【MaaS体験記】家族みんなの移動が変わる…京丹後でウィラーが開始、AIシェアリング『mobi』とは

『mobi』サービスの利用者でもある京丹後市政策企画課の増田あづさ主任
『mobi』サービスの利用者でもある京丹後市政策企画課の増田あづさ主任全 7 枚

今回の取材は、京丹後エリアでサービスを開始した、AIシェアリングモビリティサービス『mobi(モビ)』の出発式だ。京丹後エリアでは、高齢化や人口減少、公共交通などの課題があり、今回のモビリティサービスを定額で提供することで、新たな移動ニーズを掘り起こし、移動総量を増やして将来の街の活性化につなげていく取り組みだ。今回は、出発式に参加したのち、サービスで使用する『mobi』アプリを使って車両呼び出しから乗車体験まですることができた。

『mobi』サービスの利用者でもある京丹後市政策企画課の増田あづさ主任『mobi』サービスの利用者でもある京丹後市政策企画課の増田あづさ主任

京丹後エリアにおけるAIオンデマンド交通

京丹後エリアで実施されるAIオンデマンド交通の導入実証実験は、令和2年度の国土交通省「日本版MaaS推進・支援事業」の一環で今年の3月8日から31日に無償で実施しており、今回はその実証結果をもとにした有償でのサービス開始となる。このサービスは、京丹後市から峰山自動車株式会社に事業の実施を要請し、同社とウィラー株式会社が連携してAIオンデマンド交通(予約型乗合タクシー)を運行するものだ。事業開始にともない、関心を持つご家庭を一軒一軒まわり、アプリや電話での予約方法などを説明した経緯がある。

このサービスは、呼べばすぐ来るエリア定額乗り放題サービス『mobi』として開始し、利用者の呼び出しに応じて迎えにくるAIオンデマンド交通だ。ウィラー株式会社がオンデマンド交通でアプリを提供するのは今回がはじめてとなる。

車両は、ワゴン車(トヨタ ハイエース)1台を使用。車両の呼び出しには専用のiOS対応スマートフォン向けアプリ『mobi』を利用し、電話からでも簡単に予約ができる。自宅から2km圏内での移動に特化し、コロナ禍で在宅時間が増えたことで近距離移動のニーズに応えるものだ。

京丹後市での『mobi』サービス開始の出発式(左から、京丹後市中山泰市長、ウィラー株式会社村瀬茂高社長、峰山自動車株式会社専務取締役平井直人)京丹後市での『mobi』サービス開始の出発式(左から、京丹後市中山泰市長、ウィラー株式会社村瀬茂高社長、峰山自動車株式会社専務取締役平井直人)

『mobi』アプリを利用した乗車体験

京丹後市峰山町にあるショピングセンターマイン前で開催された出発式に参加した。京丹後市中山泰市長からは「ICTを活用して公共交通をシームレスにつなぎ、住民本位の最適な移動サービスを実現していく」と話され、ウィラー株式会社の村瀬茂高社長からは「マイカー同等以上のサービスを目指していく」という紹介もあった。出発式も終わり『mobi』アプリから実際の車両を呼び出してみると、車両到着までの時間が表示された。

『mobi』アプリでの呼び出し画面と到着時間『mobi』アプリでの呼び出し画面と到着時間
『mobi』アプリでは、ほかの配車サービスアプリと同様に、あらかじめクレジットカード登録をしておき、地図から行き先を選ぶ。今回の実証では車両は1台のため、地図には2km圏内の乗降ポイントと車両位置とが表示された。目的の行き先を地図から選ぶのだが、ポイントの数が多く地名などもわからないため、近くの郵便局を行き先にした。行き先を決めると、想定所要時間と料金が表示される。

その画面中央部をタップすれば予約が実行されるというのだが、見た目では少し判断がしづらい。ボタンとして強調するか「これで予約しますか?」というようなアテンションが必要になるだろう。実行すると、到着時間と車両ナンバーなどが表示される。乗り合いになるため、途中でほかの方が予約したりすると到着時間が更新されていくことがある。2km圏内の移動ということもあり、到着予定時間と認識のズレがどの程度影響するかは今後注目していきたい。

峰山自動車の車両が到着峰山自動車の車両が到着
アプリで呼び出すと数分後に車両が到着した。車両には、コロナ対策用に空間除菌消臭装置「Aeropure」も設置されているワゴン車(トヨタ ハイエース)だ。峰山自動車の専属運転手は「スマホ操作にまだ慣れない部分もあるが、以前の実証から改善された点が多い」と話す。予約時に音が鳴ることやスマホの画面が大きくなったことなどを挙げていた。実際に、ドライバー向け端末についてもタブレットサイズからスマホサイズにしたのは、「運行の邪魔になるといった運行事業者の意向を反映したものだ」とウィラーの松岡氏は話す。

目的地に到着後、降車すると同時にドライバーへの評価をする画面が表示され、かんたんなアンケートを入力した。今回は試乗ではあるが、ほかの地域のオンデマンド交通と同様に、ルートを戻るというような繰り返し利用を想定した提案があると次に乗りやすいと感じた。元いたショピングセンターまで戻って今回の体験を終えた。

