高齢者の免許制度改定と「サポートカー限定免許」注意すべき点とは【岩貞るみこの人道車医】

運転技能検査を実際に体験して納得

「サポートカー限定免許」の注意すべき点

若い世代の事故にも目を向けるべき

高齢者の免許制度改定と「サポートカー限定免許」注意すべき点とは(写真はイメージ)
高齢者の免許制度改定と「サポートカー限定免許」注意すべき点とは(写真はイメージ)全 2 枚

2022年5月13日、改正道路交通法が施行され、高齢者の運転免許制度が改定された。

これまで、70歳以上(75歳以上は認知機能検査で認知症のおそれがない人)は高齢者講習が義務付けられ、(1)講義(座学)、(2)運転適性検査、(3)実車指導が行われていたが、今回、新たに、75歳以上で一定の違反歴がある人に対しては、この高齢者講習の前に、実車で規定のコースを走る運転技能検査が追加された。

認知機能の有無にかかわらず、実際に運転できるのかを確認する流れは、池袋や福岡で続けざまに起きた高齢者による死亡事故の影響は否めない。特に池袋の暴走事故では運転手に認知症は認められないものの、両手で杖をつき脚を震わせながら歩く姿が繰り返し報道され、免許制度の不備を指摘する声が高まった。

一定の違反行為とは、信号無視、通行区分違反、交差点右左折方法違反など、将来重大事故を起こす危険性が高い11個。新たに設けられた運転技能検査は、指示速度による走行、一時停止、右折・左折、信号通過、段差乗り上げなどが含まれたコースで、100点からの減点法だ。信号無視をして横断歩道に突っ込んだ場合はマイナス40点で一発アウトである。合格点は、第一種免許は70点以上、第二種免許は80点以上が合格となっている。

運転技能検査を実際に体験して納得

この運転技能検査、受かるまで何回でも繰り返すことができる。甘すぎるという声も聞こえてくるため、教習所の協力を得て実際のコースを走らせてもらった。私は仕事がら、さまざまなクルマに乗るけれど、隣に怖そうな教官、初めてのコース、落ちたらなにを言われるかわからない……などから緊張感は高まるばかり。一応、満点で終えたものの、乗りなれた自分の軽自動車から、ひとまわり大きくシフトレバーの位置も異なる普通乗用車を運転させられる高齢者にはハードルが高いことはよくわかる。ゆえに、何度かトライできるシステムは納得できると感じた。

今回のコースには、高齢者のアクセルとブレーキの踏み間違えを考慮し、段差乗り上げ試験が組み込まれている。ペダル踏み間違え事故は10代でも起こしているが、反射神経のいい若い世代に比べて高齢者は、踏み間違えに気づいたあと対応するという動作がにぶくなる傾向にあるからだ。

内容は、アクセルを踏み込まないと上がれないくらいの段差の前で止まり、アクセルを踏んで前輪が乗り越えたら即座にブレーキを踏むというもの。この課題にクリアできれば、反射神経や動作の正確性は、かなり確認できると思われる。

今回の高齢者講習改定により、運転技能の有無を自身も周囲もより把握できるようになり、免許返納の意識が高まることを期待している。

「サポートカー限定免許」の注意すべき点

歩行者を認識して衝突被害軽減ブレーキを作動させるスバルのレヴォーグ歩行者を認識して衝突被害軽減ブレーキを作動させるスバルのレヴォーグ

さて、今回は同時に「サポートカー限定免許」も追加された。注意してほしいのは、「サポカー」ではなく「サポートカー」という部分だ。サポカーは経産省と国交省が、被害軽減ブレーキやペダル踏み間違えによる加速抑制機能などを装着したクルマの普及を目指してつけた愛称だが、この場合、被害軽減ブレーキに対人までは含まれていない。

一方、今回、警察庁が定義するサポートカーの被害軽減ブレーキは、「対人機能がついたもの」と定義されている。また、後付けの装置は現時点では認められていない。

サポートカー限定免許は、その名の通りいわゆる限定免許で、運転免許証の免許の条件等、「AT免許に限る」「中型車は中型車(8t)に限る」とある部分にサポートカーの文字が入ることになる。

また、高齢者用と誤解されがちだが、だれでも申請すれば条件が付与される。申請は免許更新時だけに限らず、普通免許を所持していればいつでも無料で行うことが可能だ。サポートカー限定免許の取得後でも、限定解除の教習を受ければ、解除することができる。

サポートカー限定免許を取得後、気を付けたいのは、レンタカーやシェアカー、友人のクルマなど、警察庁の定義するサポートカー以外のクルマを運転すると、条件違反になるということだ。自分のクルマを購入するときだけでなく、どんな機能が搭載されているのかしっかり確認をして運転するようにしたい。

若い世代の事故にも目を向けるべき

運転できるクルマの選択肢が厳しくなる今回のサポートカー限定免許、選ぶ人はいるのだろうかという声もある。ただ、運転が不安な人、さらにその家族(高齢の親や免許とりたての子ども)に、より安全なクルマを運転したい、させたいという声は多い。免許制度がそれを後押しするのなら、価値は十分にあると思う。

さて、高齢者の免許制度はじわじわとではあるが、整備される方向にある。しかし、免許取り立ての若い世代が起こす重大事故も後を絶たない事実にも目をそらしてはいけない。自動二輪の場合、免許取得後一年間は二人乗りが禁じられており、さらに高速道路は、免許取得後三年以上、かつ、二十歳以上でないと二人乗り走行ができないとなっている。こうした、若い世代のはじけた運転による事故を防ごうという制度、普通自動車についても、そろそろメスを入れて欲しいと感じている。

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。最新刊は「世界でいちばん優しいロボット」(講談社)。

《岩貞るみこ》

岩貞るみこ

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家 イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。著書に「未来のクルマができるまで 世界初、水素で走る燃料電池自動車 MIRAI」「ハチ公物語」「命をつなげ!ドクターヘリ」ほか多数。2024年6月に最新刊「こちら、沖縄美ら海水族館 動物健康管理室。」を上梓(すべて講談社)。

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