ヒトの移動とサービスの移動でMaaSタウンの実現へ…MONET Technologies 事業推進部 部長 上村実氏[インタビュー]

ヒトの移動とサービスの移動でMaaSタウンの実現へ…MONET Technologies 事業推進部 部長 上村実氏[インタビュー]
ヒトの移動とサービスの移動でMaaSタウンの実現へ…MONET Technologies 事業推進部 部長 上村実氏[インタビュー]全 3 枚

自動運転社会を見据えてモビリティサービスを提供するMONET Technologiesは、全国各地でオンデマンドモビリティや医療・行政を組み合わせたさまざまなサービスを起ち上げている。実際の取り組み事例と自治体の反響について、MONET Technologies 事業推進部 部長の上村実氏に聞いた。

上村氏は5月31日開催のオンラインセミナー 「自動運転・新モビリティ関連法改正/MONETの現在地とこれから」で、この内容について講演する。

公共交通をやめて全域オンデマンド導入へ

---:MONETの目指す社会として、「MaaSタウン」構想がありますが、まずはこれについてご紹介いただけますでしょうか。

上村:これからの社会は高齢者が増え、移動困難者も増えていきます。高齢者が免許を返納した場合、通院や行政手続き、公共の施設への移動、買い物などが非常に困難になってきて、最終的には移動困難者になる可能性があるのです。

こういった状況に対して、体が動けるうちは公共交通とモビリティを組み合わせて移動していただいたり、あるいはモノやサービスのほうを、必要な人のところまで移動して届ける、ということをMONETが提供していくという構想です。

---:モビリティを提供しつつ、必要な方にはサービスやモノのほうを人の前まで移動させるということですね。

上村:はい。現在約40の自治体で、実証実験や実際のサービスを提供しています。例えば福島県いわき市の事例があります。いわき市は30万人以上の都市であり、比較的人口が多いので、ヒトの移動、モノの移動、サービスの移動もトライアルをしながら、いわき市にマッチした最適なサービスを検証してる最中です。この中で、去年から今年にかけて、サービスの移動としての“移動市役所”に取り組みました。

また群馬県富岡市では、市内全域でオンデマンドバスを導入しました。基幹バス、コミュニティバスなど公共交通の稼働率が低かったため廃止となり、その後、デマンド型の乗合タクシー「愛タク」が導入されました。

---:基幹バスをなくしてしまったんですか?

上村:そうです。基幹バス、コミュニティバス、小規模に運用していたオンデマンドサービスをやめました。その後、市内全域を「愛タク」に一本化して再スタートしました。現在は乗降ポイントを市内に400カ所以上設けており、利便性が非常に上がりました。

基幹バスやコミュニティバスを運用していた時は、移動者はコロナ前で年間約2万4000人、コロナ禍においては年間約1万5000人に減少していました。昨年1月から市内全域で「愛タク」がスタートしたのですが、引き続きコロナ禍ではあるものの、移動者が4万人以上に増加しました。

アンケートでは97%の方が満足してるという声をいただいてますし、70歳以上の方においては100%の方が満足、という結果が出ています。デジタル化の観点では、乗車予約を電話だけでなくアプリでもできるようにしたのですが、アプリの利用率がおよそ半分ぐらいでした。残り半分は電話予約ですので、更に改善の余地があると考えてます。

---:高齢者の方は電話予約が多いかもしれませんね。

上村:まずはスマートフォンを使い始めることが重要だと考えています。例えば70歳の人がスマートフォンを使わないで100歳まで生きると、30年間もスマートフォンの便利さを享受できないということになるので、MaaSという便利なものを使うことを、スマートフォンを利用する1つのきっかけにしていただきたいと考えています。

---:デジタル化と言っても、まずスマートフォンを使うところから始まるんですね。

上村:そうですね。例えばテレビのリモコンや銀行のATMはご高齢の方でも使いますよね。スマートフォンも実は同じようなものだと捉えていただければと思ってます。

それから、移動が増えたことによる変化・効果でいうと、4万人も動いているので、買い物の機会が増え、結果的に客単価も上がりました。地域のスーパーやコーヒーショップでも売り上げ単価増という経済効果があったと聞いています。

---:富岡市が成功したのは、オンデマンドモビリティを全域で導入したことが理由なのですか。

上村:それも理由の1つだと思います。ただ、どの自治体も全面的にオンデマンドに切り替える、ということではありません。もっと大きな街では大量輸送が必要になるので、例えば沼田市、嘉麻市の場合は、幹線の大量輸送のバスは残しつつオンデマンドを入れて、ハイブリッド型にしています。

---:地域の特性に合わせて入れ方を変えているのですね。富岡市の愛タクの場合は、1回乗るごとに料金を払うシステムですか?