スマホ端末で予約状況を確認しながら運行する峰山自動車のドライバースマホ端末で予約状況を確認しながら運行する峰山自動車のドライバー

世帯単位でのサブスク

今回の『mobi』サービスの一番の特長は、いわゆる定額制(サブスク)という点だ。料金は、家族みんなが使うことをコンセプトとしており、お父さんは通勤に、お母さんはお子さんの送迎に、お子さんは通学に、おじいちゃんおばちゃんは病院の通院に使うというように、世帯単位での利用を想定している。一世帯で月額5000円(キャンペーン価格は月額2000円)。都度支払いだと躊躇してしまう移動でも、月額定額制にすることで、携帯電話のパケット料金などと同じように、ストレスなく移動ができる。

定額制になるため、はじめに登録者が決済を済ませておけば、家族全員がいつでも利用できる。そのため、車両を予約する利用者が、サブスク登録者の申し込みなのか、そうでない都度利用なのかはドライバーの画面でもわかるとウィラーの松岡氏は話す。サブスクで決済済みなのか、都度利用で決済がまだなのかなどにより、降車時のドライバーの対応も異なってくる。

また、スマホを持たない場合には電話からの登録・予約も可能だと言う。スマホでのサービス提供とスマホを持たない高齢者という課題は、ほかの地域でもよくあるが、今回は電話対応を含んでいる点で期待が持てる。利用する家族の属性と利用実績とがうまくデータ化されれば、人流データとしての活用も見えてくるはずだ。

10年後も安心して暮らせる街を目指す

今回の式典で、ウィラーの村瀬茂高社長は「10年後も安心して暮らせる街」を実現することを強調した。具体的には「免許返納後でも自由に移動できること」「短期滞在者の移動手段にして交流人口を増やすこと」に加えて「一家に複数台あるマイカーの台数を減らし、環境にもやさしい街づくりをする」と話した。

マイカーが減り『mobi』サービスを利用するようになることはもちろんだが、マイカーが減ることで公共交通機関の利用者が増えるという側面もある。ウィラーグループは、京都丹後鉄道を運営していることもあり、令和2年2月には、同鉄道を含む域内の鉄道やバスをキャッシュレス決済(QR決済)でシームレスにつなぐ実証実験も行っており、同年11月には日本初のVisaタッチ決済も導入している。

まずは、今回の京丹後エリアで『mobi』サービスをしっかりと実施したうえで、今後、観光も含めて公共交通機関などとの連携なども検討していく考えだ。短期間の実証実験ではないため、年間を通して見えてくる利用者の行動やそのデータ等は、京丹後エリアだけではなく全国にも展開していく足がかりになるはずだと村瀬社長は話す。

今回取材したのは、京丹後エリアでのサービスだが、7月からは東京・渋谷でも同サービスを展開している。このサービスがそれぞれのエリアでどう違いどう活用されていくのか今後に注目していきたい。

京丹後市での『mobi』サービス開始の出発式(左から、京丹後市中山泰市長、ウィラー株式会社村瀬茂高社長、峰山自動車株式会社専務取締役平井直人)京丹後市での『mobi』サービス開始の出発式(左から、京丹後市中山泰市長、ウィラー株式会社村瀬茂高社長、峰山自動車株式会社専務取締役平井直人)

◆家族でシェアリングできる新しい移動機会

京丹後エリアでの車両は、5人~9人乗りのワゴン車1台だと言う。およそ100世帯に1台という計算で、200世帯に利用者が増えれば2台目を追加する考えだ。同エリアで3000世帯くらいの利用があれば、サービスは成立していくものと見込まれる。利用は、個人利用のほか法人利用も含まれるが、施設の送迎等を『mobi』サービスで代行することができれば、サービス向上や地域経済にも貢献していくことが考えられる。

地域交通を考えるうえで、住民の移動と観光客の移動という2つの課題がある。今回の取材では、それら2つの前提ともいえる移動するキッカケを提供するもので、移動することへのハードルを下げた考え方を提案する。サブスクがその1つになることは間違いないが、それを家族で共有(シェアリング)できるようにしたことが興味深い。

一家に複数台あるマイカーでも、実は運転手が決まっている場合も多い。おじいちゃん・おばあちゃんの移動にお母さんが運転しないといけない場合も多いと聞く。家族全員ひとりひとりが自由に使えるマイカーではないとすると、今回のサービスで自由に使えるようになるメリットは大きい。自分で運転できないご家族の人がいる場合には、とてもいい機会になるはずだ。

今後、このサービスで得た行動ログや人流データを、地域の施設や店舗などといっしょに活用し、将来の地域の活性化に役立たせてほしい。

■MaaS 3つ星評価
エリアの大きさ ★☆☆
実証実験の浸透 ★☆☆
利用者の評価 ★★☆
事業者の関わり ★★☆
将来性 ★★★

坂本貴史(さかもと・たかし)
株式会社ドッツ/スマートモビリティ事業推進室 室長
グラフィックデザイナー出身。2017年までネットイヤーグループ株式会社において、ウェブやアプリにおける戦略立案から制作・開発に携わる。主に、情報アーキテクチャ(IA)を専門領域として多数のデジタルプロダクトの設計に関わる。UXデザインの分野でも講師や執筆などがあり、2017年から日産自動車株式会社に参画。先行開発の電気自動車(EV)におけるデジタルコックピットのHMIデザインおよび車載アプリのPOCやUXリサーチに従事。2019年から株式会社ドッツにてスマートモビリティ事業推進室を開設。鉄道や公共交通機関におけるMaaS事業を推進。

《坂本貴史》

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