燃費改善では足りないCO2削減
自動車工業会の豊田章男会長は、急速なEV普及は、国内約550万人の雇用に影響を及ぼすとし、また現在の電源構成比では火力発電の依存度が高く、国内での自動車生産も難しくなるとの懸念を述べている。
しかし、EV強制導入の動きは1990年の米国カリフォルニア州で30年も前にはじまっており、準備期間は十分あった。気候変動に対する認識の強弱で、世界の自動車メーカーや国の姿勢に違いがでている。世界人口は、20~21世紀にかけて約5倍に増え、最新のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告でも人間による影響が100%と定義づけた。
つまり、二酸化炭素排出量を5分の1にしなければ元へは戻れない訳で、それは燃費改善では足りず、排出ゼロを早急に実現しなければ、いま起きている自然災害の猛威は収束しないのである。
ディーゼル排ガス偽装問題で欧州を中心にEVシフトが加速
排出ガス偽装があったのと同型のVWのターボディーゼル「TDI」エンジン
欧州自動車メーカーがEV導入へ急展開で動いたのは、2015年のフォルクスワーゲン(VW)によるディーゼル排ガス偽装問題だ。ディーゼルという手が打てなくなり、究極のEV普及へ的を絞った。その過程に、モーター走行も可能なPHEVの意味がある。EVとPHEVを併売することにより、充電器の整備という社会基盤も備わっていく。
また、欧州の自動車産業を牽引するドイツの自動車メーカーにとって、重要な市場は中国だ。中国でもNEVという新エネルギー車の導入が進められているので、EVおよびPHEVへの転換は、欧州自動車メーカーにとって理にかなっている。
中国がEVに力を注ぐのは、発電の排出ガスゼロ化を進めているからだ。石炭火力に替わる次世代型原子力発電が実証の発電をはじめる予定だ。この方式は、福島第一原子力発電所と同じ事故が起きても、放射線を外へ拡散させたり、メルトダウンしたりしない安全性を持つ。次世代型と呼ばれる原子力発電が、日本とドイツ以外では実用化へ向け動いている。
EV普及に向けた環境整備も重要
東日本大震災以来、日本では原子力発電というとすべて否定される。だが福島第一原子力発電所の装置は、クルマでいえば1950~60年代の旧いもので、排出ガス浄化されておらず、エアバッグもなく安全性がいまより低いのと同じことで、それを見てクルマを全否定するような発想だ。
日本政府は2030年までに発電における排出ガスゼロ比率を60%に高める計画であり、9年後には、EVがウェル・トゥ・ホイールといった環境性能においてもエンジン車はもちろんHVにも大きく差をつけるはずだ。
重要部品となるリチウムイオンバッテリーは、欧州地域だけでなく中国でも大量生産することが原価低減につながる。今春、米国のテスラ『モデル3』が日本で約80~150万円も値下げできたのは、上海のバッテリー生産工場が稼働したためだ。バッテリーの大量生産による原価低減が、EV普及の後押しになる。