【VW ティグアン 4000km試乗】持て余すほどの高性能を、価値と見るか無駄と見るか[前編]

改良型ティグアン TSI R-Lineのフロントビュー。山梨西端・甲斐小泉にて。
改良型ティグアン TSI R-Lineのフロントビュー。山梨西端・甲斐小泉にて。全 30 枚

フォルクスワーゲンのクロスオーバーSUV『ティグアン』第2世代モデルの改良版が2021年5月、日本でデビューした。最大の目玉はガソリン車のパワートレインが1.4リットルターボ+6速DCTから新鋭の1.5リットルミラーサイクルターボ+7速DCTに載せ換えになったこと。

一方、これまで売れ線であったディーゼル車はカタログから落ち、AWD(4輪駆動)はシリーズ最強版の『ティグアンR』(最高出力235kW・320ps)のみとなった。日本法人によればディーゼルをディスコンさせるという方針があるわけではなく、今後ふたたび販売される可能性もあるとのこと。

そのティグアンを改良前と改良後、計4000kmほど走らせる機会があったので、インプレッションをお届けする。テストドライブ車両は改良前がターボディーゼルエンジンを搭載するAWD(4輪駆動)の装備充実グレード「TDI 4MOTION Highline(TDI 4モーション ハイライン)」でツーリングディスタンスは3518.4km。改良後がガソリンFWD(前輪駆動)のスポーティグレード「TSI R-Line(TSI Rライン)」で509.6km。

まず、テストドライブの印象を列記してみる。

■長所
1.高重心SUVにあるまじきオンロードでの敏捷性の高さ。
2.全長4.5mのショートボディながらミッドサイズに匹敵する居住区、荷室容量。
3.新世代のミラーサイクルガソリンターボは好燃費を出しやすい。
4.車両感覚がつかみやすく、車幅のわりに市街地での取り回しが楽。
5.ベースのゴルフ7に比べて乗り心地が良く、静粛性も高い。

■短所
1.高価。本国価格も非常に高く、値下げは期待できない。
2.内外装は端正にデザインされているが、質感自体は質素。
3.液晶メーターは前期型のほうが視認性が良かった。
4.走行性能は高すぎとも言える。もう少しおっとりした味付けでも良かった。
5.ロングドライブ派にとってはやはりディーゼルが欲しくなるところ。

ノンプレミアムSUV離れした素晴らしい速力の持ち主、だが

改良前ティグアン TSI 4MOTION ハイラインのフロントビュー。山口・屋代島(周防大島)にて。改良前ティグアン TSI 4MOTION ハイラインのフロントビュー。山口・屋代島(周防大島)にて。

ではインプレションに入っていこう。全長4.5m強のショートボディにミッドサイズSUV並みの居住空間と荷室を詰め込んだティグアンはボディフォルム、内外装のデザイン等々、至って地味なSUVである。見た目の雰囲気はいかにも実用一辺倒という印象で、テストドライブ前は「ドライブフィールものんびり、おっとりしたものだろうな~」などと予想していた。

ところが実際にドライブしてみると、これがなかなかどうしていい走りをしているのである。エンジンパワーはガソリン、ディーゼル両モデルとも110kW(150ps)にすぎないが、タイヤ&サスペンションは大げさな表現でなしに倍の221kW(300ps)級にも余裕で対応できるような感触だった。

ドライブ序盤、高速道路やバイパスなどを流している時は「さすが今どきのSUVはしっかり走るな」という程度の感触だったのだが、旅が進み、走る道路が多様化するにつれて印象は変化していった。

とくにFWD(前輪駆動)の場合、オフロードは得意科目ではないが、最低地上高はある程度確保されているので少々の荒れ道なら十分行ける。とくにFWD(前輪駆動)の場合、オフロードは得意科目ではないが、最低地上高はある程度確保されているので少々の荒れ道なら十分行ける。

