厳しい冬が終わりまもなく春を迎えようかという3月中旬、長野県の白馬村において、ダンロップのオールシーズンタイヤ『オールシーズンマックスAS1』(以下AS1)をあらためて試す機会に恵まれた。
AS1が発売されたのは2019年10月。「急な雪にも慌てない長持ち夏タイヤ」をコンセプトに掲げるほどで、いくつかあるオールシーズンタイヤの中でも、かなり夏タイヤ寄りの性格が与えられているのが特徴だ。
雪上性能についても、夏タイヤに向く通常の路面から積雪路までをカバーするAS1のために開発された「超マルチコンパウンド」や、センター部分に刻まれたアグレッシブな横方向の溝により力強いトラクションとブレーキングを発揮する「スイッチ グルーブ」などの技術を採用しており、高速道路冬用タイヤ規制でも走行可能なスノーフレークマークも刻印されている。

ドライ性能については幅広センターリブやブロックのスクラム配置、ウェット性能についてはVシェイプ主溝や深溝設計により排水性を高めており、さらには諸技術の相乗効果で夏タイヤ以上のロングライフを実現しているというのもありがたい。
ハッキリとしたセンターリブがないように見えるが...
白馬といえば国内有数の規模を誇る多くのスキー場を周囲に眺めるロケーションだが、試乗した日の状況は、幹線道路は除雪が行き届いているものの、ちょっとわき道に入ると、まだけっこう雪が残っていた。しかも気温が6度~8度と高く、時間の経過とともに固まっていた雪が溶けだしてシャバシャバになり、かえって滑りやすい状態になっている箇所にも度々出くわした。

車両は現行『プリウス』と旧型『ヴェゼル』の4WDの2台。まず舗装路の印象を述べると、はじめてAS1を試したときはけっこう静かだと感じたように記憶しているところ、その後に出てきたライバルたちが頑張ったこともあって、相対的にAS1はロードノイズやパターンノイズがやや気になるように感じられたのが正直なところ。
ただし、本当に夏タイヤとなんら変わらない運転感覚は、相変わらずさすがのものがある。ケース剛性もブロック剛性も高く、操舵に対する応答にもあまり遅れが見受けられない。その点については、この種のオールシーズンの中でもAS1が最も優れているように思う。初めて試したときにも直感したAS1の美点は、改めてドライブしても変わらなかった。

トレッドを確認するとハッキリとしたセンターリブがないように見えるが、その部分が幅広いリブ状とされていて、走行時にもっとも路面と接地する部分の剛性が確保されている。これが中立付近のしっかり感や応答性にも効いているようだ。さらに、お互いが支え合うようにブロックが細分化されているのでパターン剛性も十分に確保されているという。
また、雪の残った路面を走ってみたところ、全く問題なく走れた。雪の状態は冬本番の圧雪とは全然違う水分の多い重々しい雪で、ざらめ雪になっていたり一部は溶けてシャーベット状になっていたりして滑りやすそうに見えのだが、不安な挙動を感じることもなく走破できた。ついでにまだ凍っていそうな路面も試してみると、さすがに雪上のようにはいかず、過信は禁物であることは言うまでもない。とにかく舗装路を夏タイヤと同じような感覚で走れたのに、こんなに雪上でも走れるのかと改めて感心した次第である。むしろ凍結路は無理でも、雪上なら並みのスタッドレスよりもよい面もあるように思えたほどだ。

さらに駐車場の特設コースを遠慮なく全開で走ってみたところ、これまた思ったよりも走れて驚いた。ましてや気温が上がって雪はさらにシャバシャバになり、条件としてはどんどん悪くなる一方であるにも関わらずだ。
排雪性のよろしくないタイヤだと溝に雪が詰まって前に進まなくなってしまうが、AS1はずっとタイヤが掻いている感覚があった。どうしてそんなことが可能になるかというと、掻ける状態が維持されたからで、ずっと同じようなペースで円旋回しつづけることができたのは、AS1のポイントである排水性が効いて、つられて排雪性も引き上げられているからに違いない。
トレッドを見て、触ってみて、納得

今回のイチバンの収穫は、思いがけずそれをつぶさに体感できたことかもしれない。とくに4WD性能を高めた後期型の旧型ヴェゼルは、コンパクトSUVとはいえ走破性も高くコントロールしやすかった。
さらにAS1のトレッドを見て、触ってみて、納得した。どうりで排雪性がよいわけだし、雪でもいかにもグリップしてくれそうだし、舗装路で夏タイヤのようなしっかり感があったのも、ちゃんと理由があることがうかがいしれた。
非降雪地に住んでいるが、たまに降る雪に備えておきたいという人や、これまでスタッドレスタイヤも用意していたが持て余している人で、オールシーズンタイヤに興味があるが、中でも舗装路でのドライバビリティを重視するという人へ。これから夏タイヤに履き替える人も多いことだろうが、AS1のようなタイヤも存在することを、ぜひ思い出してほしい。

岡本幸一郎|モータージャーナリスト
1968年、富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報映像の制作や自動車専門誌の編集に携わったのち、フリーランスのモータージャーナリストとして活動。幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもスポーツカーと高級セダンを中心に25台の愛車を乗り継いできた経験を活かし、ユーザー目線に立った視点をモットーに多方面に鋭意執筆中。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。