ドンッ、と衝撃音が聴こえた。タクシーを待っていた深夜の六本木。音が鳴った方に目を向けると、信号待ちをしていたハッチバックに後ろから追突した電動キックボードが路面に転がっていた。数秒前に筆者の前を通り過ぎたそのキックボードは、片手にスマートフォンを持ち、もう一方の手でハンドルを握る青年が運転していた。危ないな、と思っていた矢先のことだった。
衝突寸前に気が付いたのだろうか。青年は飛び降りて着地し、転がったキックボードを引き起こしてすぐ、反対車線に飛び出してすぐ先の路地を曲がって逃げていった。ドアを開けてハッチバックから降りようとしていたドライバーは、怒りの声を上げながら運転席に戻り、車を発進させたが、あの路地の先はさらなるいくつもの細い路地が交差している。追いついて捕まえられるとは思えなかった。
いま流行の電動キックボードだが、普及に伴って、悪質な事故が急増している。
2024年には公道を走る電動キックボードが急増する見込み

4月19日、電動キックボードをはじめとした新タイプのモビリティの車両区分を定める道路交通法の改正案が衆院本会議で可決した。電動キックボードは従来、50cc以下のバイクやスクーターと同じ第一種原動機付自転車(以下、原付一種)に分類されており、走行は車道のみ・最高速度は30km/h以下・ヘルメットの装着と運転免許が必須という決まりがあった。
新たに創設される特定小型原動機付自転車の区分に含まれる電動キックボードは、最高速度が20km/h以下に制限され、自転車レーンの走行が可能。また、最高時速6km/h以下であれば歩道走行も可能・ヘルメットの装着義務はなくなり、推奨にとどまる。そして、16歳以上であれば免許がなくても運転が可能となる。原付一種と自転車の間を埋めるモビリティとして認めようという流れだ。
この特定小型原動機付自転車に関する改正案は2024年5月までに施行される見込みで、今すぐ適用されるものではないが、今後は特定小型原動機付自転車のルールに則った電動キックボードが開発・量産されることとなる。それに伴い、車道を行く電動キックボードの台数も増えていく。既存の電動キックボードの大半は海外メーカー製だったが、国内メーカーもあらたなビジネスチャンスを狙ってくるだろう。
しかし、諸手を挙げるのはまだ早い。
ルールを守らない電動キックボード利用者

経済産業省が推進している「産業競争力強化法に基づく新事業活動計画」をもとに、一部都市圏でシェアリング電動キックボードの実証実験が進められている。エリア内の駐車ポートであれば好きな場所から乗り出して、好きな場所で返却が可能なサービスだ。
スマートフォンアプリで予約・決済できることから、利用するのが極めて簡単。最高時速15km/hまでに制限されているが、ヘルメットを着用せずに利用可能なことから、繁華街や観光地の移動手段として注目が集まっている。

しかしこのシェアリング電動キックボード、法律を無視して自由勝手に乗るユーザーが目立つ。歩道上をハイスピードで走る、二人乗りをする、一方通行の道を逆走する、飲酒運転をする、ひき逃げをする。そして冒頭で記したような事故も起きているのが現状だ。
シェアリング電動キックボードのユーザー登録時には、スマートフォンアプリ上で実施される道交法と実証実験に関連したテストを受けなくてはならない。もちろんすべて正解しなければユーザー登録できないのだが、筆者が確認したサービスは回答が間違っていたときに正解を伝えて、すぐに再テストできるようになっていた。
主観ではあるが、ザルだと感じる。シェアリング電動キックボードの事業者の、あたかも「我々は必要事項をきちんと伝えた。正しく啓蒙活動をしている」と言わんばかりのポーズに見えてくる。

宅配業者向けの自動配送ロボットも、サイズやモーターの出力、制限速度などのルールを満たすものであれば、シートがあるスクーターも4輪のシニアカーも特定小型原動機付自転車の枠組みに含まれる。手軽に乗れるモビリティは過疎化が進む地域のラストワンマイルを満たす存在となることが期待できる。
しかし、現時点において電動キックボードの利用者のマナーが伴っていない。この事実をシェアリング電動キックボード事業者と、警察庁、自治体は重く受け止めるべきだ。筆者は個人的に原付一種の電動キックボードを日常的に使っており、利用方法さえ間違えなければ価値のあるモビリティだと認識しているだけに、ルールを守る利用者が増えるように関係者による積極的な啓蒙活動、または道交法違反時に適切な罰則を科せることを期待したい。