【ホンダF1】30年ぶりの戴冠をめざす終盤戦…技術首脳が語る、躍進の理由と意義

“HONDA”は30年ぶりにF1の王座に就けるか(写真は2021年ロシアGPのレッドブル・ホンダ、#11 S.ペレス車)。
“HONDA”は30年ぶりにF1の王座に就けるか(写真は2021年ロシアGPのレッドブル・ホンダ、#11 S.ペレス車)。全 15 枚

21日、ホンダはF1の今季終盤戦を前に「シーズンクライマックス取材会」をオンラインにて実施、F1プロジェクトのLPL(ラージ・プロジェクト・リーダー)である浅木泰昭氏が技術解説を行ない、ラストシーズンでの30年ぶりとなる戴冠を目指す思いなども語った。

今や「チャンピオンを獲らないと喜べない」ほどに躍進

全22戦予定の今季F1も残すは6戦。今週末(10月22~24日)のアメリカGPから8週で6戦という強行軍でシーズンの幕を閉じることになる。パワーユニット(PU)供給者としての参戦は今季が最後というかたちになるホンダにとっては、30年ぶりのチャンピオン獲得という悲願達成をかけた終盤戦になる。

今季のチャンピオン争いは近年稀な接戦状況といえよう。第16戦終了時点でドライバー部門はマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)がトップに立っており、絶対王者ルイス・ハミルトン(メルセデス)を6点リード。コンストラクター部門では、首位メルセデスをレッドブル・ホンダが36点差で追っている。1戦あたりの最大得点は基本としてドライバーが26、コンストラクター(チーム)が44なので(29と49の場合あり)、ドライバー部門はもちろん、コンストラクター部門も含めてどうなるかは分からない戦況だ。

レッドブルとアルファタウリにPUを供給するホンダにとっては、あのアイルトン・セナの時代、1991年以来となるホンダとしてのタイトル獲得に現実味がある状況でのラストバトル。そして2015年からの第4期F1活動、その7シーズンの集大成ともいえる戦いになるが、2018年からHRD Sakura センター長 兼 F1プロジェクトLPLとしてF1活動を指揮しているのが浅木泰昭氏である。

浅木氏の現職就任後となるホンダ第4期後半は、トロロッソ(現アルファタウリ)との共闘初年度である2018年シーズンから上向き基調の流れとなり、翌2019年にはトップチームの一角であるレッドブルとも共闘を開始。そして今年2021年、ついに本格的なチャンピオン争いを演じるに至った。

浅木氏は2018年当時を「必死でした」と振り返る。この年の序盤の出来次第で、翌2019年からのレッドブルとの提携が実現するかどうか、という状況だったからだ(レッドブルはトロロッソ~アルファタウリの“系列上位チーム”)。そのレッドブルとの共闘も無事に実現し、2019年に第4期初勝利を飾った際には「私自身、すごくホッとしましたし、(F1に関わるホンダの)みんなもそうだったと思います」。

今年、チャンピオン争いを繰り広げるようになると、浅木氏らの思いも変化してきた。「贅沢な話ですが、レースで優勝したくらいでは(いい意味で)嬉しくなくなり、今年はシリーズチャンピオンを獲らないと(本当には)喜べない、というくらいのところまで来ています」。ホンダの躍進、そのなによりの証明だろう。

レース以外にもF1の技術を発展させていく“思い”

この4シーズン(2018~2021年)における浅木氏の技術回顧を聞くと、その進化の契機は「新しい燃焼のコンセプトを見つけたこと」にあったようだ。しかし、これによる性能向上は「壊れるようにもなった」という状況を呼び込む。そこで「耐えられるものをひとつ、ひとつ」整えていくなか、一助となったのはターボの改良に「ホンダジェットのシミュレーション技術も活かせたことです」。“オールホンダ”の姿勢がより強化されてきたことはこれまでも言われているが、浅木氏はあらためてそこを強調した。

また、燃料に関しても「燃焼の変化によって、燃料(に求められること)も変わってきます」という状況下、やはり全社的な対応を含めて乗り切っていくなかで、「性能を出すだけではなく、カーボンニュートラル、世の中の役に立つことも意識」した開発を進めてきたという。

今季後半に入った頃、ホンダは“低抵抗で高効率な超高出力軽量バッテリーセル”を搭載した新型エナジーストア(ES)、『新Honda内製バッテリー』を実戦投入し、これがとても有用であることを公表した。そして、その根幹的技術については“特許出願済”とのことである。

「何をやっているかが他社にバレるので、普通はレースでは特許出願はしませんよね。でも、ホンダが進む新しい未来のためにレースを実証実験の場としても使ってきた、ということです」と、その意義を語る浅木氏からは、競技する技術者としてだけではない、純・技術者としての思いや誇りが感じられる。

最終年、「なんとか頑張ってチャンピオンを獲れたら」

ホンダのF1参戦終了は、カーボンニュートラルへの傾注が主な理由とされる。F1参戦の大きな目的のひとつが人材育成であったことももちろんであり、F1で鍛えられた技術者たちも環境技術方面等へと散っていくことが予想されるわけだが、浅木氏は彼らへの思いをこう語る。

「(第4期当初の苦境を脱し、チャンピオンを争って)真っ当に戦えるようになり、技術者たちの気持ちも変わってきていると思います。でも、それが本当の意味で実感できる(役に立つ)のは、彼らが今後なにかしらのリーダーになって、困難に立ち向かうときでしょう」。そこにホンダF1のDNAが生き続けることになる。

そして浅木氏は、残りわずかな“F1実戦参戦期間”に向けてこう語った。

「残り数戦、なんとか頑張ってチャンピオンを獲れたらと思っています。ご声援、よろしくお願いします」

最近の対メルセデスの戦況については、「負けていないストレートと、負けている全開区間があり、不可解なんです」と浅木氏は話す。「(ステアリングの)舵角が入った全開区間になると負けている、というのが自身の仮説」とも。そのあたり、終盤戦のキーポイントとなってくる要素かもしれない。

来季以降は「Red Bull Powertrains」がホンダからPUを“引き継ぐ”格好になり、そのPUをレッドブルとアルファタウリが使うが、これに対してホンダが初年度の来季2022年は当初想定よりも広い幅で技術支援すること等が先日公表された。

今、浅木氏らPU開発陣は例年のシーズン終盤とほぼ変わらない過程を進んでいるそうだ。来年用の準備をしつつ、今年最後の戦いに臨む、というようなかたち。それら諸状況を鑑みると、今季限りでの参戦終了という色は薄まってもいる(再来年の2023年にグッと「ホンダいない感」が増しそうな流れか!? なお、PUの開発は2022年になると規則で凍結される予定)。

とはいえ、ホンダの名がドライバーズチャンピオン輩出とコンストラクターズチャンピオン獲得のエンジン/PU供給者として刻まれる機会は今季が最後になる。終盤戦、メルセデスとの激闘を制することができるのかどうかは、全世界から大きな注目が集まるところだ。最終戦までもつれていく可能性もありそうなだけに、とにかく一戦一戦、目が離せない。

ホンダの“ラスト6番勝負”の緒戦となる今季第17戦、アメリカGPはテキサス州オースティンで現地10月22~24日に開催される。

(*アメリカGPではレッドブル・ホンダとアルファタウリ・ホンダが、北米等でホンダが展開しているブランド「ACURA」のロゴを使用して戦う。F1でのACURAの“登場”は2007年カナダGP以来とのこと)

《遠藤俊幸》

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