デジタル・プロセッサーが普及したきっかけ[カーオーディオ“なぜ?”]

カロッツェリアX・RS-D7Xlll
カロッツェリアX・RS-D7Xlll全 10 枚

カーオーディオは、ある程度の専門知識を有している方がより深く楽しめる。当連載では、その1つ1つを解説している。現在は「プロセッサー」をテーマに話を進めている。今回は、「デジタル・プロセッサー」が普及した歴史を振り返ってみる。

「デジタル・プロセッサー」が普及するきっかけとなったのは、『カロッツェリアX』!

これまでは、「プロセッサー」とは何で、どのようなタイプがあるのかを解説してきた。その中で、アナログタイプとデジタルタイプとがあり、現代カーオーディオではデジタルタイプが主流であると説明した。さて、デジタルタイプのプロセッサーが主流となったのはなぜなのか…。今回は、そこのところに迫ってみたい。

ちなみに、デジタルタイプの「プロセッサー」が普及するきっかけとなったのは、1993年に初登場したカロッツェリアのハイエンドカーオーディオシリーズ、『カロッツェリアX』だ。

この『カロッツェリアX』は、至って斬新なカーオーディオシステムだった。新しさのポイントは主には2点あった。1つは「音楽信号をパワーアンプまで光デジタル伝送すること」、そしてもう1つが「デジタルチューニングが行えること」だ。つまり当シリーズは、「デジタル・プロセッサー」が搭載された本格カーオーディオフルシステムの“ハシリ”だったというわけだ。なお『カロッツェリアX』の「プロセッサー」には、デジタルだからこそ可能となったスペシャルなチューニング機能が搭載されていた。その機能の名前は、「タイムアライメント」だ。

「タイムアライメント」とは、各スピーカーから発せられる音の到達タイミングを揃えられる機能だ。車内ではリスニングポジションが左右のどちらかに片寄る。しかしステレオ再生を楽しもうとする際には、左右のスピーカーから等距離の場所に身を置く必要がある。ゆえにクルマの中ではステレオイメージをリアルに再現することが難しい。でも「タイムアライメント」を活用すると、近くにあるスピーカーの発音タイミングを遅らせられるので、すべてのスピーカーから等距離の場所にいるかのような状態を擬似的に作り出せるのだ。

かくして『カロッツェリアX』は、鳴り物入りで登場するのだが…。

『パイオニアカーサウンドコンテスト』が火付け役に!

しかしながら『カロッツェリアX』は、登場してすぐにはヒットしなかった。考えられる理由は主には2つあった。1つは「汎用性が低かったから」だ。『カロッツェリアX』は音楽信号を光デジタル伝送することも特長としていたわけだが、そのような“ピュアデジタル”システムを完成させるにはメインユニットからパワーアンプまでを『カロッツェリアX』の製品で揃える必要がある。つまり通常のアナログパワーアンプはシステムに組み込めない。

もう1つの理由は、「デジタルチューニングが毛嫌いされたから」だ。新しいものは新しいがゆえにその良さが理解されないことがあるが、『カロッツェリアX』もまさしくそのパターンにハマってしまった。

しかしながら、初登場からほどなくして通常のアナログパワーアンプもシステムに組み込めるように仕様変更が成され、1つのボトルネックは解消された。そして1997年に初開催された『パイオニアカーサウンドコンテスト』が火付け役となり、以後『カロッツェリアX』は一気にハイエンドカーオーディオ愛好家の間に広まっていく。

つまりこの頃には、デジタルチューニングとその中でも「タイムアライメント」の有効性が多くのプロや愛好家からの支持を得るようになっていた。「タイムアライメント」が画期的な機能であるという認識が広まってきた、というわけだ。

そして他社からも、「デジタル・プロセッサー」が組み込まれた機器やシステムが続々と登場し、2000年代に入った以降は、カーオーディオシステムにおいての必須アイテムとして定着していく。

2000年代半ば以降は、汎用性の高い外付け「DSP」も登場!

なお当初「DSP」は、専用モデルである場合がほとんどだった。各メーカーのメインユニットに組み込まれていたり、別体化されている場合でも同一シリーズの機器と組み合わせて使うことが前提であるモデルが多かったのだ。『カロッツェリアX』もその1つだった。しかし2000年代の後半には汎用モデルもいくつか登場する。なおそういったモデルの多くは「ハイレベルインプット」を備えていて、そのような機種はメインユニットが交換しづらい車種で使われることが多かった。「ハイレベルインプット」が備わっていれば、取り外しがしにくくかつ外部音声出力を持たない純正メインユニットとも組み合わせられるからだ。

だが、高音質を追求するハイエンド・カーオーディオ愛好家の間では、外付け「DSP」が使われることは多くはなかった。なぜなら、純正メインユニットをソースユニットとして使う形になるわけなのだが、その純正メインユニットの音質性能はしれている。

ところが、ハイレゾ音源が登場して様相が変化する。「外付けDSP」にハイレゾ音源の再生が可能な「DAP(デジタル・オーディオ・プレーヤー」を接続してそれをソースユニットとして活用すれば、むしろ一層の高音質化が図れる。こうして音にこだわる層の多くは、「DAP」+「外付けDSP」のコンビを用いるようになり、今やこの形がハイエンドシステムにおいての1つのスタンダードともなっている。

以上が、「デジタル・プロセッサー」の登場から現在までの大体の変遷だ。なお昨今は、ハイレゾ音源の再生が可能なメインユニットが増えていることもあり、ハイエンドメインユニットもまだまだ高い人気を保っている。ゆえに「プロセッサー」も、「メインユニットに内蔵されたタイプ」と「外付けタイプ」この両方が存在していて、それぞれ使いやすいものが選ばれている。

今回は以上だ。次回も「プロセッサー」に関する“素朴な疑問”の解説を続行する。お楽しみに。

太田祥三|ライター
大学卒業後、出版社に勤務し雑誌編集者としてキャリアを積む。カー雑誌、インテリア雑誌、そしてカーオーディオ専門誌の編集長を歴任した後、約20年間務めた会社を退職しフリーに。カーオーディオ、カーナビ、その他カーエレクトロニクス関連を中心に幅広く執筆活動を展開中。ライフワークとして音楽活動にも取り組んでいる。

「デジタル・プロセッサー」が普及したきっかけとは…。「カーオーディオにまつわる“なぜ?”を解明!」Part2「プロセッサー」編 その3

《太田祥三》

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