【池原照雄の単眼複眼】ホンダ、「夢の力」で空・宇宙・月面へ挑む

ホンダ eVTOL
ホンダ eVTOL全 7 枚

電動垂直離着陸機「eVTOL」で新たな「空」のモビリティに進出

ホンダが9月30日に、航空・宇宙やロボティクスなど新領域での技術開発を公表し、自動車やバイクといった既存事業以外のモビリティへの進出を提示した。

自動車やジェット機でのエンジン燃焼、自動運転での制御など、長年蓄積してきたコアの技術群を生かして新領域の商品化を目指す。電動化など経営環境の激変を乗り切るため、自動車メーカーが迫られている「事業変容」のひとつの姿を示している。今回公表された開発中の製品が躍動するであろうフィールドは、「空」、「宇宙」、「月面」であり、いずれも「地上」が主体の既存製品とは異なる空間への進出となる。

まず「空」は、すでに「Honda Jet」で進出しているが、2019年からは「eVTOL」(イーブイトール=電動垂直離着陸機)の開発に着手した。電動モーターによってローターを回して推進力を得るもので、地上から垂直に飛び立ち、航行する。複数の小径ローターによる安全性の高さや静粛性、さらにクリーン性能をもち、都市間などの新たな移動手段として期待されている。米国では開発競争が熱を帯びているという。

ホンダは定員4人で、かつ航続距離を延ばすため、ジェット機開発などで培ったガスタービン技術を生かしたハイブリッド方式での開発を進めている。バッテリーのみだと100km程度しか飛べないが、発電が可能なハイブリッドにして400kmの航続ができるようにする。最高速度は270km/h以上を目指す。

開発を担う本田技術研究所・新モビリティ研究ドメイン統括の川辺俊フェローによると、2023年くらいに米国で試験飛行に着手し、25年ごろには事業化の可否を判断する計画だ。事業化が決まれば、直ちに米国での認定取得手続きに入り、2030年代からグローバルで事業展開する。eVTOLの自律飛行が可能になる2050年の世界の市場規模は、30兆円規模と見込まれている。

再使用できる小型ロケットで「宇宙」へも

「宇宙」に向けては2019年末から小型ロケットの開発を始めている。温暖化が進む地球環境の観測、自動車のコネクテッド技術向け広域通信など、宇宙利用に必要な小型人工衛星を打ち上げるためのロケットだ。ここでは燃焼技術、ジェット機や自動車での流体技術、自動運転での制御技術などを応用する。

開発プロジェクトは、「ホンダのコア技術を生かせばロケットができる」という若手技術者の発案がきっかけになった。打ち上げ後に一部を着陸・回収させて再使用できるようにし、コストの優位性も追求する。今のところ、要素技術のフィージビリティスタディ(企業化調査)の段階だが、すでに、燃焼のシミュレーションも行っている。本田技術研究所の小川厚執行役員は、開発が順調に進めば、2020年代のうちに米国での打ち上げ実験に着手する方針を示した。

「月面」ではエネルギーシステムとアバターロボを投入

「月面」では、燃料電池などのエネルギー技術、「ASIMO」で培ったロボティクス技術を展開する。エネルギーはホンダの燃料電池と高圧水電解の技術を基に、水を電気分解して酸素と水素を貯蔵し、発電や月面居住空間への酸素供給などを行う「循環型再生エネルギーシステム」の構築を進める。また、ロボティクスは今回、開発を発表した「アバターロボット」(分身ロボット)を応用し、月面での「遠隔操作ロボット」の実用化を目指している。いずれもJAXA(宇宙航空研究開発機構)との共同研究として推進する。

アバターロボットは遠隔操作によって人の分身となり、あたかもその場にいるようにして対象物を扱うことなどを可能にする。バーチャルの環境下で地球に居ながら月面での作業、また、地上では医師による遠隔治療など多彩な活用を想定している。開発では、ASIMOでも採用していた人を模した「多指ハンド」やAI(人工知能)のサポートによる遠隔操縦機能を組み合わせ、さまざまな重量やサイズのものを握って保持したり、道具を操ったりと人間並みの機能を追求していく。

2023年度中には外部の協力も得ながら技術実証に着手する方針で、30年代の実用化を目指す。本田技術研究所の大津啓司社長は、「アバターロボットは時間と空間を超える『4次元モビリティ』と位置付けている。遠隔操作で時空を超え、人の活躍の舞台を広げていきたい」と、話している。

60年ぶりの研究体制改編で、近未来の開発テーマに集中

一連の新領域への進出は、2019年から2020年にかけてホンダが行った研究開発体制の改編によって加速している。ホンダは1960年に本田技術研究所を設立、世界の自動車大手では異例の開発部門を分離する体制としてきた。独創性や先進性をもった技術開発の原動力となったものの、近年の経営課題に迅速に対処するには、ホンダ本体とのより緊密な連携が求められていた。

こうした課題のもと、組織再編の大ナタを振るったのが、前社長の八郷隆弘氏(在任2015~21年)だった。当時、本田技術研究所の社長だった三部敏宏氏(現ホンダ社長)と共に、ほぼ60年ぶりとなる改革を断行した。まず2019年4月に二輪車部門、2020年4月に四輪車部門で実施。量産モデルの開発はホンダ本体に移管し、研究所は先進技術やデザインなどに特化し、新たなモビリティやロボティクスといった領域での開発に専念する体制とした。研究所の大津社長は、再編によって「われわれは近未来とその先の新技術開発に、より集中できるようになった」と、手応えを示す。

「新領域へのチャレンジ」と題した今回のプレゼンテーションは、埼玉県和光市で模型やパネル展示とともに行われた。質疑も含めて1時間半という短時間だったが、人類の近未来のヒトこまを想像し、自分も乗ってみたい、操作してみたいと、気持ちが高ぶった。まさに「The Power of Dreams」の要素が詰まった領域だ。ホンダで働く人々も「えっ、ウチはこんなこともできるんだ」と、驚きをもって受け止めたのではないか。企業には時々、夢の提示が必要だと改めて感じた。
【ホンダ新領域】
ハイブリッド式の電動垂直離着陸機 eVTOL を開発…2023年にも試験飛行
時空を超えるアバターロボット、ASIMO進化…2023年に実証
宇宙へ、再使用できる小型ロケットを開発

《池原照雄》

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