EVになっても各社・各車の個性は顕在…JAIA輸入電動車試乗会

JAIA輸入電動車試乗会
JAIA輸入電動車試乗会全 23 枚

日本自動車輸入組合(JAIA)が11月25日、国内で手に入る主な電動車の試乗会を開催した。参加したメーカー・ブランドは合計10社。試乗車両は21台(展示のみ1台)。国内メディアや関係者にEVを身近に感じてもらうために用意された。

◆輸入車10社・22台のEV・PHEV・HEV

EUなどでは新車販売の数字や構成比にもEVの存在感が上がってきている。国内でもリーフやテスラ以外のEVを街中で見かけるようになってきた。気がつけば主要輸入車ブランドは何らかのEVを持っており、国内でも販売が開始されている。今回の試乗会でも展示車両22台中、14台がEV。6台がPHEV。2台がHEV。EVだけでも選択肢が広がりつつあることがわかる。

JAIA輸入電動車試乗会:ポルシェ・タイカンJAIA輸入電動車試乗会:ポルシェ・タイカン

◆タイカンとRS e-tron GTはどこが違う?

全てのモデルに試乗できたわけではないが、EVを中心に各車の違いを比べてみた。一般的には内燃機関エンジンよりシンプルはEVは、走行性能やフィーリングで差別化しにくいと言われている。一部は事実だが、自動車の構造はEVといえどもそれほど単純ではない。

技術的にみても、インバーター回路による出力制御だけでもトルクカーブのチューニング幅は広い。2モーターで前後輪のトルク配分制御と電動ブレーキの4輪個別制御を加えれば、悪路・雪道・低ミューでの走破性、安定性は機械式制御4WDの比ではない。

今回の試乗は都内で行われたので、ワインディングやウェット路面でのテストはできないが、複数台の比較試乗をすると各車の個性がよくわかる。

JAIA輸入電動車試乗会:アウディRS e-tron GTJAIA輸入電動車試乗会:アウディRS e-tron GT

たとえば、ポルシェ『タイカン』とアウディ『RS e-tron GT』は同じプラットフォームを使用しているが、EVらしい加速や回生ブレーキの特性を持っているのはタイカンのほうだ。e-tron GTは、トルク感のある加速はあるもののマイルドな感じだ。エンジン車から乗り換えで違和感がないのはアウディのほうだろう。ポルシェはEVでもポルシェであり、アウディの走行安定性はEVでもなんら変わるところはない。

ブレーキも、アクセルオフで回生が働いているのを意識できるのはタイカンだ。タイカンのブレーキは適度に重さがありスポーツカーらしいパッドのフィーリングだが、かなりの領域を回生ブレーキで制御しているという。e-tron GTはブレーキでしっかり減速させる必要があるが、その分ドライバーは運転のイニシアティブを取っている感覚が強くなる。

JAIA輸入電動車試乗会:ジャガー I-PACEJAIA輸入電動車試乗会:ジャガー I-PACE

◆盛り上がるSUV EV市場

試乗した中で、もっとも上級な走りを楽しむならジャガー『I-PACE』だろう。CASE車両にありがちな細かいモード設定は(可能だが)必要なく、運転と移動をじっくり楽しめるEVだ。時代の要求でEVを設定したが、設計はジャガーのオーナーが認めるものでなければならないという想いが伝わるクルマだ。

SUVではボルボ『XC60』とメルセデスベンツ『EQA250』に試乗した。XC60はプラグインハイブリッドだが、エンジン始動以外モーターモードで走行していた。XC60のハイブリッドは前輪をエンジンが担当し後輪をモーターが担当する。モーター走行時は後輪駆動ということになる。エンジン走行は必要に応じて自動的に切り替えてくれるが、「バッテリーを減らさないようにエンジンを使う」「強制的に充電を行う」といった設定も可能だ。

