン・スフィア』についても、言及された。

アウディのデザインワークショップよりアウディのデザインワークショップより

アウディのデザインとは美観と機能の融合

オンライン型式の発表会やワークショップは、コロナ禍で人々の直接の行き来が難しくなったここ1年強、他メーカーも含めすっかり定着した型式。だがアウディが、地元インゴルシュタット至近のミュンヘンIAAでのお披露目を控えて、リアルな実車へのアプローチと捉えている時点で、今回のワークショップ自体がアフターコロナを見据えた「小パラダイム変化」ともいえる。もちろん、自動運転やSDGsにおける自動車社会といった大きなパラダイム変化に向けて、新たなデザインの戦略、近い将来へ移行すべき方向性をアウディが自ら打ち出したことが、そのメッセージの中核だ。

そもそも、マーク・リヒテをトップとするアウディのデザイン部門は、ドイツのインゴルシュタットだけでなく、カリフォルニアのマリブと中国は北京それぞれにデザインセンターを有し、全世界3拠点で25か国の国籍による450人のデザイナーから成る。クラシックカーやスーパーカーの影響も強く、将来の車社会やトレンド、それらがもたらすライフスタイル変化を予想して「プレミアム・モビリティ」の定義を作り出すのは、おもにマリブの役目。変化のスピードが速い中国で、デジタライゼーションの要である内装アーキテクチャの基幹設計を担うのは北京のデザインセンターという。当然、インゴルシュタットを含めた北半球の3か所で、24時間途切れることなくアイデアやデータが飛び交い共有され、開発はスピーディに進んでいく。

マーク・リヒテ氏(中央)とノルベルト・ウェーバー氏(左)、フィリップ・レーマース氏(右)マーク・リヒテ氏(中央)とノルベルト・ウェーバー氏(左)、フィリップ・レーマース氏(右)
これまで『A6』や『A3』、『e-tron GT』の外観を手がけてきたフィリップ・レーマースは、今もカスタマーの多くが購入動機の筆頭にエクステリア・デザインを挙げるとしつつ、こう語る。

「アウディのデザインとは、パーフェクトなテクノロジーとパーフェクトなプロポーション。美観と機能の融合です。具体的には短いオーバーハングで大きなホイール、そしてロングホイールべース。電動化にともなってe-トロンGTがそうであるように、ストリームラインのシルエットで、きわめて魅力的なプロポーションを作り出すことができたと思う」

インテリアは購入を決定づける要素そのもの

かくして外観デザインをトリガーとするエモーショナルな動きを、途切らせることなく移行させるのが内装デザインの目標であると。そう引き取りつつ、北京を経験した後にグループ内の他ブランドを経て、アウディに再び戻ってきたノルベルト・ウェーバーは、今日ではインテリアが購入を決定づける要素そのものであると強調する。

「例えば、このクルマが自分の車になったら、デジタル的にはどんな可能性を提供してくれるのだろう? どれだけリラックスできるだろう? ネットワーキングによる具体的な利便性として何が得られるだろう? こうしたクエスチョンが、ますますカスタマーの興味をくすぐる、引き込む決定的要素になっています」

それは、インテリアこそがクルマ全体を決める新しいパワーセンターになったという意味か?とPRマネージャーが問うと、デザイナーの2人は、興味深い回答を返す。

アウディのコンセプトモデル『グランド・スフィア』アウディのコンセプトモデル『グランド・スフィア』
「まずデジタライゼーション、そして自動運転が、インテリアを疑う余地なく注目すべき対象にしています。将来的に我々は“インサイド・アウト”から、つまり内から外へとデザインしていきたい。とはいえ我々はデザインのプロセスをひとつの全体として捉えており、数々のアイデアは一緒に生まれてくるもので、問題も一緒に解決されるもの。最終的に一貫性ある結果を確保するには、それが必要なのです」

