巨人と阪神がプロ野球における東西の雄だった時代は歴史の1ページに追いやられてしまった感があるが、自動車業界でも同様な存在がトヨタ『ハイエース』と日産『キャラバン』かもしれない。
トヨタ・日産を代表する商用バンの2大ブランドだが、販売台数ではハイエースの圧勝。いまさら比較するまでもなく勝負はついていると思う人は多いだろう。しかしキャラバンにもファンは多い。とくに2021年のモデルチェンジ後は、洗練されたデザインや先代モデルの課題改善、機能アップ、三菱のディーゼルエンジンバージョンの投入などもあり、出だしの販売は好調だという。
ハイエースとキャラバンの違いについて、主にスペック(諸元データ)をもとに考察してみたい。全体として大きな違いはないが細部の違いが、両者の個性に現れている。
比較は、「ハイエース・スーパーGL DX」と「キャラバンEX」とする。どちらもロングボディ・標準幅・標準ルーフ・5ドア(両側スライドドア)のモデルだ。両者ともに、ワイド幅・ハイルーフのモデル、装備が上級仕様となるモデルの設定もあるが、これらの機能や装備は必要に応じて個別にとりあげる。
◆基本スペック比較
基本的な諸元は以下のとおりだ。

ハイエース
寸法:全長4695mm×全幅1695mm×全高1980mm
ホイールベース:2570mm
乗車定員:2~5名
車両重量:1770~1930kg
最大積載量:1000・850kg
最小回転半径:5m
WLTCモード燃費:11.3km/L(ディーゼル)・9.2km/L(ガソリン)
最低地上高:195mm
荷室寸法:3000~1855mm×1520mm×1320mm
エンジン
排気量:2.8L(ディーゼル)・2L(ガソリン)
最大出力:111kW(ディーゼル)・100kW(ガソリン)
最大トルク:300Nm(ディーゼル)・182Nm(ガソリン)
キャラバン
寸法:全長4695mm×全幅1695mm×全高1990mm
ホイールベース:2555mm
乗車定員:3~6名
車両重量:1720~1940kg
最大積載量:1250~750kg
最小回転半径:5.2m
WLTCモード燃費:11.3km/L(ディーゼル)・8.3km/L(ガソリン)
最低地上高:160~170mm
荷室寸法:奥行3050mm×幅1520mm×高さ1325mm
エンジン
排気量:2.5L(ディーゼル)・2L(ガソリン)
最大出力:97kW(ディーゼル)・96kW(ガソリン)
最大トルク:370Nm(ディーゼル)・178Nm(ガソリン)
◆小回りが利くハイエースと10尺モノが積めるキャラバン
各諸元値だけみると両者の違いはどれも誤差範囲にも思える。ボディサイズはどちらも同じである。しかし荷室はキャラバンのほうが50mmほど長く、荷室高も5mmほど高い。荷室の高さは誤差の範囲と言えるが、キャラバンは10尺モノが荷室に積めることを特徴としている。また、タイヤハウスの上面がフラットになっており、この部分にも荷物を乗せやすいとする。
面白いのは、ホイールベースはハイエースの方が長いのに、最小回転半径はキャラバンより小さい。タイヤサイズは同じなので前輪の切れ角やホイールオフセットやサスペンションで工夫があるのだろう。
車両重量や最大積載量の違いは、主に乗車定員の違いによる。キャラバンは前列3×後列3という設定が基本だ。ハイエースは前列2×後列3というオーソドックスな乗員配置だ。2列目以降のシートの有無によって積載量も変わるが、前列以外をすべて荷室にした場合、キャラバンのほうがハイエースより250kgほど積載量が増える。また、キャラバンの2列目は分割シートになっているので、2列シート設定モデルにしても10尺モノの積載が可能だ。
◆エンジン性能はハイエースだがトルクフルなキャラバン
エンジン性能については、ガソリンエンジンはハイエースに軍配があがるようだ。出力、燃費ともにキャラバンを上回っている。ディーゼルの燃費(WLTC)はどちらも同じ11.3km/Lだが、トルクは三菱製のエンジンを搭載したキャラバンが圧倒する。キャラバンのディーゼルは2.5Lながら370Nmを発生するが、2.8Lあるハイエースのディーゼルは300Nmとなっている。
元来三菱エンジンはトルクが太く運転のしやすさに定評がある。ガソリン車を選ぶならハイエースのほうが燃費もよく使いやすそうだが、重いモノを積む用途ならキャラバンのディーゼルがいいだろう。
安全装備もほぼ横並びと言ってよい。ABS、衝突被害軽減ブレーキ、レーン逸脱警報、踏み間違い防止支援(ブレーキ介入)、坂道発進アシスト、横滑り防止・トラクションコントロール、アラウンドビュー、デジタルルームミラーなどが標準装備される。カタログでの違いを探すと、ハイエースは、衝突時にブレーキペダルがドライバーを攻撃しにくいようにブレーキブースターが持ち上がるようにして、ペダルがドライバー側にでない機構を採用している。キャラバンには、標識検知機能とドライバーの集中度を検知(ハンドル操作の微妙な変化)して警告する機能がある。
◆無難なハイエース、ユーティリティナットがうれしいキャラバン
キャラバンは新型になり、シートやステアリングポジションが乗用車寄りになっている。これは好みの問題だが、乗用車ライクに運転したいならお勧めだ。バスやトラックのように背中を起こしぎみな運転ポジションが好みならハイエースのほうが近いだろう。
商用バンのシェアやブランド、総合的な評価では「ハイエース」という答えになりがちだが、スペックベースに比較すると、両者に大きな違いはないことがわかる(フィーリング、慣れなどは除く)。評価ポイントを絞れば(ガソリン車の燃費、最大積載量など)細かい違いをみることができる。見えてくる特徴も変わってくる。
たとえば、キャラバンには「ユーティリティナット」というM6のボルト穴が荷室内に32か所空いている。ブースファスナーのようなブランクパネルで塞がれているが、ここにアイボルトやアンカー、ブラケット類など好きなものが取り付けられる。左右対称の位置にあるので、棚やポールを取り付けたり、荷室の分割がDIYできる。キャンパーや内装カスタマイズをしたい人にはかなりうれしいはずだ。
最後に、ハイエース、キャラバンともに改善を検討してほしいのは、追従型のクルーズコントロールの設定がないことだ。長距離移動の多い商用車こそ、ACCやプロパイロットの機能は必須と言える。レベル2の運転支援は、職人や事業者が嫌うのかもしれないが、高速道路巡航や渋滞走行でのドライバーの疲れ方は各段に改善される。安全運転、リスク回避に大いに役立つはずだ。