JAIA輸入電動車試乗会:メルセデスベンツEQA250(向かって左)とメルセデスベンツEQC400 4MATICJAIA輸入電動車試乗会:メルセデスベンツEQA250(向かって左)とメルセデスベンツEQC400 4MATIC

EQAは、EVらしさとエンジン車らしさのバランスの良さを感じた。欧州車のEVは全体としてEV性能より、エンジン車との違和感のなさを優先する傾向がある。ロイヤリティの高い既存オーナーにも受け入れやすくする配慮だ。だが、半面EVを楽しみたいという層には物足りなさを感じることがある。EQAはモータートルクをうまく生かし、重さを感じさせないストレスフリーな走りを提供してくれる。ワンペダルもEVらしい設定が可能で、パドルによる切り替えも可能だ。EVに慣れたドライバーにとって運転しやすいクルマといえる。

EQAでは「MBUX II」も少しだけ試すことができた。音声認識の精度と使い勝手は「MBUX」の最初のバージョンよりかなり進歩していた。運転しながら、声だけでナビ設定、エアコンやシートヒーターなどのON/OFFも可能だ。XC60にもGoogle Assistant機能が搭載されており同様な音声操作は可能だ。ただし、日本語対応は22年1月からだそうだ。現状でも日本の地名・施設名称などは普通に発話して認識される(Googleなので当然だが)。

JAIA輸入電動車試乗会:プジョー e-2008 GTJAIA輸入電動車試乗会:プジョー e-2008 GT

◆BCセグメントは次の激戦区

コンパクトサイズ。Bセグメントではプジョー『e-2008』と『DS 3』に試乗した。EV市場は日本国内でも日産『リーフ』、『アリア』、『ホンダe』、マツダ『MX-30』、トヨタ『bZ4X』/スバル『ソルテラ』、さらに日産の軽EVと盛り上がってきている。プレミアムカーやSUVだけでなく、B・Cセグメントの選択肢となるクルマだ。

このクラスは価格帯の問題もあり、正直なところEVプラットフォームやインバーター・ECUの設定で個性をだしにくい面もある。e-2008とDS 3はともにステランティスグループとしてCMPというプラットフォームを共有している。EVとしての味付けはそれほど大きくなく、DS 3のほうが若干、電費重視な加速・減速セッティングだった。どちらもフランス車のやわらかいが安定感のある動きをしてくれる。運転していて感じる違いは、おもに足回りとボディ形状によるものだ。

e-2008は、『e-208』ほどではないがワインディングではけっこうよい動きをしてくれそうだった。DS 3は後席やユーティリティなど使い勝手を重視したい人向けだ。このクラスは走行フィーリングだけでなく、後席の広さ、クリアランス、荷室の広さ、乗車定員、ランニングコストなど、総合的なパッケージが差別化要素となる。今後はEVでも激戦になる可能性が高いセグメントである。

JAIA輸入電動車試乗会:テスラ・モデル3パフォーマンスJAIA輸入電動車試乗会:テスラ・モデル3パフォーマンス

◆リファレンスEVとしてのテスラ

今回試乗した中で、もっともEVらしいEVはやはりテスラ『モデル3』だろう。EV専業メーカーなので当然といえば当然なのだが、セダンだろうが街中だろうがエンジン車ユーザーに忖度のない加速とワンペダルによる減速は、テスラオーナーが他のEVでは満足しない理由がよくわかる。

マーケティング業界では「モノからコトへ」といった言説が語られたりする。テスラは、EVによって運転という体験に新しい価値を導入することに成功した。

JAIA輸入電動車試乗会:テスラ・モデル3パフォーマンスJAIA輸入電動車試乗会:テスラ・モデル3パフォーマンス

ボタンやレバーが最小限のコックピットも、しがらみがなければここまでシンプルにできるということを具現している。物理的なレバーやボタンが必要なのは、運転中に手探りで操作しなければならないからだ。タッチパネルはこの点、最悪のユーザーインターフェイスと言っていいが、テスラは逆に運転中の操作が必要なければ(フルオートか音声操作)、止まっているときにタッチパネルで設定しておけばいいという発想だ。

