「原付2種」は最強のシティコミューターなのか? 主要3メーカーのスクーターを乗り比べ

スズキ アドレス110もシティコミューターとして、ひとつの最適解

HY戦争の残り香を感じつつも、足着き性はヤマハ NMAXに軍配

気になるシート下収納はホンダ PCXが最も大きい

シティユースではアドレス110のコストパフォーマンスと機敏さは無視できない

最強のシティコミューター原付二種!主要3メーカーのスクーターを乗り比べ
最強のシティコミューター原付二種!主要3メーカーのスクーターを乗り比べ全 53 枚

原付2種と呼ばれる50cc超~125cc以下のバイクが人気だ。

維持費が安く、原付1種(50cc以下)ほどの制約がなく、利便性に優れる点にメリットがある。小さなスーパースポーツもあれば、ダートで遊べるオフロードモデルやデュアルパーパスモデルもあり、国内メーカーのみならず輸入車のバリエーションもかなりの数にのぼる。その幅は意外なほど広いのだ。

もっとも、主力はやはりスクーターを筆頭とするコミューターだろう。日本はもちろん、アジアやインド、ヨーロッパでも交通手段として欠かせず、熾烈なシェア争いを展開。コロナ禍の中、密を避けられる自分専用空間としても注目されている。

アドレス110もシティコミューターとして、ひとつの最適解

最強のシティコミューター原付二種!主要3メーカーのスクーターを乗り比べ最強のシティコミューター原付二種!主要3メーカーのスクーターを乗り比べ
というわけで、今回国内3メーカーがラインナップする原付2種の主力モデルを揃えて比較試乗してみた。ホンダ『PCX』、ヤマハ『NMAX』、スズキ『アドレス110』(以下、アドレス)の3台である。

排気量や装備にちょっと詳しい人は、アドレスにかませ犬感を覚えるかもしれない。なぜなら、PCXとNMAXの排気量が124ccなのに対し、アドレス110は112ccだからだ。明確に格下であり、実際、価格も13万円以上安い。

撮影のためにファインダーを覗いていたカメラマンが、「普通にスクーターですね」とアドレス110のことを評した。確かにその通り。質感を高めたり、快適性を引き上げるための努力は必要最小限に留められ、移動のツールに徹しているからだ。

スズキ「アドレス110」スズキ「アドレス110」
とはいえ、これはシティコミューターの在り方として、ひとつの最適解だと思う。それゆえ、バイヤーズガイド的な結論としては、アドレスをお勧めしたい。PCXやNMAXの横に並べるのならスズキに『スウッシュ』というモデルがあったものの、先頃生産を中止。今は排ガス規制やABSに対応したモデルが登場するまでの空白期間なのだろう。その意味では、アドレスは本来サブキャラだったにもかかわらず、予想外の存在感を発揮した格好だ。

HY戦争の残り香を感じつつも、足着き性はNMAXに軍配

ヤマハ「NMAX」ヤマハ「NMAX」
ではまず運転環境から見ていこう。ホンダとヤマハの真っ向勝負というか、意地の張り合いが垣間見えるのがココだ。露骨なのがシート高で、765mmのNMAXに対し、PCXは764mmを公称。限りなく誤差のレベルながら、ホンダがマウントを取った恰好だ。0.1psでも多く、1km/hでも速く……と激烈なスペック争いが繰り広げられた、通称HY戦争から40年余り。その残り香をまったく違うカタチで見つけることができて、なんだか微笑ましい。

ところが、現実の足着き性はNMAXに軍配が上がる。シート前端が絞り込まれているためPCXより踏ん張りやすく、足の出し入れもスムーズだ。ハンドルに関しても、PCXはバーエンド部分がかなり張り出し、狭いところではやや気になる場面があった(すり抜けを推奨するものではない)。

スズキ「アドレス110」スズキ「アドレス110」
一方、シート高755mmのアドレスは圧倒的に低いだけでなく、スリムさが際立つ。足着きは断トツに優れ、今回唯一のフラットフロア構造(=股の間になにもない)も乗り降りのしやすさに貢献。ちょっとした荷物を載せる時にも干渉するものがなく、便利だ(法規上、荷物は単に置くのではなく、固定されていなければならない)。また、ハンドル幅は他の2台と比較して50mm前後狭く、30kg以上軽い車重(アドレス:100kg/PCX:132kg/NMAX:131kg)もメリットこそあれ、デメリットはなにもない。

