最近のクルマはなぜステアリングが太いのか?

最近のクルマはなぜステアリングが太いのか?
最近のクルマはなぜステアリングが太いのか?全 4 枚

近頃、ニューモデルに試乗してステアリングの太さに驚く人も少なくないだろう。まだパワーステアリングが贅沢装備だった昭和の高級車とか、握りの細い真円のグリップで大径の樹脂ステアリングを片手かつ手のひら回転で回していたような、ドライバーには尚更だろう。

ステアリングが太くなった理由は主に2つ、フィールの嗜好の変化と進化、そして装備・人間工学の進歩だ。

今日、とくに高級車の概念自体がすっかり変わり、ステアリングは瀟洒でも真円でも大径でもなくなった。アジリティ重視で切り始めの応答性やゲインのつき方が適度に求められるというか、もっといえばグイっと曲がり始めるゴーカート・フィーリング気味の方が、分かりやすく好まれる。

ステアリングの握り径、つまりリムの断面自体が太い方が、指から手のひらにかけてギュッと握りしめなくても、手を添えるだけでコンタクト面積が稼ぎやすい。いわゆる「手を添えただけで吸いつくような感触」という訳だが、ドライバーの方から握り込まなくても、微細な感触が伝わりやすく、操舵フィールがステアリングを通じて文字通り掴みやすくなる、と考えられているのだ。メルセデスベンツEクラス、ラグジュアリーステアリングメルセデスベンツEクラス、ラグジュアリーステアリング

近頃ではステアリング径が小さいD型であるのみならず、リム断面が前後の奥行をもって平たく楕円型の変形になっているパターンも多い。時には、手が小さいとか指が短い人には太過ぎるであろうステアリングもないことはない。メルセデス・ベンツのEクラスのように、太く平べったい握りでD型小径のスーパースポーツステアリングと、クラシカルな3本スポークで真円径のラグジュリーステアリングを、スポーティ・グレードかエレガントなそれかで、使い分けていることもある。要は単一のステアリング形状では、すべてのドライバーを満足させられないことを示す好例だ。

ステアリング・リムを正しく握れて、送る・引くの動作が正しくできればドライバー側に問題はないはずだが、初期アジリティ強めのステアリングフィールは、パワステの補助量が十分に確保できていることが前提でもある。ただテコのレバレッジが小さいはずの小径ステアリングでも、苦もなく回せるようアシスト量過多だと、操舵フィールがフワついて薄くなる。逆に少な過ぎても、操舵中にずっと引き摺りや引っかかり抵抗が残って気持ち悪い。アシスト量が速度感応バリアブルで変化するのなら、基本、低速では軽く高速では締まる方向性だが、ドライブモードでノーマル/スポーツ/エコといった切替にも応じてパラメーターを変えなければならないので、なかなか好みのセッティングは見つけづらい。元より足まわりやタイヤとの相性も大いにある。

もうひとつ、装備面の進歩を受けてステアリングが太くなっている理由は、ステアリングヒーターやアダプティブクルーズコントロールの影響だ。電熱線はグリップのレザー表面に浮き出ないように配されるのは当然だが、埋め込まれるために基材自体が分厚くなっているし、アダプティブクルーズコントロール使用時に長時間の手放しを警告するため静電気センサーなど、ステアリングリム内に備えるべきものは増え続けている。しかもステアリング・スポーク部には、ADAS関連やインフォテイメントのスイッチがところ狭しと配され、情報量が増える一方のメーターパネル内を、万難を排して視認するには、スポーク位置を下げるか、プジョーのiコクピットのようにリムの上から覗く、そんな人間工学上の工夫が要る。プジョーのiコックピット

するとスイッチ類のマスがスポークに盛り沢山で載っている以上、少ない舵角でなるべく上半分だけ触っていれば曲がれるよう、操舵アジリティを増す方向は、正論という方向にもなる。ロックtoロックのカウンターステア操作が目にもとまらぬステアリングさばきとともに必要になる、そんなテールハッピーなシャシーはそもそも、今の新車にはありえない。

むしろレベル2+が当たり前になりつつある昨今のニューモデルを見ていると、静電気センサーとのタッチを切らさずにパームレスト気味に手を置けるスペースが、9時15分位置近くに何となく見てとれる。加えてレベル4以上が前提のプロトタイプやデザイン・スタディなどでは、ステアリングはポストごと格納されてしまったりする。もし近い将来、自動運転とかホップオン・ホップオフの使い勝手が実現したら、当たり前だが、ステアリングはその役目すら終えてしまうのだ。

《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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