国道2号線三原~広島区間のワインディングで「おおっこの動きはちょっとSUV離れしているんじゃないか!?」と感じ、山口の周防大島で山地の中腹を縫うように走る荒れた山岳路においては「この安定性、どんな道でもどんと来いだね」と思うようになった。最終的な印象は「名ばかりのGTが道を開けそうな速力とバンピーな路面でもトリッキーな動きをほとんど見せない安定性を、乗り心地を崩さずに実現している」だ。

自動車工学の発展により、最近はクロスオーバーSUVでも走行性能に不満を抱くようなクルマは少数で、基本的にどのクルマも十分以上に良い性能を持っている。が、ティグアンの良さは一般的なクロスオーバーSUVの良さとは次元が異なり、プレミアムセグメントの高性能SUVとほとんど変わらない。実用性の高さや使いやすいインフォティメントシステムなど美点は他にもあったのだが、4000kmドライブの中で印象に焼き付いたのは一にも二にもオンロードでの走りだった。

日本ではオーバースペックなほどの走行性能

改良型ティグアンのサイドビュー。実用性最優先のパッケージングゆえ武骨なデザインに。改良型ティグアンのサイドビュー。実用性最優先のパッケージングゆえ武骨なデザインに。

シャシー性能をここまで極端に高めたのは、おそらくヨーロッパのSUVユーザーの好みに全面的に合わせてのことだ。SUVといえば車体は重く、空気抵抗は大きく、重心も高いなど、走りやエネルギー効率の面では低車高乗用車に比べて圧倒的に不利だ。ところがヨーロッパの道を走ると実感できることだが、SUVを強引に速く走らせたいというユーザーが実に多い。

また、かの地は階級社会文化が根強く、経済力があってもプレミアムブランドを選ぶのを躊躇する層はこれまた山のようにいる。選ぶのはノンプレミアムブランドだが、日本よりはるかに高い制限速度80~100km/hの峠道をプレミアムセグメントSUVのように走りたいという特異な要求に応えるためにこのような仕様になったと推察される。

果たしてフォルクスワーゲンの作戦は大当たりし、第2世代ティグアンはヨーロッパ市場だけで年間20万台超を売るマーケットリーダーとなったが、その高性能は両刃の剣。性能のぶん、価格も日本の常識で見るとメチャクチャ高くなった。本国ではどのくらいの価格で売られているのかコンフィギュレーターで調べてみたが、R-Lineの装備を日本仕様に似せて3年保証をつける(ヨーロッパでは保証はタダではない)と、実に5万ユーロ(約650万円@1ユーロ=130円)になんなんとする。

性能やディメンションが似ているモデルにプレミアムセグメントのボルボ『XC40』があるが、現地ではXC40にスポーツ装備を盛ったもののほうがむしろ安く、同じフォルクスワーゲングループのプレミアムセグメント、アウディ『Q3 S Line』との比較ですら価格はイメージよりずっと小さかった。

速度レンジの高いヨーロッパのユーザーにとっては、ティグアンの走行性能は大金を払って手に入れるだけの価値あるものだが、高速道、一般道とも制限速度が先進国中ブッチギリに低い日本ではオーバースペックだ。もちろん高い基本性能や丁寧なシャシーチューニングは荒れ道や雨天時の安心感につながるし、ロングドライブの疲労軽減効果もバカにならないのでまるっきり無駄というわけではないが、それでも持て余すほどの性能であることに変わりはない。それにどのくらいの付加価値を見い出すかが日本においてティグアンを肯定的に見るか無駄と見るかの分水嶺と言えそうに思えた。

速いだけでなくコントローラブルでファントゥドライブ

R-Line+DCC(ダイナミックシャシーコントロール)のタイヤサイズは255R40R20。ひと昔前のスーパースポーツ並みだ。R-Line+DCC(ダイナミックシャシーコントロール)のタイヤサイズは255R40R20。ひと昔前のスーパースポーツ並みだ。