意外だったのは、ハンドリングだ。アドレスのホイールは細く、装着タイヤもコストとライフを重視した特別なものではないが、グリップ力や接地感が最も分かりやすかったのだ。見た目はいかにも頼りなく、凸凹の影響も強く受けそうな雰囲気ながら問題なくラインをトレース。乗り心地やバンク角が深まった時の安心感は、PCXとNMAXに軍配が上がるものの、街中では気にならない。

スズキ「アドレス110」スズキ「アドレス110」
ただし、アドレスには決定的なマイナスポイントがあり、それがABS非装着というところだ。PCXはフロントに、NMAXはフロントとリヤの両方にABSが備わり、作動音やキックバックこそ盛大ながら、有るのと無いのとでは大いに違う。しかも、いずれのモデルにもトラクションコントロールが標準装備され、ライダーのスキルをフォローしてくれているのだ。車体価格の差がモロに出ている部分であり、これを受け入れるかどうかで選択は変わるだろう。

気になるシート下収納はPCXが最も大きい

ホンダ「PCX」ホンダ「PCX」
収納力はどうか。スクーターの利便性を大きく左右する部分だけに、気になるユーザーも多いに違いない。

シート下の収納スペースは、PCXが30リットル、NMAXが23リットル、アドレスが20.6リットルというもので、数値の通り、ここはPCXの圧勝だ。開口部も大きく開き、最大積載量も10kgと余裕がある一方、NMAXは5kgと少なめ。開口部も狭く、ヒンジ部分の剛性不足が気になった。

アドレスが不利なのを分かっているスズキは、現在「トップケースセット購入キャンペーン」を実施。新車購入者には、30リットル分の容量を持つトップケースとアダプタープレートの割引クーポンがプレゼントされるという企画で、アフターサービスを通してウィークポイントをカバーしている。

では、NMAXが抜きん出ている機能は特にないのかと言えば、そんなことはない。専用のアプリによってスマホと連動する「Yamaha Motorcycle Connect」がそれだ。これによって電話の着信やその履歴、SNSの通知、最終駐車位置などが確認できる他、バッテリー残量やエンジン回転数、スロットル開度といった情報を知ることもできる。

ヤマハ「NMAX」ヤマハ「NMAX」
そこまで用意しておいて、電源ソケットがシガータイプなのがややクラシックではあるが(PCXはUSBタイプCだ)、塗装やカウルの質感は最も高い。メッキやイルミネーションを多用したPCXはよく言えば若者向け、悪く言えばチャラく、このあたりはユーザーの世代によって好みが別れるだろう。

その点、アドレスには端っから色気はないのだが、車体色には最多の6色を設定。キャンディオレンジやゴールドメタリックといったきらびやかなカラーを選択することも可能だ。

シティユースではアドレス110のコストパフォーマンスと機敏さは無視できない

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以上、気になる部分をいくつかピックアップして比較してきたがいかがだろう? 収納力ではPCX、先進性と安全性(前後ABSなど)ではNMAX、機動力ではアドレスが優位に立つことが分かった。

125ccを超えるモデルなら巡行性能や快適性、安定性も評価を大きく左右するが、125cc以下のモデルの場合は短距離の移動がメインになるはずだ。それを踏まえると、やはりアドレスのコストパフォーマンスと機敏さは無視できない。今回、ワンランク上のモデルと同じシチュエーションで試乗することになったのは偶然ながら、排気量やパワーがまったく不利に働かなかった。4輪と同様、庶民の味方というスズキのイメージは原付2種でも健在である。

最強のシティコミューター原付二種!主要3メーカーのスクーターを乗り比べ最強のシティコミューター原付二種!主要3メーカーのスクーターを乗り比べ

■5つ星評価
・ホンダ PCX
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
コンフォート:★★★★
足着き:★★★
オススメ度:★★★★

・ヤマハ NMAX
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
コンフォート:★★★★
足着き:★★★★
オススメ度:★★★★

・スズキ アドレス110
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
コンフォート:★★★★
足着き:★★★★★
オススメ度:★★★★★

伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

《伊丹孝裕》

モーターサイクルジャーナリスト 伊丹孝裕

モーターサイクルジャーナリスト 1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

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