スバル STI E-RAのデザインは、空力と低重心感…東京オートサロン2022[インタビュー]

STI E-RAコンセプト(東京オートサロン2022)
STI E-RAコンセプト(東京オートサロン2022)全 11 枚

SUBARUのモータースポーツ統括会社であるスバルテクニカインターナショナル(以下STI)は、2022年に国内サーキットを含む走行実験を重ねたのち、2023年以降にニュルブルクリンクサーキットでのタイムアタックでラップタイム400秒に挑戦する。そのマシン、『STI E-RA コンセプト』を東京オートサロン2022にて公開。明らかに空力を意識したデザインについて、話を聞いた。

SUBARU商品企画本部デザイン部次長の河内敦さんSUBARU商品企画本部デザイン部次長の河内敦さん

◆レギュレーションがないぶん空力を徹底的に

----:ニュルブルクリンク400秒というワクワクする目標を掲げたSTI E-RA コンセプトですが、このモデルのデザインを担当するにあたってどんなお気持ちですか。

SUBARU商品企画本部デザイン部次長の河内敦さん(以下敬称略):ワクワク、ワクワクですね(笑)。

----:確かにそんなお気持ちになるのはわかります。ただ、色々な制限や制約、そしてオーダーがあったのではないかと想像しますがいかがですか。

河内:実は私、『BRZ』のデザインをやっていまして、そのままGT300のレース用BRZもやっていたんです。STI E-RA コンセプトのベースはGT300のレイアウトを使うという話だったので、ある程度分かっている部分はありました。

ただし、SUPER GTのようなレギュレーションはありませんから好き勝手に出来るか、というとそうでもなく、とにかくタイムアタックということで、もっと空力を突き詰めて考えていかなければとは思いましたね。

----:ということは、GT300の知見が相当役立ったという感じですね。

河内:そうですね。その知見も入れつつ、GT300でやれないこともやれますから。例えば、GT300はキャビンのドアは量産車と同じものなのですけど、そこは少し凹んだ形状なんです。そうすると空気の流れが悪くなってしまっていましたので、まず側面を全部、タイヤとタイヤの間は繋いでしまって、フラットにして空気の流れを良くしました。これは最初にGTと違ってやれたことですね。

STI E-RAコンセプト(東京オートサロン2022)STI E-RAコンセプト(東京オートサロン2022)

あとはフロントフードもEVですからエンジンがありませんので、可能な限り低く出来ます。そういうところはGTだと難しいですよね。このように色々やりながら、こうしたらもっと(空力が)良くなるんじゃないかと進めていきました。

----:そうすると一番のこだわり空力ですか。

河内:そうです。空力のこだわりといえばもうひとつ、胴内、中の空気をどう抜くかというところは結構苦労しています。実はこのEVには、インバータを増やすために水冷ラジエターが付いています。それから前後それぞれのモーターを冷やすために同じく前後にオイルクーラーがついています。そのあたりに入った空気をどう抜くかも考えないといけません。あとは300km/hを超えますので、浮き上がっちゃったりするんですよ。そういう関係で空気を流すために、例えばホイールハウスの上のところなどに穴を開けたりしています。そういうところもGTと違うところですね。

STI E-RAコンセプト(東京オートサロン2022)STI E-RAコンセプト(東京オートサロン2022)

----:ルーフのインダクションポットは何のためのものですか。

河内:リアにオイルクーラーが入っていますので、それを冷やす目的です。最初はなくて、NACAインテークみたいなので入れようとしてたのですが、それだと全然空気量が足りなくて、結局このようにしました。実は位置もちょっと後ろだったのですけど、まだ空気の取り入れが足りないので前に出しています。あと穴の大きさも調整しましたね。そして入った後のオイルクーラーに行く形状も色々解析を掛けてやっています。ですからとても楽しいんですけど、色々シビアでもあります。

先程浮き上がるという話をしましたが、ニュルはくねくね曲がったりしますので、直線だけを考えて空力を作るのではなく、角度が変わった瞬間に空力性能ががらっと変わらないようにしています。例えばコーナーで斜めから風があたった時に、バランスが崩れないよう、そういう変化が少ないように考えながら作っています。