上村:そうです。愛タクは1回100円です。最寄りの乗車ポイントから乗って指定した目的地に向かうという形です。何人か乗り合わせた場合は、その都度最適なルートを引いて走ります。

ヒトの移動とサービスの移動

---:サービスの移動を組み合わせた事例にはどのようなものがありますか。

上村:ソフトバンクが、MONETのマルチタスク車両を使った「スマホなんでもサポート号」というサービスを今年から開始しました。簡単に言うと移動スマホ教室ですね。ソフトバンクにはスマホアドバイザーが約1200名おりますので、この方たちが車両の中にいる市民に対して、サポートしていくというものです。

車の中は3つブースがあり、それぞれお客様がスマホを見ながら、スマホアドバイザーのアドバイスの下、使い方を覚えていきます。4月から全国10地域でこれを開始し、まずは富岡市からスタートしました。

次に医療MaaSや行政MaaSの事例です。医療MaaSは遠隔医療サービスに近いものですが、遠隔医療と違うのは、地元の医師が地元の患者を自分の病院から診るということです。遠隔医療というと、東京の医師が地方の患者を診て、地方の患者のマーケットを奪ってしまうイメージがあるのですが、我々のサービスでは、地元の医師が地元の患者を診ます。

地方医療の課題のひとつに、医師不足で訪問診療ができないというものがあります。この場合、看護師が医療MaaS車両で患者のところへ行き、医師が遠隔で診療しながら看護師が医療行為をするという形です。この事例は伊那市で実施しています。昨年の診察実績では200症例ありました。参加している医療機関も8つあります。

ヒトの移動とサービスの移動でMaaSタウンの実現へ…MONET Technologies 事業推進部 部長 上村実氏[インタビュー]ヒトの移動とサービスの移動でMaaSタウンの実現へ…MONET Technologies 事業推進部 部長 上村実氏[インタビュー]

それから新しいユースケースとして、産後検診を昨年の11月から始めました。産まれたばかりの赤ちゃんを車に乗せて自分で運転して産婦人科へ行くのは、母親にとっては負担感があります。一方、近くまで医療MaaS車両が来てくれるのは安心安全なため、とても喜んでいただいています。この産後検診の評価が高かったため、妊婦検診も準備中です。

---:医療MaaSの車両では、簡単な医療行為のための設備が整っているのですか。

上村:設備は整っています。治療の範囲については医師に任せていますが、基本的にはセミオーダーの形で設備を準備しています。

また三重県の事例では、オンライン診療以外に、健康相談をしています。病院に行くほど悪化する前に、未病対策の効果を考えた試みです。悪化してしまうと治療費が増えて自治体の支出が増えるので、そこも抑制する効果があります。

---:地域の高齢者の方々が医療MaaS車両に乗り込んで、医師の健康相談を受けるという感じでしょうか。

上村:そうですね。元気?調子どう?といった声掛けからやっています。例えばゲートボール場にはご高齢の方が集まるので、そこに医療MaaS車両を配備して、利用者に乗っていただいて健康指導をしています。

---:なるほど、面白いですね。

上村:それから行政MaaSの事例です。これは移動市役所のようなもので、市役所の機能の一部を車の中に実装しています。いわき市ではマイナンバーカードの申請受付や住民票の発行、オンラインの模擬選挙もトライアルしました。

---:動く出張所のような役割ですね。

上村:そうですね。3月16日には東北地方で大きな地震がありましたが、その時にすぐに車を借りたいということで、車両を配備しました。目的は罹災証明です。罹災された方は市役所に行く余裕がないので、市役所のほうから現地に出向いて罹災の相談を受けることをやっています。

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それから北海道の安平町ではマイナンバーカードの申請受付をやりました。実は安平町のマイナンバーカードの発行数は1年間で1000枚ぐらいだったのですが、移動市役所を導入したら、2週間で400枚も申請されたということで、非常に高い成果が出ました。

---:町役場がすごく遠いのでしょうか。

上村:特別遠いということではありませんが、行かない理由をアンケートで聞いたところ、結果的には単に面倒だということでした。地元の公民館まで移動市役所がやって来たので、じゃあ公民館に行くだけならやるか、ということで皆さん来てくれたようです。

---:なるほど。お話を聞いていると、単に“移動したい”というニーズに応えるだけではなく、特に医療MaaSや行政MaaSで、これまでになかった利用シーンを新しく掘り起こしていますね。

上村:そうだと思います。医師が車に乗って診療するというのは昔からある訪問診療ですが、医師は動かずに、看護師が患者のもとに行って医師のサポートをするという形は新しいサービスだと思います。医療MaaSは徐々に案件が増えてますね。

車両は大きければいい、ではない

---:わかりました。最後に車両についてお聞きしたいのですが、ベースはハイエースを使っているんですね。

上村:ハイエースがほとんどです。あとは日野「ポンチョ」も一部ありますね。

---:いろいろな使い方を想定すると、車両の大きさやコスト、柔軟性などでハイエースの大きさが便利だということですか。

上村:そうですね。バスだと二種免許が必要なので、これぐらいのサイズがベターです。大きければ良いわけではないですし、かといって小さすぎると提供できるサービスも限られてくるので。

そして同時に、車内に何を装備するのかが重要です。例えば移動市役所をやろうとすると、証明書の発行や住民票の発行は一見単純そうなんですけど、VPNの環境が必要です。個人情報を扱うためセキュアな環境が必要となります。そういう部分に手間もお金もかかります。

---:そういうノウハウも含めてサービスという形になっているんですね。

上村:そうですね。医療にしても移動市役所にしても、車両だけではなく設備のノウハウやサービス設計の経験値が重要だと思います。

上村氏が登壇するオンラインセミナー 「自動運転・新モビリティ関連法改正/MONETの現在地とこれから」は5月31日開催。

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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