インテリア担当デザイナーがこう述べた後、外装を指揮するレーマースも、次のように応じた。

「我々が根本から理解し合っていることが、非常に大切になります。以前はたいてい、最初にアウタースキンを描いて、それからインテリアと乗り手がよくフィットするかどうか、見ていくやり方でした。この点に関して、自動運転は新たなパラダイム・シフトです。ドライビングという今あるタスクが実践されなくなれば、新たな可能性がいくつも開けるということです」

プロポーションが変わってもプレステージな外観は残る

アウディのコンセプトモデル『グランド・スフィア』アウディのコンセプトモデル『グランド・スフィア』
インテリアとエクステリア、どちらかにプライオリティがある訳ではないと、デザイナーたちは口を揃える。VRデータやクレイモデルになってからも、デザイナーとして鉛筆とスケッチブックで、絶え間なくまだ生まれていない何かを生み出し続けていると、2人は述べる。そうした進め方から生まれてきた「グランド・スフィア」というスタディの輪郭には、アウディらしさと目にしたことのない斬新さが、巧みに同居している。

伸びやかな水平の線で囲まれたインテリアの中央には、スライド式にグラスセットを収めるセンタコーンソールがあり、その後端にグリーンの観葉植物が配されている。室内に浮かぶように固定された前席シートはラウンジチェアのようだ。それでいて前後スライドを極限まで確保しつつ、サイド・バイ・サイドに並べられた前席シートと、コンバーチブルや+2クーペのようなリアシートのコンビネーションは、古典クーペのように優雅だ。

アウディがオンラインワークショップでその片鱗を見せたコンセプトモデル『グランド・スフィア』アウディがオンラインワークショップでその片鱗を見せたコンセプトモデル『グランド・スフィア』
同じく、輪郭だけが明らかになった外観シルエットに目を移せば、フロントエンドを長くとったプロポーションは、スポーツバックやアバントを思わせる滑らかなルーフラインに低いフロア、そして長いホイールベースが際立っている。俯瞰で上方から眺めれば、4輪のフェンダー配置はアウトウニオンの速度記録車からクワトロにまで至る、アウディ独特のプロポーションを想起させる。ただ単に走るためのコクピットであることを止めたとはいえ、走ることを止めた訳ではないクルマをスフィア(本来は半球の形状・空間を意味する)、リビング・スフィアであり生きているスフィアであり、新しいスペースの出現が表現できたと、レーマースとウェーバーは自負する。

「レベル5でキャビンは静かな場所になり、レベル4ではドライバーが運転する可能性がまだあります。プレミアム・セグメントのクルマのプロポーションが変わっても、ロングボンネットのようなプレステージな外観上の特徴は残るでしょう」

と、レーマースは予想する。

アウディが投げかけるデザインの未来像とは

アウディのコンセプトモデル『グランド・スフィア』アウディのコンセプトモデル『グランド・スフィア』
一方で、デジタライゼーションによって、例えばスマートフォンから各機能のコンフィギュレーションを操作するとか、ボイス・コマンドによるコンシェルジュ機能を通じて4ゾーン・エアコンを個別調節することも考えられると、ウェーバーは述べる。

「4座の中で乗員をどのように座らせるか、それもセンシティブな部分で、目下開発中です。ショーカーはもちろん市販車と異なるものですが、ミュンヘンIAAで詳しくはお見せできるつもりです」

電動化とデジタライゼーションというパラダイム・シフトは、アウディのような先鋭的なプレミアム・ブランドのデザインにまで転換と変化を促し、兆しとなっていよいよ表れるまでに至った。それは単なる意匠の差別化や環境意識のみならず、自動車をデザインする仕方そのものの変革として、アウディは自家薬籠中のものにしようとしている。要は、いまだ半分はバーチャルな出来事とはいえ、リアルという残り半分の中に、自らのデザインの未来像を投げかけているのだ。

アウディのコンセプトモデル『グランド・スフィア』アウディのコンセプトモデル『グランド・スフィア』

《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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