センターコンソールの大画面は、ゲームやエンターテインメントという移動していないときの体験を提供している。OTAによるアップデートも新しいユーザー体験のひとつだ。試乗するたびに、オートパイロット(またはFSD)が認識・表示する対象が増えている。乗用車、トラック、バイクの識別はもちろん、工事中のパイロン、歩行者(一人ずつ認識)、散歩中の犬も識別するようになった。

リーフは量産市販EVのパイオニアとして、車両パッケージング(充電時間、航続距離、実用性)のリファレンスモデルだとすれば、テスラはビジネスモデルを含むEVエコシステムのリファレンスモデルを作ったと言えるだろう。

JAIA輸入電動車試乗会JAIA輸入電動車試乗会

◆輸入車EVという選択肢

電動化については、エネルギー事情や政策の違いがある。国やリージョンごとにマイルストーンが設定されるのは避けられない。ゴールまでの道順と時間はまちまちだが、脱炭素に向けたロードマップは欧米中日でほぼ一致している。

電動化をCASEやDXといった産業構造やビジネスプロセスの変化の一部として捉えるなら、環境やエコとは切り離しても改革は進むものと思われる。EV、自動運転、コネクテッドなど起きてしまった技術革新は誰も止めることはできない。

そう考えると、グローバルで展開する輸入車メーカーのラインナップにEV、PHEVはもっと増えてくる。ユーザーにとっても選択肢が広がるのは歓迎だ。

試乗・展示車両

アウディRS e-tron GT(EV)
アウディe-tronスポーツバック・クワトロ 1st Edition(EV)
BMW iXDrive50(EV)11月導入予定
BMW iX3(EV)11月導入予定
BMW 745e Luxury(PHEV)
MINI クーパーS E Crossover ALL4(PHEV)
ジープ・レネゲード・トレイルホーク4xe(PHEV)
ジャガー I-PACE(EV)
メルセデスベンツEQA 250(EV)
メルセデスベンツEQC 400 4MATIC(EV)
メルセデスベンツA250e セダン(PHEV)
プジョー e-2008 GT(EV)
DS 3クロスバックE-TENSE(EV)
ポルシェ・タイカン(EV)
ポルシェ・タイカン4クロスツーリスモ(EV)
ポルシェ・カイエン E-Hybrid クーペ(PHEV)
テスラ・モデル3パフォーマンス(EV)×2台
VWゴルフeTSI Style(HEV)
VWゴルフ・バリアントeTSI Active(HEV)
ボルボXC60リチャージPlug-in hybrid T8 AWD Inscription(PHEV)
ボルボXC40リチャージTwin(EV)※

JAIA輸入電動車試乗会:ボルボXC40リチャージTwinJAIA輸入電動車試乗会:ボルボXC40リチャージTwin

※ボルボXC40リチャージは、日本国内未販売の左ハンドル車両でまだ日本に1台しか入っていない。ナンバーもついておらず展示のみだった。

《中尾真二》

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

教えて!はじめてEV

アクセスランキング

  1. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  2. 最後のフォードエンジン搭載ケータハム、「セブン 310アンコール」発表
  3. 船上で水素を製造できる「エナジー・オブザーバー」が9年間の航海へ
  4. 高機能ヘルメットスタンド、梅雨・湿気から解放する乾燥ファン搭載でMakuake登場
  5. 「三菱っぽくないけどカッコいい」ルノーの兄弟車となる『エクリプス クロス』次期型デザインに反響
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 米国EV市場の課題と消費者意識、充電インフラが最大の懸念…J.D.パワー調査
  2. 低速の自動運転遠隔サポートシステム、日本主導で国際規格が世界初制定
  3. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  4. BYD、認定中古車にも「10年30万km」バッテリーSoH保証適用
  5. 「あれはなんだ?」BYDが“軽EV”を作る気になった会長の一言
ランキングをもっと見る