東急は、首都高速道路と首都高技術が首都高上で展開している道路維持管理システム「インフラドクター」を、鉄道の維持管理に応用し、鉄道保守新技術「鉄道版インフラドクター」として、リース導入。
9月7日から約2か月間にわたり、世田谷線、こどもの国線をのぞく東急各路線で建築限界検査、トンネル特別全般検査(13箇所・約2.9km)を、この鉄道版インフラドクターで計測していく。
◆建築限界検査とは
建築限界とは、列車の安全走行を維持するため、列車の動揺や線路線形などを考慮し設定した、標識や建物などを設けてはならない空間。建築限界検査は、線路線形などを考慮し設定した空間(建築限界枠)を侵している施設などがないか定期的に定点計測する検査。
今回の鉄道版インフラドクターで取得する3次元点群データを活用し、人手による定点計測を機械による全面計測に転換し、建築限界枠との離隔を確認することで、鉄道の安全・安定輸送を確保する。
◆トンネル特別全般検査とは

今回、鉄道版インフラドクターを活用し、近接目視と同等の検査実施が可能になり、軌道内への足場組み立て回数の削減につながるほか、3次元点群データや全方位動画などを合わせて活用することで、近接目視だけでは検査が難しい構造物全体の変形を調査し、異常が疑われる箇所を抽出するなど、検査の高度化を図る。
◆DX化でコスト削減、精度向上、人手不足解消

東急は、鉄道版インフラドクター導入することで、現地での人力による検査や計測を機械計測に置き換え、DX化。3次元点群データや高解像度カメラ画像の解析により、トンネル各部位の浮きや剥離などの要注意箇所を効率的に抽出でき、打音調査などが必要な箇所の絞り込みが可能になる。
これにより、検査作業の効率化、検査精度の向上、技術継承支援につなげ、検査費用は最大で約3割減少を目指し、鉄道維持管理での固定費削減を図る。
また、鉄道版インフラドクターは、計測した各データからトンネル壁面の展開図などを作成することができ、報告書の作成といった事務作業も大幅に省力化できるほか、インフラドクターの特徴であるGISと3次元点群データ、全方位動画の連携によるデータマネジメントなど、施設管理のさらなる高度化・拡張が図れる。
◆鉄道版は時速30km/hで走行、機関車重連で一発撮り

この計測ユニットには、レーザ計測器や全方位カメラ、レーザースキャナ、8Kカメラ(8台)、距離計、LED証明(20台)などを組む計測ユニットが組まれている。
これら計測ユニットが取得した3次元点群データや全方位動画などの各種データは、束になったケーブルでモーターカー側に搭載されるパソコンに取り込まれ、オフライン保存される。
首都高版は、首都高の黄色いパトロールカーにこうした機材を載せて、60km/hや湾岸線など80km/hのスピードで走り計測していく。いっぽうの鉄道版インフラドクターは、鉄道規則に従い最高速度30km/hで走る。
「高速道路の計測は、なんどでもトライできるけど、鉄道の場合は旅客営業時間以外で設定された深夜の特別ダイヤで一発で計測しなければならない」
「首都高の場合は、片側2車線あるような道では、左だけ撮影し、復路でもう片方を撮影したりするけど、鉄道版は画角を広くとれる8Kカメラで全方位を一発で計測する」という。
◆先頭に監視員、軌道モーターカー1両は補機、トンネル前でいったん停止ピント調整

「鉄道で先頭に立つのは安全上の見張り、監視。車両が動いているときは作業してはいけないというルールがある。機関車を重連で連結しているのは、1両がトラブルで動けない場合を想定し、バックアップ予備機の補機をつけている」
また首都高では60km/hなどの速度で通過するなか、鉄道では30km/h制限で走る。また鉄道版インフラドクターは、トンネル入口でのルーティーンも興味深い。
「いったんトンネル出入口で車両をとめて、カメラのピントなどを確認して、ちょっとバックして、照明を焚いてトンネル計測をスタートする。ダイヤどおりに一発で計測しないといけないので、プレッシャーはある」という。
東急線で動き出した鉄道版インフラドクター。9月7日からは東急多摩川線・池上線で、9月21日からは東横線・目黒線で、10月16日からは田園都市線・大井町線で計測が行われる。