◆スバルらしさは低重心感

----:一番苦労したところはどこでしょう。

河内:やはりこのフロント周りですかね。アーチの中の空気を抜くのですが、床周りにあるバッテリーがアーチギリギリまで入っていますので、そこをよけて抜かなければいけないんです。エンジンがないぶん低く出来るというメリットはある一方、バッテリーの位置やモーターが入って来ますのでいかに冷やすかも考えなくてはなりません。

GT300と一緒で2人乗りで、BRZとほぼ同じ骨格なんですけど、バッテリーの影響で、人の座る位置はGT300のクルマと比較して少し高くなっているんです。そうするとルーフが高くなりますので空気抵抗が上がってしまいます。そこで、ガラスのラウンドを多くして、空気抵抗をさらに良くしました。本当はもっと着座位置を下げて、ルーフも下げたいんですが、安全のためにロールバーを入れているんですね。それをなんとかギリギリロールバーの通し方とか、そのロールバー部分をぎりぎり逃がして、なんとか低くする工夫もしています。

----:ではいまの状態はそのあたりを確保した上で1番低い状態ですね。

河内:そうです。そこからリアへ向かっては、なるべく下げていった方が空力にはいいので、少し後ろに伸ばしつつも下げてという形です。ですので後ろの位置とかは、GT300のBRZよりも全然低いのです。

----:まさに空力の塊ですね。

河内:そうです。リアホイールの後ろ部分も工夫があって、実はGT300でもやっている手法なのですが、あえてちょっと渦を作って、その渦によって空気の剥離を良くしています。このクルマにはありませんが、カナード(小さなフィン形状のもの)はこれによってダウンフォースを利かせるのではなく、そこで渦を作ってアーチの中の空気を引っ張り出したりする効果を持たせる、その渦を作るものなんです。

STI E-RAコンセプト(東京オートサロン2022)STI E-RAコンセプト(東京オートサロン2022)

----:いろいろお話を伺うと、空力に特化していかなければいけないということはよくわかりました。ただ、デザイナーとしてもこだわりはあると思うのですがいかがでしょう。

河内:それは低重心感です。スバルとしてエンジンはないものの、低重心感をどう表現するかということで、タイヤ以外のボディをぎゅっと1段下げることによって、地面に押さえつけてるような感じとか、低く構えるみたいなところは狙ってやっています。

◆一緒に頑張っていきたい

----:河内さんはスバルのデザイナーですが、STIがこのような挑戦をしようと聞いたときにどう思いましたか。

河内:STI自体がスバル車を使ってレースをやる部門です。そこがEVの今後の時代性を考えて、独自に動き出したというのはすごく素晴らしいことだなと思っています。

STIというブランドはレース屋さんではないんです。レース好きがやってるレース屋さんじゃなくて、クルマの良さをさらに高めるとか、さらに楽しく、さらに安全にというところを目指しているので、例えばレヴォーグが上質な走りを目指すなら、さらに上質にするのがSTIということです。

そこでは決してサーキットのタイムを詰めることを推し進めるのではなく、さらに上質に、そのクルマの性格をさらに良くするというブランドだと思っています。レヴォーグは実は奥さんの許可がないと買えないクルマなんです。一方でWRXは男性が好き勝手に乗るクルマなんですね。だから隣に乗っている奥さんも満足してもらえる質感とか乗り心地じゃないとだめなんです。だからクルマによってチューニング方法が変わって、車種ごとの方向性を明確にしてないと、単純に全部固いサスになっちゃったりしてしまうんです。

----:そのあたりは、デザイナーさんの手腕も問われますね。

河内:そうなんですよ。だから私はスバルのデザイナーですが、STIのシリーズを作るときに、クルマごとの内装の質感とかを考えて、ただ単純にスポーティとかレーシーにすればいいかではなく、素材選びなども含めて考えていきます。

実は今回自分たちの癖でエンブレムにスバルマークをつけていたんですが、STIなので、そのエンブレムになっています。STIとつけたのは初めてです。

我々は普段からSTIと色々な仕事を一緒にやっていますので、もう同じ会社のように仲良くやっています。このクルマについても我々は一緒に頑張っていきますし、協力もしていきます。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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