では、項目別にもう少し深堀りしてみよう。まずは走行性能についてだが、オンロードに限定すればとても速いばかりでなく、コントローラブルでファントゥドライブ。概要で述べたようにノンプレミアムのクロスオーバーSUVの域を超越しているという感があった。

良かったポイントは2点。1点目は旋回時、ロールの深さや前輪の切れ角によって前後輪のグリップバランスが大きく変わるようなことがなかったこと。ティグアンはFWD、AWDとも前ストラット、後マルチリンクサスペンションだが、前後輪ともロール時のタイヤの接地角変化を抑える設計は非常に上手く行っているようだった。また、老朽化で大きなうねりや凸凹ができているような舗装面への追従性も見事で、コーナリング中にかなり深いギャップを踏んでもグリップが失われるのはほんの一瞬、後は再び安定するという感じであった。

細いVWの新ロゴがホーンパッドに付いた改良後モデルのコクピット。細いVWの新ロゴがホーンパッドに付いた改良後モデルのコクピット。

優れていたもうひとつの要素は操舵フィール。ステアリングを中立から左右に切るとタイヤのねじれが発生するが、どのくらいのねじれが発生しているかが反力という形で的確にテアリングにフィードバックされる。またコーナリングでは前輪がタイヤの回転する方向と実際の進行方向にズレが生じる、すなわちアンダーステアが発生するが、どのくらい斜め摩擦になっているかというインフォメーションもまた、的確にステアリングに伝わってくる。

4輪が安定してグリップすることと、タイヤの能力をどれくらい使っているかをきっちり察知できる操舵フィール。このコンボがロールセンターの高いクロスオーバーSUVのティグアンがスポーツカー的なテイストを持つクルマになった源泉だろう。

テストドライブ車両が履いていたタイヤは改良前のTDI 4MOTION Highlineが235/55R18サイズのコンチネンタル「ContiSportContact 5」、改良後のTSI R-Lineが255/40R20サイズのピレッリ「SCORPION VERDE」。前者はスポーツタイヤの秀作として定評があり、後者はエコタイヤだが255mmもあればこれまたグリップ力は強固。このタイヤの能力をしっかり使い切れるのだから、遅い理由がない。

AWDが秀逸だったが高出力エンジンでしか味わえなくなった

改良前ティグアン。琵琶湖畔にて。改良前ティグアン。琵琶湖畔にて。

FWDとAWDの比較だが、筆者の感触では断然AWDが素晴らしいように思われた。コーナリングスピードは軽量ボディにワイドタイヤを履くFWDのガソリンR-Lineのほうが断然速いが、オンロードにおけるしっとりとした動きは断然AWD。コーナリング途中でスロットルオンにしたときに見せる、アンダーステアが弱まってコーナー出口に糸を引くように吸い寄せられるような挙動は本当に気持ちが良く、病みつきになりそうだった。ディーゼルモデルのディスコンによって、このAWDがシリーズ最強の235kW(320ps)エンジンを積む「R」でしか選べなくなったのは惜しい。

FWDがダメというわけではない。神奈川の相模原から山中湖に抜ける津久井道、さらに河口湖から富士山のビューポイントである御坂峠を通過して甲府盆地に下りる御坂みちと、ワインディングロードを積極的に走ってみたが、AWDのようなスロットルコントロールのゆかしさはないものの、コントローラブルであるという点は同様だった。前述のようにパワートレインが軽いのも速さの点では有利だ。

ただ、R-Lineのテストカーに装備されていた電子制御サスペンション「DCC(ダイナミックシャシーコントロール)」のセッティングはものすごい高速型で、日本の速度域には合っていない感があった。基本減衰力を「スポーツ」「ノーマル」「コンフォート」の3段階に切り替えられるようになっていたが、一番柔らかいコンフォートがすでに十分スポーティで、255mmタイヤを存分に使い切れるくらい。ノーマル、スポーティモードを積極活用するのであれば、タイヤをリプレイスするときにたとえば同じピレリなら「P-ZERO」など、さらに強大なグリップが期待できるものをチョイスしたくなるところだ。

