「賛否両論は想定済み」ホンダ『ホーク11』開発者のこだわりと「思い切り」

独特なデザインは社内からも賛否両論

「ロードスポーツ」であること、兄弟車との差別化の苦労

「逆に」思い切ってこだわれたスタイリング

ホンダ ホーク11と開発メンバー
ホンダ ホーク11と開発メンバー全 32 枚

先頃、ホンダのロードスポーツ『ホーク11』(139万7000円)の発表試乗会が開催された。その走りは、鋭過ぎず、穏やか過ぎない、ちょうどいいスポーティさが好印象だった。発売は2022年9月29日と、もう少しの先のこととはいえ、残暑が和らいだ心地いい季節に投入されることになる。この秋、ワインディングを颯爽と駆け抜けるホーク11の姿を、あちらこちらで見ることになりそうだ。

試乗を終えた後、開発責任者代行の吉田昌弘さん(本田技研工業ものづくり統括部)を筆頭とするエンジニア諸氏に、話を聞くことができた。

独特なデザインは社内からも賛否両論

ホンダ ホーク11ホンダ ホーク11

----:試乗前の技術説明会において、「賛否がいろいろあった」と話されていました。新車発表の場で、あのような発言が出るのはかなり珍しいことですが、それはつまり「賛」よりも「否」が強かったと想像します。具体的にはどのようなものだったのでしょう?

「やはり見た目ですね。車体前半と後半でデザインがバラバラだとか、エンジンもフレームも流用じゃないかとか、そういう声を多数頂戴しました」

----:社内の評価は?

「これもやはり賛否がありましたが、その反面、気に入ってくれた人の熱量は高かったですね。開発中に何度も見にきてくれたり、スペックや価格がどうなるのかを気にしてくれたり。“出たら買うよ”と言ってくれた人もかなりいて、元々好き嫌いがはっきりと分かれることは想定していたのですが、市場においてもその通りになりそうです」

----:デザイン面の象徴がロケットカウルだと思います。このアイデアはいつ、どのようにして生まれたのでしょうか?

「最初からです。ベテランライダーをターゲットとした時に、やはりこうした造形は外せないもののひとつですし、スポーツ性を演出するためにも、パーソナルな空間を作り出すためにも必須のアイテムだと考えました」

「ロードスポーツ」であること、兄弟車との差別化の苦労

ホンダ ホーク11ホンダ ホーク11

----:ベースはあの『CRF1100アフリカツイン』です。ビッグアドベンチャーをロードスポーツに作り直すこと自体、様々な苦労があったのではありませんか?

「アドベンチャーにもロードスポーツにも、それぞれに求められるディメンションがあるわけですが、ホイール径をどうするか、サスペンションのストローク量をどれくらい確保するかがある程度決まるとキャスター角の問題に行きつきます。結果、アフリカツイン比で2.5度立てた25度に設定して試作したところ、最初からかなり完成度が高く、出だしは思いのほかスムーズでした」

----:とはいえ、キャスターを立ててOKというわけにはいきませんよね?

「アーキテクチャープロジェクト(既存の車体を活用し、異なる位置づけのモデルへと派生させるものづくり)の一環という前提があります。つまり、変えるべき部分とそうでない部分のさじ加減が難しかったのですが、ロケットカウルに見合うスポーツ性を引き出すためにトップブリッジを新作し、細かいところではラジエターカバーの造形や角度にもこだわって、ハンドリングをまとめています」

開発責任者代行 吉田昌弘さん開発責任者代行 吉田昌弘さん

----:試乗では高低差のあるワインディングを行き来し、上りでは自由度が高く、下りでは安定性に優れたハンドリングを楽しみました。たとえば同じくアフリカツインから派生した『NT1100』とは、どのような違いがあるのでしょう?

「車重は、NT1100が248kg、ホーク11が214kgとかなり異なっているわけですが、フロントへの荷重配分はNT1100が50.8%なのに対し、ホーク11は51%とややプラスしています。このあたりの微妙なバランスが軽快感と安定感の両立として表れているのではないでしょうか」

----:スーパースポーツとは異なり、速度域が低くてもコーナリングの醍醐味を堪能できるところがいいですね。

「バイクとの対話を楽しめるハンドリングを目指しました。フロントにもう少し荷重を残して曲がってみようとか、スロットルをワイドに開けてトラクションを高めようとか、そうやってライディングに積極的に介在し、“バイクってこうだよね”というワクワクを感じて頂けると嬉しいです」

ホンダ ホーク11ホンダ ホーク11

----:エンジンに関して、なにか苦労された点はありますか?

「基本的なスペックはNT1100と同一ですが、吸気系がまったく異なっています。燃料タンクの高さが低く、必然的にエアクリーナーの容量が圧迫される中、スペック維持のために色々と試行錯誤を重ねました」

----:そこに関しては、かなりプレッシャーがあったと聞きました。

「限られたスペースを活かし、いかに効率よくエアクリーナーボックスを配置するかは結構な難題で、結果的に製法そのものを、通常のインジェクション成形からブロー成形に見直しました。周囲とのやり取りは、この部分のメールだけでも300往復以上になったと思いますが、なんとか形にできてよかったです」

「逆に」思い切ってこだわれたスタイリング

ホンダ ホーク11ホンダ ホーク11

----:冒頭で触れて頂いたスタイリングに関しても、かなりの侃々諤々があったのではないですか?

「そこに関しては逆に思い切れたといいますか、デザイナーのひらめきを可能な限りスポイルしない方向で進めることができました。面がきれいにつながっているべき部分をズバッと分断するなど、幅広いお客様のことを考えると本来なら避ける手法を選択し、コンサバ路線ではカバーしきれない層をホーク11ですくい上げようと。ですから、賛否両論があるのは当然だと考えています」

----:ミラーにも、そうした強い意志が見て取れますね。

「せっかくFRPを用いて継ぎ目なく成形したロケットカウルですから、その意匠に極力影響を与えたくありません。だとすると、ミラーをカウルにマウントすることはあり得ませんし、だからといってバーエンドもありきたり。それこそ、ありとあらゆる論議の末に今のこの形と位置に落ち着きました」

----:そのこだわりは、実際に乗って見てみるとよく分かります。視界はしっかりと確保され、しかもブレもありませんからすぐに慣れますね。機能とデザインがバランスしているだけでなくカスタムっぽさもあり、ロケットカウルの曲面も邪魔していません。良くも悪くも優等生であることが望まれがちなホンダですが、ホーク11によって今までにない一面を見ることができました。今後の展開も期待しています。

ホンダ ホーク11ホンダ ホーク11

《伊丹孝裕》

モーターサイクルジャーナリスト 伊丹孝裕

モーターサイクルジャーナリスト 1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

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