ACSL、ドローン『SOTEN』発表…国産パーツを優先採用した理由

「SOTEN」を手にするACSLの鷲谷聡之社長
「SOTEN」を手にするACSLの鷲谷聡之社長全 10 枚

産業用ドローンを手掛けるACSLは12月7日、小型空撮ドローン「SOTEN(蒼天)」を開発し、オプション品を含めた受注を開始したと発表した。同社はこのドローンを高いセキュリティ性を備えたことを最大のポイントとし、「安全安心なドローン」の利用促進に役立てる。

◆無限大に広がる空を自在に飛行する姿をイメージした『SOTEN』

現在、産業用ドローンは様々な社会問題解決を目指すロボティクス技術の一つとして注目されており、インフラ点検や災害時の現場確認や探索、さらには物流や農業分野などでの用途での利用拡大が期待されている。そんな中で新たに発表されたACSLのドローン「SOTEN」は、セキュリティレベルを高めたことで新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が推進する「安全安心なドローン基盤技術開発」事業に採択され完成に至ったものとなる。

日本政府はドローンの調達について「セキュリティが担保された」ものに限定し、「既存導入されているドローンについても速やかな置き換え」を実施することを公表している。その意味でもACSLは「高いセキュリティを実現したドローンへの需要は高まってきている」とする。こうした背景の下で開発されたドローン「SOTEN」は、漏洩や抜き取り防止、機体の乗っ取りへの耐性を高めつつ、日本のモノづくりを守り、ゆくゆくは空の産業革命に寄与していくことを目指す。

ACSLの鷲谷聡之社長は、「SOTEN(蒼天)という名前は雲外蒼天という四字熟語から取ったもので、空(天)という無限大の可能性持つ空間を、自在に飛行する姿をイメージして名付けられた」と話す。その上で「現場の技術をしっかり守ることで、日本のものづくりを守りたいと強く思っている」と述べ、「日本そして世界のドローン産業を牽引する存在になりたいと想いを込めている」とした。

「SOTEN」は、NEDOが進める「安心安全なドローン基盤技術開発事業」において、ヤマハ発動機、NTTドコモ、Xacti(ザクティ)、先端力学シミュレーション研究所などが協業して開発された。使用したパーツもできるだけ国内メーカーのものを優先採用し、日本が打ち上げたみちびき衛星も位置情報の取得に活用。2022年には義務化が決定しているリモートIDについても、先んじて標準として実装している。その意味で「SOTEN」は、“All Japan”体制の下、日本ならではの英知を結集した機体になっていると言っていいだろう。

「SOTEN」本体と、専用で用意された周辺機器「SOTEN」本体と、専用で用意された周辺機器

◆乗っ取り、なりすまし対策としてセキュリティレベルを高度化

セキュアな国産ドローンで“技術を守る”」という観点では、ドローンはインターネットに接続されるIoT機器の一つであり、取得データの安全な管理や、乗っ取り、なりすましへの対応は欠かせない。機体の主要部品には国産品を優先して採用したのもこのセキュリティレベルを向上させるためだ。通信・撮影データについても暗号化、国内クラウドでの取得データの保護などのセキュリティ強化を図り、ここはNTTドコモが担当する。

カメラにも工夫を凝らした。「ワンタッチで切り替えできるカメラ」を採用し、これは小型空撮ドローンでは初となる。幅広いカメラの選択肢を提供することが可能で、カメラは標準カメラの他、赤外線カメラ+可視カメラ、マルチスペクトルカメラが選べ、開発中の光学ズームカメラも今後ラインナップに加わる予定だ。このカメラは日本アジアグループのザクティが担当する。

実現場で求められる飛行性能を持つ機体とした」ことも大きな特徴だ。最大対気速度 を15m/s とし、強風下などの厳しい災害現場でも安全に使用することができるという。また、準天頂衛星システムみちびきのサブメータ級測位補強サービス「SLAS/SBAS」を採用することで、高精度な位置情報を把握しての飛行を可能とした。これは今後、法改正で許可される目視外飛行でより安全に離着陸の実現につながる技術としている。

さらに山間地やプラント内等の遠隔地等で、自動飛行による補助者なし目視外飛行(Level3)が実現できるよう「閉域網 LTE 通信やオフライン対応地図など幅広い拡張性」にも対応した。また、ネット回線が使えなくてもオフライン地図による自動飛行も可能だ。また、機体上部にはインフラ設備を下から撮影できるカメラ用マウントも開発している。

ACSLの産業用ドローン「SOTEN」。屋外なら衛星測位により正確な離着陸が可能となるACSLの産業用ドローン「SOTEN」。屋外なら衛星測位により正確な離着陸が可能となる

◆「毎年数千台のオーダーを狙う。価格は中国製より少し高いぐらい」(鷲谷社長)

発表会後に行われた会見でACSLの鷲谷聡之社長は記者の質問に以下のように回答した。

---:続く第2、第3のドローンの開発について

「“安全安心なドローン”の基盤技術はこの機体以外に展開することもベースにあり、すでにもう少し大型の機体開発にも着手済みだ。今後(製品開発が落ち着けば)民生用の開発も考慮に入れる可能性はあるが、まずはミッションとして社会インフラを重視する活用を前提としていく」

---:昨今の半導体不足の影響は受けていないか?

「価格の高騰やリードタイムが必要になるなど影響がゼロということはないが、リリースする前から発生していることでもあり、それを見通した体制を整えている。ただ、今後の状況次第で影響が一定程度出る可能性はある」

---:既に決まっている納入先はあるのか。あるいは狙っていきたい分野は?

「ファーストロットは数百台後半で計画し、インフラ点検や防災用途などで先行受注もいただいている。開発中のズーム付きカメラもあるので、離れた場所から設備を点検をしなければならない送電線/橋梁の点検などで、あるいはマルチスペクトルカメラを活用して空からの生育状況を確認する分野での用途も狙っている」

---:今後の生産計画については?

「目指している世界観は決して1000台といったレベルではなく、毎年数千台のオーダーが入ってくることを目指す。それを実現するためには日本市場を優先しつつも、インドにジョイントベンチャーを立ち上げているので規制当局を話し合いながら、しっかり“面”を取って対応していきたい。また、日本の政府調達にも応じたい」

なお、「蒼天」の本体サイズはアーム展開時637×560mm、アーム収納時162×363mm。重量は1.7kg(標準カメラ・バッテリー含む)。最大飛行時間は標準バッテリーで22分(標準カメラ搭載時、風速8m/s条件下)。最大伝送距離は4km(障害物や電波干渉がない場合)。価格はオープンで、ACSLの鷲谷聡之社長によれば「システムで納入されるので個別で設定されるが、中国製をベンチマークとした上でその同クラスよりやや高いぐらい」と話した。

《会田肇》

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