改良型ティグアンのフェイス。ヘッドランプが細目になり、メッキモールも繊細なデザインになった。改良型ティグアンのフェイス。ヘッドランプが細目になり、メッキモールも繊細なデザインになった。

これらの性能はフォルクスワーゲンの開発陣がカテゴリートップを獲ることへの執念のたまものと言えるが、オンロードに特化したセッティングを行ったという側面もあるように思えた。両モデルともツーリング中、オフロードを見つけて短距離ながら性能をみてみたが、オンロードでの素晴らしさからの落差は結構大きい。最低地上高が180mmあるので一般の乗用車に比べれば悪路走破性は高いのだが、10cmを超える凸凹、段差に対してはサスペンションが固く、数センチピッチの舗装路での不整を吸収するときのような見事さはなかった。

少ししか試していないので確定的なことは言えないが、タイヤにトルクがかかる瞬間のスリップ具合や段差に前輪がかかったときのトラクションコントロールの作動状況からみて、フラットダートや圧雪路のようなところでは問題はなさそうな半面、荒れた林道、深雪路、泥濘路といったクロスカントリー的なコンディションではそういう道が得意なSUV、たとえばスバル『フォレスター』などに後れを取るのではないかと思われた。ティグアンがらしさを発揮できるのは断然オンロードということだ。

乗り心地、静粛性はDセグメントの『パサート』より快適

改良前モデルの前席。基本的なレイアウトはほとんど変わっていない。改良前モデルの前席。基本的なレイアウトはほとんど変わっていない。

次に快適性。ティグアンは低車高乗用車のカテゴリーに当てはめると同社の主力モデル『ゴルフ』が属するCセグメントだが、乗り心地や静粛性、防振性ではゴルフ7に対して明確なアドバンテージを有していた。ゴルフばかりでなく、以前本サイトで3800km試乗記をお届けした1クラス上のDセグメントセダン『パサート』の前期モデル、DCC未装備車との比較でも、ノーマルサスペンション、DCCともティグアンのほうが断然滑らかだった。

滑走感が素晴らしかったのはR-LineのDCC。先に固いと書いたが乗り心地は十分以上に良く、とりわけ路面のザラザラ感の遮断は秀逸の一言だった。ノーマルサスのほうはDCCに比べるとフリクション感があったが、それでも卓越した運動性能を持っていることを考慮するとかなり良い部類に属するように思えた。

乗り心地の滑らかさと並んで優秀だったのはロードノイズ、エンジンノイズなど外部騒音の遮断。とくにエンジンノイズはゴルフに比べて騒音発生源であるエンジンが遠くにあることも手伝ってか、ディーゼルでもかなり静か。ガソリンに至っては軽負荷の時にはエンジン音がほとんど聞こえないくらいだった。乗り心地、騒音遮断と並んで優れていたのは荒れた道で左右輪にバラバラに大きな入力があったときのボディのねじれ強度で、ガタつきや内装のきしみ音は実に少なかった。

ドライブする前、筆者はティグアンはゴルフ7をベースに底上げした、かつてのゴルフIIシンクロのようなクルマだと思い込んでいたのだが、こんなに乗り心地や強度が違ってくるものなのかと不思議に思ってテクニカルシートを見たところ、実はゴルフ7より世代が新しいSUV専用モジュールで作られているとのことだった。ティグアンだけでなく、他のSUVも低車高乗用車とは作り分けがなされているらしい。

ちなみにティグアンはサスペンションアームがスチールであるなどの作り分けはなされているものの、基本的にはアウディQ3と同じだ。これなら良いのも高いのも当然か。(後編に続く)

改良前ティグアン。桜島をバックに。改良前ティグアン。桜島をバックに。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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